第1603話:リモネスさんに対しての疑惑
「ところでおんしはグルメにも造詣が深いのであろう?」
「ヴィクトリアさんに言われるほどじゃないと思うけど」
毎日美味いものばかり食べてるだろう帝国の皇女に言われてもな?
「ユーラシアさんのお土産のお肉は大変おいしいですよ」
「何? スイーツだけでなく、肉もとな? 捨て置けんの」
お肉を捨て置けないのは全面的に賛成するけれども。
まあ皇女ならば帝国ふうに洗練された料理は食べ慣れてるだろう。
素材を生かして炙り焼き&塩なんてのはあんまり経験したことないかもな?
しかし……。
「……ヴィクトリアさんは魔物肉を食べたことある?」
「ないの」
「帝国の人は魔物肉に抵抗あるみたいなんだよね」
「重要なのは美味か否かであろう?」
「おお、やるね」
「その通りなんだぬ!」
うむ、本質をわかってる人だ。
「魔物肉は皆美味いのか?」
「いや、一般に草食魔獣はおいしいけど、肉食魔獣は不味いって言われてるんだ。あたしがよくお土産にするのはコブタマンという魔物のお肉だよ。炙って脂を少し落として、魚人の作った旨みの強い海藻塩かけて食べるのが最高。今度食べさせてあげるよ」
「うむ、すまんの。楽しみにしておるぞ」
「難しいのもあるよ。マンティコアっていう魔物のお肉は美味いことは間違いないんだけど、味がフラットというかパンチがないというか。料理人の腕と知識が試されそうな材料なんだよ。ドーラ人の手に負えないんだよね」
「宮廷の料理人に発破をかけて調理させようではないか。持ってきてくりゃれ」
「わかった。でもマンティコアは個体数が少ない上に、ドラゴンと同じエリアに住んでるんだ。すぐにってわけにいかないと思うけど、取れたら連絡入れるね」
「大変な魔物ではないですか。マンティコアを食べたことある人も、ドーラには多いんですか?」
「ほとんどいないと思う。ドラゴンを倒せる腕があれば狩れるけど、解体してお肉にするのが難しいんだ。他の魔物に襲われちゃうから。あたしもマンティコアがおいしいって聞かなかったら、わざわざ食べてみようとは思わなかったよ」
情報は大事なのだ。
「おんしはドラゴンなど軽く倒せるのだな?」
「うん。でもドラゴンは倒してもあまりメリットがないの。普通のドラゴンからだと『逆鱗』っていう素材が一枚取れるんだけど、売れるのそれくらい。売却価格二〇〇〇ゴールドちょいだし、お肉は不味いらしいからテンション上がらない。性格が荒くて向かってきちゃうから倒すだけ」
「ふむ、『輝かしき勇者の冒険』の記述とは大分違うの」
「あれはフィクションだよ。ドラゴンは悪しき存在じゃないし、苦戦するくらいなら出直すし、倒したってお姫様とよろしくやれない」
あれ、ガッカリするかと思ったら、ヴィクトリアさんもルーネも興味津々ですね?
「現場の生の話が知りたいものだの。本にもなっておらぬ」
「そーいやヴィクトリアさん、本が好きって聞いた」
「うむ。しかし学術書は眠くなるでの。軽く読める本が出ないものかと常々思うておるのじゃ」
「伯母様御存じですか? ユーラシアさんがヤマタノオロチを倒した時の新聞記事、すごく面白いんですよ。私大事に取ってあるんです」
「何? 後ほど読ませてくりゃれ」
「ええ? ヤマタノオロチ退治は失敗談だから勘弁して欲しいなあ」
「勘弁して欲しいぬ!」
アハハと笑い合う。
楽しいなあ。
ヴィクトリアさんも軽い読み味の本が欲しいんだな?
やはり需要はある。
ん? ヴィクトリアさんの雰囲気が変わった。
「おんしは……リモネスと親しいと聞いた」
「親しいわけじゃないけど、時々突っ込んだ話はするよ」
来た、やはりこの件か。
だから親しい御婦人方も今日は呼んでないんだろう。
「父様の……陛下の意識が戻らなくなって久しい。おそらく一ヶ月は持たぬであろうとの医師の見立てじゃ」
「似たようなことをあたしも聞いてる」
「リモネスからか?」
「いや、うっかり元公爵から」
「グレゴール殿か。よくお見舞いに来てくださったと聞く。ありがたいことじゃ」
誰にでもうっかり元公爵で通じてしまうなあ。
いいのか?
「リモネスに何か聞いておらんか?」
「何かって何を?」
「帝国の行く末について」
ヴィクトリアさんの言わんとするところを理解したのだろう。
息を呑むルーネ。
あ、ヴィルがこっち来た。
抱っこしてやろうね。
「六日前にリモネスのおっちゃんと話す機会があったんだ。皇帝陛下の遺言を受けてるんじゃないかって憶測が流れてて、身辺が騒がしいみたいなこと言ってた」
「そ、それじゃ。遺言の内容は?」
「次の皇帝を誰にするかっていう陛下の意向についてなら、リモネスさんは聞いてないよ。あたしは『閃き』っていう固有能力持ちで、他人がウソ吐いてりゃわかるけど、リモネスさんの言ってることにウソはなかった」
「確かじゃな?」
「あたしが美少女であることと同じくらいには確か」
考え込むヴィクトリアさん。
「しかし……リモネスは他人の心の中を覗けるのであろう? 陛下の心内も……」
「いや、リモネスさんは何でもかんでもわかるわけじゃないんだ。対象の人の思考が明確じゃないとダメなの。例えばセウェルス殿下については、乱れた想念で明瞭なことは何もわからん恐ろしいって言ってたよ。陛下についても最後まで悩んでおられた、最終的なお考えは私にも推し量ることができませなんだ、と言ってた。とゆーか、もしリモネスさんが陛下の考えてることをキャッチしたとしても、だから何だって話じゃん。物的証拠がない」
「う、うむ。ユーラシアの言う通りじゃな。しかし遺書を託されているかもしれぬ……」
「本人に真正面から遺書持ってるか聞いてみりゃいいよ。おっちゃんはウソ吐かないことで信用を得てるんでしょ? 持ってるなら持ってるって言うだろうし、持ってないってウソ吐くんだったら、やることなすこと信用できんですんじゃう」
遺書はあたしが預かってるからリモネスさんは持ってないわけだが。
晴れやかな顔になるヴィクトリアさん。
誤魔化してごめんよ。
あたしにも言えないことはあるのだ。
「うむ、おんしの回答は明快じゃの。スッキリしたぞよ」
「あたしも楽しかったよ。今日は帰るね」
「うむ、さらばじゃ」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。




