第1606話:アヒルとワイバーン
フイィィーンシュパパパッ。
魔境から帰宅後、ヴィルと塔の村にやって来た。
「さて、まずデス爺を探さないとな」
「探すまでもないぬよ?」
「太陽の位置、角度、皮膚表面の反射率がパーフェクトだなあ」
「ハゲが眩しいぬ!」
「率直に表現できるのはいいことかなあ?」
まあ正直はヴィルの芸風だからな。
ちょうどリリー達もおるやん。
輝きに導かれて進め。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「む? ユーラシアか」
あれ、デス爺が意外そうな顔してる。
何故だ?
今日はやかましくなかったから、あたしっぽくないって?
あたしだってお淑やかを前面に出したい日もあるよ。
デス爺の頭部から放たれる浄化の光線を浴びたしな。
気が削がれたとゆーか、毛が削げてるとゆーか。
「見違えたよ。随分と精悍になったねえ」
「そうであろう!」
リリーが胸を張る。
メルヒオールさんから預かった、ゼムリヤの魔物退治要員の三人のことだ。
レベル的にはようやく中級冒険者ってとこだが、まずまず油断のない様子が見て取れる。
黒服に大分しごかれたな。
ビシッとした姿勢を見ると、冒険者としてではなく、メルヒオールさんの傍らに控える兵士として鍛えられたということがわかる。
「あたしもリリーくらいあったらな」
「何の話だの?」
「おっぱいの話だよ。そんだけ胸張ってると気になるんだわ」
アハハと笑い合う。
恥ずかしそうにしてたっておっぱいは萎みゃしないわ。
しかし魔物退治要員も、せっかく弱い魔物から順に戦える塔の村なんだから、もうちょっと冒険者っぽく育ててやりゃいいのになとは思った。
リリーが昼まで起きてこないから午前中はダンジョンに入らないこと。
メルヒオールさんの近衛的な扱いになるから、みっともなくないようにしたいという黒服の配慮の、両方のせいだろう。
「じっちゃんにお土産があるよ。転移の玉の設計とかで働いてもらってるからさ」
「何じゃ?」
「ガリアのお酒。王様にもらったんだ。かなりの高級品も含まれてると思う」
「ほう、ありがたいことじゃの」
ナップザックからゴソゴソ酒瓶を取り出すとデス爺が目を細める。
こんなに嬉しそうなデス爺初めて見たぞ?
「黒服さんの反応からすると、これとそっちのやつは結構なお酒みたい」
「ともに五〇年以上は経過してる熟成酒ですね。素晴らしく深みのある色です。手に入れようとしても不可能だと思いますよ」
「そうかそうか」
マジで上機嫌だな?
ヴィルがピタッとくっついて離れないやん。
「じっちゃんにはまだまだ働いてもらわないといけないから、またどっかでいいお酒を手に入れてくるよ」
「うむ、期待しておるぞ」
期待されちゃてるぞ?
南部で作ってるやつとかドワーフのお酒とか飲んだことなさそう。
ガータンのヒョウタン酒もいいな。
考えてみりゃお酒なんかどこにでもあるわ。
デス爺へのお土産は全然困らんわ。
「さて、行こうか。さっき魔境でワイバーンの卵取ってきたんだ。メルヒオールさんへのお土産、とゆーか昼に食べようかと思って」
「おお、そうか! 早くゼムリヤへまいろうではないか!」
リリーはワイバーンの卵が好きだなあ。
新しい転移の玉を起動し、一旦ホームへ。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
新しい転移の玉を繰り返し使用して、リリーと黒服、魔物退治要員三人、それとうちの子達を連れて、ゼムリヤの宮殿にやって来た。
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
あっちでもリリーがメルヒオールさんに飛びついてるわけだが。
「ふむ、大分鍛えられたようだな」
魔物退治要員三人を見たメルヒオールさんが満足げだ。
いや、満足げなのはリリーがぎゅーしてるからか?
「これお土産だよ。ワイバーンの卵」
「早速昼食を用意させよう」
「やったあ!」
計算通りだ。
食べるぞー!
◇
「ごちそーさまっ! 満足です!」
「満足だぬ!」
ゼムリヤのソバは実においしいなあ。
マジでドーラでもソバ作りたくなるんだが。
でも今は収量の多い作物を作って、移民に食べさせることを優先しなきゃなんないし。
「ところでこれ、入ってたのは何の肉なの? 鳥っぽいけど、ニワトリじゃないよね?」
「アヒルの肉だ」
「アヒル?」
渡り鳥であるカモを飼い馴らしたものだそーな。
帝国では広く飼われているという。
へー、そんなんがいるとは知らなんだ。
リリーが言う。
「ドーラでアヒルは見かけぬな」
「どっかで飼われてるのかもしれないけど、メジャーではないねえ。ドーラで飼われてる鳥といったら、ニワトリかウズラくらい。他の鳥を食用として飼ってるのは見たことないな」
アヒルは脂が乗ってるし、クセがなくておいしい肉だ。
ぜひドーラにも導入し、普及させたいが?
「育てるのは難しいの?」
「丈夫で簡単だぞ。ニワトリの食べるものなら大概は食べる。注意が必要なのは、水浴びをさせる場所が必要なことだな」
「うんうん、カモだもんな」
池が必要ということだ。
どう考えても池を用意しなきゃならんとゆーところがネックか。
ニワトリの飼育に比べて面倒だな。
でも場所を選べばイケそう。
「あそこなら飼えるのではないか? ほれ、ぬしの名のついた盗賊村」
「その言い方は誤解を招くだろーが」
自由開拓民集落ユーラシアか。
確かにあそこには豊富な温水がある。
「いずれ勧めてみるよ。今はあそこもニワトリの飼育に一生懸命のはずなんだ。飼育の手が分散するのはよろしくないから、先の話になるけど」
「ワイバーンの飼育はどうにかならんか? 定期的に卵を食したいのだ」
「絶対にムリだー」
「ムリだぬ!」
大笑い。
もーリリーはワイバーンの卵好きなんだから。
あたしだって卵取るためにワイバーン飼いたいわ。
でも一般に凶暴とされる亜竜だぞ?
あんな性格の荒い魔物は到底飼えんわ。
皇宮の地下でも、ワイバーンはいなかったぞ?
メルヒオールさんが魔物退治要員三人を見渡して言う。
「さて、寛いでいるところすまんが、諸君らの実力を見せてもらわねばならん」
ほう、いきなりか。
居住まいを正す三人。
「今から聖モール山麓付近で、諸君らに魔物狩りを行ってもらう」
「「「はい!」」」
「ユーラシア、飛行魔法で運んでもらっていいか?」
「もちろんだよ」
「リリーも行くか?」
「もちろんなのだ!」
ピクニックだ。
楽しくなってきたぞ。




