第1600話:スライムを飼ってみる
「オレが見る限り、あの色男は伯爵務まるくらいの能は十分にあるぜ?」
ユーラシア教会へ行くのに、新聞記者トリオだけでなく、何故かノルトマン伯爵とニライカナイちゃんもついてくることになった。
しかも何故かイシュトバーンさんとノルトマンさんが親しくなってる。
確かにイシュトバーンさんは相談したくなる雰囲気を持っているけれども。
で、やっぱり色男天才剣士ライナー君が話題になっちゃうわけだ。
「翁はそう思われますか?」
「ああ。精霊使いと師匠の採点が辛いだけだろ」
「だってリリーの旦那に相応しいかって言われるとなー。点が辛くもなるわ」
ライナー君との出会いが、リリーのお相手を決める貴公子こてんぱんイベントだったからってこともある。
そして当時のライバルであったアーベントロート公爵家ヘルムート君がかなりの、『ケーニッヒバウム』のピット君がまずまずの進歩を見せているだけに、ライナー君が余計にもの足りなく見えてしまうのだ。
ニライちゃんがためらいがちに言う。
「あちしは……リリーさまをしらないぞなもし。キャロラインねえさまがいい」
「リリーはいい子だから、会えばニライちゃんも気に入ると思うよ。でもライナー君にはキャロの方が合ってると思う」
イシュトバーンさんも頷く。
要するに人気抜群の皇女リリーは、現時点で皇室の切り札みたいなもん。
しがらみが多過ぎるのだ。
一伯爵家では手に余るだろう。
ライナー君が文武に欠けるところのない男なら、リリーを任せられるんだけどな。
あたしとボクデンさんの採点が辛くなる理由でもある。
一方で聖女キャロは事情が異なる。
聖女とはいえ平民だし、婚約者とするまではユーラシア教会のキャロ引止め工作含めて障害が多いと思う。
でも結ばれてしまいさえすれば、あとはさして問題ないんじゃないかな。
キャロを手に入れる過程の経験はライナー君の血肉になるだろうし。
「ユーラシア殿配下の悪魔ですが」
「ヴィルは好感情好きのいい子だよ。悪さしてこないから安心」
「いい子ぬよ?」
「うちの連絡係してくれてるんだ。でも世の中には悪魔ってだけで嫌う人もいるから、ふよふよ飛んでるとまずいじゃん? で、肩車してるの」
「精霊達も配下にしておられる?」
「うん。ただ精霊は基本的に人間嫌いだから、用がある時しか帝都には連れてこないんだ」
「ふむ……」
精霊や悪魔については考えたってしょうがないと思うよ。
たまたまあたしは『精霊使い』の固有能力持ちで、精霊や悪魔との出会いがあったってだけ。
受け入れてくださいな。
新聞記者が言う。
「ユーラシアさん、キャロラインさんの絵の完成版、見せてくださいよ」
「あ、ごめん。見せてなかったね。じゃーん!」
「「「「「おお!」」」」」
ナップザックから取り出した絵を見せると、皆かぶりつきだ。
ハッハッハッ、こういう反応じゃないとな。
「こ、これほどとは……」
「す、すごいぞなもし!」
「すごいオーラが吹き出てるでしょ? ニライちゃんを描かせてもらう時には、また連絡入れるからね。ちょっと先になるけど」
「うむ!」
ノルトマンさん微妙な顔してる。
えっちな絵だもんな。
これも経験だって。
「ユーラシアさん、新画集もモデルは二〇人ほどになりますか?」
イシュトバーンさんと目を見合わせる。
「いや、決めてないぜ」
「コストとモデルの人数次第だよ。イシュトバーンさんが納得できるモデルを集められるなら多くてもいいけど、販売価格が高くなっちゃうよ?」
「ユーラシア殿が画集に関わっているのは何故です?」
あ、ノルトマンさんはそこが疑問か。
経緯を知らん人から見ると当然だわな。
「この企画は精霊使いが始めたんだぜ」
「安い本を大量に売るにはどうしたらって話になった時、イシュトバーンさんが描いた画集なら売れるって冗談で言ったら、皆が乗り気で」
「こいつは冒険者活動より、インフラの整備とか産業の育成に熱心なんだ」
「我が領地でも産業を育成したいのですが……」
「わかる。でもツムシュテーク伯爵領は金銀を産出するから富裕だって聞いたけど」
「金銀など、いつかは掘り尽くしてしまうものですからね。資金の潤ってる内に何とかするのが領主の務めです」
何だ、ノルトマンさんも鉱山が廃れたあとのことを考えてるんじゃないか。
ツムシュテーク伯爵領は酪農や漁業も盛んという話だった。
領地経営に困ることはないんだろうが、金銀の産出がなくなれば当たり前の一地方領に成り下がるだろうな。
鉱山跡地って何かに使えないか?
「……スライム飼ってみる?」
「は?」
「ドーラのスライム牧場は、『スライムスキン』っていう汎用素材を得るために行われているんだ。脱皮した抜け殻がまんま使えるとかで」
「『スライムスキン』! 高価な素材ですね」
やっぱ帝国では高価なんだな。
「帝国ではペットや見世物として魔物飼うことも行われてるんでしょ? 需要はありそうに思えるけど」
「面白いですが……」
「スライムの飼育は、やや冷涼で寒暖差のないところが適してるみたいなんだ。鉱山跡地が使えるかもしれないよ」
「ぜひ、検討してみたいですな!」
「おい、いいのかよ?」
「『スライムスキン』は値段が下がればいくらでも需要があるから、ドーラでいくら頑張って生産しても輸出するところまではいかないんだよね。帝国では伯爵がバックにいれば大規模生産できるかもしれない。そしたら帝国にとっていいことだし、技術指導料もらえればドーラのスライム牧場だって潤うでしょ。ウィンウィンだぞ?」
「まあ、あんたの考えはワールドワイドだよな」
あのラブリースライムは広まって欲しいのだ。
ドーラの観光資源としてどうかと思ったこともあったが、協力者がいるなら帝国で増やしてもらった方が有用だろ。
「うまくいくかどうかわからない話だよ? まず一匹譲ってもらうように交渉して、ニライちゃんがペットとして飼えばいいじゃん。上手に育てられたら、あとのことはあとで考えりゃいい」
「ととさま、スライムをかえるのか?」
「どうやら飼えるようだね」
「普通のスライムは狂暴だぞ? でも牧場のラブリースライムは性格が大人しいんだ。ニライちゃんでも十分飼えると思う」
三日後楽しみだな。
さて、絵をユーラシア教会に渡したら帰るべ。




