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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1604話:黄金のワンパターン

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


「最近、空き時間に魔境というパターンが当たり前なんだよね。美少女精霊使いパーティーの黄金のワンパターン」

『要するに稼げるから黄金なのかい?』

「そーとも言う」


 アハハ、魔宝玉のワンパターンだと語呂が悪いから。


『何か不都合があるのかい? 稼げてリラックスできるなら、これ以上ないほど幸せじゃないか』

「サイナスさんはわかってるなあ」

『頭の中で理解してるだけだ。魔境でリラックスというのは何度聞いても納得できない』

「魔境に連れてってくださいのフリに聞こえるんだけど?」

『全力で遠慮する』


 何なのだ一体。

 魔境はいいところだとあたしが力説しているだろーが。


「魔境がいいところってのは理解しづらいかもしれんけど、少なくともあたしにとって都合のいい場所なんだよ。ユーシー?」

『アイシー』

「あたしみたいな兼業冒険者にはピッタリ。ところが奇怪なことに、魔境で他の冒険者に会うことはひっじょーに少ないの」


 おゼゼも経験値も稼げるとゆーのに、魔境に行かない理屈がどこにある?


『『アトラスの冒険者』は、クエストをクリアするほど新しい転送先が増えるんだろう? ならば魔境よりも最新クエストを優先しそうなものじゃないか』

「有力な仮説だね。でも……」


 レベルが上がってから回されるクエストは、完了するまで時間かかるやつが多いけどな?

 いくつかセットみたいなのもあるし。

 空き時間に魔境に来てもいいようなものだが、どうもあたし以外に魔境愛好者がいないようだ。


『あるいは魔境よりも稼げて面白い転送先を持っているとか』

「あれ? それは羨ましいな」


 魔境よりいい場所があるなら、新『アトラスの冒険者』の転移先として有望なんじゃないかな?


「あたしの最初のクエストはスライムだったんだよ」

『話が巻き戻ったなあ。スライムが出現して困っています、退治してくださいってやつかい?』

「そうそう。『スライム牧場』ってとこ」

『えっ、牧場? よくわからない』


 撹乱話法だとゆーのに。


「素材を取るためにスライムを飼育してるところがあるんだよ。脱皮した皮がそのまま『スライムスキン』になるから、殺さなくていいという」

『ほう? スライムは弱いかもしれないが、魔物は魔物だから、飼うのは大変だろう?』

「ところが品種改良した大人しいスライムなの。邪気がなくて人懐っこくて、ムイムイ言いながら頭撫でられに寄ってくるような。牧場主のお爺さんも、腹さえ満ち足りているなら人を襲ったりしないって言ってたな」

『退治関係ないじゃないか』

「いや、牧場のあるとこはスライムにとって居心地のいい土地らしくて、野生のスライムも湧くんだ。せっかく品種改良したスライムが先祖返りしてもまずいじゃん?」

『ははあ、興味深い』

「あたしも最初のクエストだから、要領がわかんなかったんだよね。でもスライム特攻の武器装備してたから簡単に倒せる気でいてさ。魔物は舐めちゃいけないとゆーことをその時学んだ」


 スライムは割と素早いし、ヒットポイントは多めで自動回復持ちだ。

 今から考えてみると、最弱と呼ばれる部類ではあっても、何も知らない素人にとってはクセのある魔物だった。

 攻撃力防御力は低いから、防御力アップの装備を持っていなかったクララが攻撃を食らいさえしなければ、さほど苦戦しなかったと思う。

 敵を知り己を知ることは大事。


『君いつも魔物を舐めてるじゃないか』

「何故かそー思われること多いな。何でだろ? 十二分の勝算があるから肩の力が抜けてるだけだとゆーのに」


 『デスマッチ』や『ド素人』のような、危険なパワーカードを使用する時も確かにある。

 しかしあたしは基本的に慎重派なのだ。

 その証拠にいつも逃げることを選択肢に入れており、クララから『逃げ足サンダル』のパワーカードを外させたことはない。


「昔のクエストであっても、あとから行くことは多いんだ」

『つまり『スライム牧場』にも用があると?』

「うん、さっすがサイナスさん。わかってるねえ」

『ハハッ、『スライムスキン』でも買いに行くのかい?』

「とゆーわけではなくて。三日後に帝国の皇族貴族を『スライム牧場』に案内することになった」

『どうしてそうなる?』

「流れで」


 としか言いようがないんだが。

 物事をイベントにするのが好きだとゆーことは否定しない。


「貴公子こてんぱんイベントのトリの騎士ライナー君の妹がスライム好きなんだって。今日知り合ったの。帝国では魔物を見世物にしたり、ステータスとして飼ったりすることあるんだけど、さすがにスライムに触ったことはないからさ。牧場に見学に行こうってことになった」

『皇族とは?』

「今日もう一人、第一皇女ヴィクトリアさんって人に会う機会があった。この人はリリーの母ちゃんの前の正妻の子だから、今のカレンシー皇妃系の皇子皇女とは対立してる。でもまあ悪い人ではないな」

『ふむ?』

「で、このヴィクトリアさんが本と可愛いものが好きなんだ。ヴィルもメッチャ可愛がってもらった。一緒にラブリースライム見に行くってことになったの。もっと言うと、ルーネと新聞記者もおまけでついて来る」

『新聞記者?』


 あ、何かに気付いたようだ。

 サイナスさんは鋭いからなあ。


『何かの仕掛けなのか?』

「帝国でもスライム牧場やればいいと思うんだよね。『スライムスキン』なんかいくらでも需要あるからさ。『スライムスキン』はいろんなことに使えるらしいけど、今後魔力の利用が進むと需要はさらに大きくなるよ。ドーラのスライム牧場が輸出できる規模になるとはとても考えらんない。零細だしドーラの人口も増えるし。じゃあ帝国のスライム牧場設立に協力して、技術指導料もらった方がいいじゃん?」

『独走がえぐいけど、親切でやってるのはわかった』

「あたしの半分は親切でできてるから」

『もう半分は独走でできている』


 アハハ、失礼な。

 スライム爺さんはスライムが好きな人なのだ。

 ラブリースライムが帝国に広まれば喜ぶと思う。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 明日はリリーとゼムリヤ。

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