第1601話:発禁処分にしてもらわねば
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーラシアさん!」
「おお?」
「ビックリしたぬ!」
昼食後に再び皇宮にやってきたら、いきなりルーネに飛びつかれた。
待ち構えていたらしい。
ヴィルもビックリしながら飛びついてくるわけだが。
あたし大人気。
サボリ土魔法使い近衛兵が羨ましそうに言う。
「いいなあ」
「いいでしょ?」
「脛を木剣でひっぱたかれるよりずっといい」
アハハと笑い合う。
もうニライちゃんのことは許してやれよ。
ライナー君の妹ニライちゃんはなかなか面白い子だった。
ああいう子に予告なく会えることがあるから、人生はとってもインタレスティング。
「ええと、今からヴィクトリアさんところへ行くんだよね?」
「はい。既にお待ちのはずです」
ヴィクトリアさんは第一皇女で、先の皇妃様の子。
つまり皇帝陛下の第一子ということになる。
年齢が四〇歳ちょいくらいで、きつめの美人。
あたしの持ってる情報はそれくらい。
「ルーネはお茶会で可愛がってもらってる?」
「はい。ヴィクトリア伯母様が親しくされている御婦人を紹介してくださるのです。楽しくお話できます」
「よかったねえ」
ルーネ嬉しそう。
どうやらヴィクトリアさんにルーネをいびる意思はないらしいな。
当然か。
帝国一の権力者たるお父ちゃん閣下を敵に回して得になることなど何もない。
ヴィクトリアさんの取り巻き達も同様だろう。
「今日は応接間でなくて、私室の方へ来てくれと言われているのです」
「ん? ヴィクトリアさん一人なの?」
「と思います」
「どうしたんだい? 意外そうだけど」
「あたしは今話題の美少女じゃん? 親しい貴婦人を集めてるところに放り込まれて、芸でもしろってことかと思ったんだ」
「芸って」
あたしを話の種にして場を盛り上げるつもりではないらしい。
となるとあたし自身に興味か用かがあるってことか。
サボリ君に聞いてみる。
「ヴィクトリアさんってどんな人?」
「ガレリウス様、セウェルス様と同じ先妃様の御子だな」
「ここまで知ってる情報。次どうぞー」
「陛下の第一子であったことから、御誕生の際には大層な騒ぎだったと聞いている」
「うんうん、想像できるわ。基本情報は大体わかったな。性格とかはどんな感じかな?」
「皇族らしいプライドを持ち、高貴かつ優雅に振る舞おうとされる方だよ」
「え? 権高にギャアギャア言われても困るんだけど?」
「ウソだ。君は自分のペースに巻き込むだけで、特段困りゃしない。メリットがないのに絡まれると面倒だから、予防線張ってるだけだろう」
「バレたかー。あんたも鋭いなー」
「なかなかやるぬ!」
再びの笑い。
「ヴィクトリアさんって、今の皇妃様に対しては当たりがキツいんでしょ?」
あれ、サボリ君もルーネも固まったね?
口に出すのは憚ることなのかな?
「……まあね。公然の秘密でありながら極めて露骨というか」
「公然の秘密なのか。オーソドックスに陛下の寵を争う前皇妃現皇妃の争いがあって、互いの皇子皇女がギスギスした関係を引きずってるってことでいいのかな? あるいは特別な事情がある?」
「オーソドックスって。いや、特別な事情はないと思うがなあ。大体先妃様と現皇妃カレンシー様の間に面識はないんじゃないか」
「あれ、そーなの?」
「ああ。確かカレンシー様はヴィクトリア様より年下のはずだし」
「マジか」
自分の娘より年下の皇妃だったのか。
陛下やるなあ。
「なかなかやるぬ!」
「ヴィルもなかなかやるね」
ヴィルをぎゅっとしてやる。
先妃様と皇妃カレンシー様の間に面識はなかったってのは、かなり意外だな。
むしろヴィクトリアさんと皇妃様の間に何かあると考えるべきかも?
「……直接ヴィクトリアさんに聞いてみたいな」
「ユーラシアさん、皇妃様の話題だけはタブーですよ」
「御主人にタブーはないぬよ? ガンガンいっちゃうぬ」
二人が苦笑してるじゃねーか。
ヴィルの言う通りだけれども、あたしだって空気くらいは読む。
この辺は実際に会って、感触を得てからだな。
「ヴィクトリアさんとガレリウス第一皇子セウェルス第三皇子との仲は?」
「いいと思います。ガレリウス伯父様の息子であるリキニウスさんのことも、大変可愛がっていらしてましたし」
「セウェルス様に対する繰り言は多いらしいな。しかし期待するところがあってこその、愛情の裏返しじゃないかな」
「他の兄弟姉妹との関係は? お父ちゃん閣下と仲悪いわけじゃないよね?」
「現皇妃様の子である、フロリアヌス様ウルピウス様リリー様と話しているところは見たことがないな。他の皇子皇女との関係は良好だと思う」
どうやら第一皇女であることを押し出して、私が私がって前に出てくるタイプではないらしい?
とゆーか、今の皇妃様とその皇子皇女への対応以外は普通の人っぽいな。
「ユーラシアさん、ヴィクトリア伯母様を随分警戒してますか?」
「セウェルス殿下がとんでもないやつだったんだもん。似たような人かもしれないから、情報だけは集めておかないと」
「セウェルス叔父様には……お父様も絶対近付くなと」
「お父ちゃん閣下ったら、あたしにそんなところへ行かせるんだからもー。どんな了見だ。いつか何かをせしめてやらないと」
「せしめてやるぬ!」
大笑い。
「ヴィクトリアさんの好きなものって何かな? 趣味とか」
「美食家だな。リリー様の婿取り試練イベントあっただろう? あの時のスイーツ対決にはかなりの関心を寄せていたようだ」
「あの対決は名勝負だったわ。ピット君の悔しそうだったこと。スイーツの件で呼ばれたってのはあり得るね」
「結構な読書家でいらっしゃいますよ。物語がお好きなんですが、その手の本はあまりないでしょう? 口伝で伝えられている民話を集めているとか」
「あれ、ひょっとしてヴィクトリアさんも『輝かしき勇者の冒険』の読者かな?」
「『輝かしき勇者の冒険』は、字が読めるようになったら誰でも手に取るだろ」
「誰でもドラゴンを倒したくなるものです」
「「えっ?」」
ルーネが突貫少女レノアみたいなこと言いだしたぞ?
まったく害悪な本だな。
お父ちゃん閣下に注進して発禁処分にしてもらわねば。
でも美味しいものと本好きってことなら、話題に困ることはなさそうだな。
いざ、ヴィクトリアさんの部屋に赴かん!




