第1599話:二つの違和感
話題を変えるように近衛兵長さんが言う。
あれえ? 近衛兵長さんも楽しそうだな。
「精霊使い殿。違和感を覚えることはありませんかな?」
「クイズかな? 二つあるよ」
「何でしょう?」
「ニライちゃんの従者の存在感があり過ぎるわ。何者なん?」
目立たない帝国風スーツのダンディな中年男性だ。
近衛兵長さんほどじゃないけど、結構なレベルがある。
従者らしくニライちゃんの後ろに控えてはいるが、明らかに近衛兵達も遠慮してるやん。
「ツムシュテーク伯爵家が当代、ノルトマン様ですぞ」
「ドーラの精霊使いユーラシアだよ。そちら引退商人で絵師のイシュトバーンさん、この子が悪魔のヴィルだよ」
「よろしくお願いしますぬ!」
従者違う。
伯爵様ですがな。
「ヤマタノオロチ退治の勇士ユーラシア殿にお会いできて光栄です」
「ええ、はい、どーも」
イシュトバーンさんがニヤニヤしている。
そーだよ、あたしの苦手な善人タイプの人だよ。
しかし身のこなしに隙が小さい。
レベルもおそらく三〇近くはあると思われる。
ライナー君と同じで騎士団出身かな?
「不肖の息子が大変お世話になっているようで。ちょくちょく話に上るのですよ」
「いやいや、あたしの酔狂で。大したことではないんだよ」
「ガリアやドーラに連れていっていただいたそうじゃないですか。ライナーには経験が足りないと、日頃から感じていていたところでした」
実直そうな人だなあ。
やりにくいわ。
ライナー君についてはごめんよ。
半分は玩具にしてたんだよ。
「フリードリヒ公爵にもコンタクトを取っていただいて。いやはや、フリードリヒ先輩がライナーに有益な話をしてくれるだろうことはわかってはいましたが、なかなか手を煩わせることは憚られ……」
フリードリヒさんが先輩。
やはり伯爵も元騎士か。
じゃあライナー君は父ちゃんに学べばいいじゃん。
いや、ボクデンさんはそれだけじゃ足りないと見てるんだろうな。
「ライナー君の師匠のボクデンさんっているじゃん? ボクデンさんは伯爵が頼んでついてもらったの?」
「はい。せめて最高の師をと思いまして、ボクデン氏の道場へ通わせました」
通わせただけなのか。
ボクデンさん時々ライナー君の従者みたいなことやっとるがな。
ボクデンさんもライナー君には相当期待してるんだろう。
「ボクデンさんはすごい人だよねえ」
「氏にも可愛がっていただき、剣の腕には大変な進歩がみられまして……」
「でもボクデンさんは剣術だけでいいのかと思ってるみたいだよ?」
「ええ。氏にも直接言われたことがあります。いや、氏には十分過ぎるほどの成果を上げていただきましたが」
ノルトマンさんの評価としては、ライナー君の剣術の腕をチャンピオンになるほど引き上げてくれたから十分ということらしい。
でもボクデンさんは単なる武の達人じゃないぞ?
弟子なら師の全てを吸収して欲しいもんだが。
「氏に連絡をいただいたのです。ユーラシア殿はライナーに刺激を与える存在だから親しくしておけと。私も興味を持ちましてね」
「ボクデンさんほどの人に持ち上げてもらえると気分よく働けるわ」
「ととさま、きをゆるしてはなりませぬ! こやつのゆだんさせるさくかもしれないぞなもし!」
「ニライちゃんはなかなかやるなあ。ライナー君は次の伯爵でしょ?」
「うむ」
「ニライちゃんの言う通り、ライナー君はあんまり難しいことを考えない人なんだよ。でも今、伯爵家の跡取りとしてそれでいいものかと考えちゃってるの」
「かわいそうなにいさま……」
「領主として普通にこなしてくれればよいと思っているのですが」
伯爵様が甘いこと言ってちゃ困るんだが。
今はいいだろうけど、状況が変わった時に苦労するのは領民だぞ?
昨日人材を育てろって話はしてあるけど、やっぱどー考えても金銀を採掘できておゼゼに余裕がある内に、新しい産業が欲しいわな。
イシュトバーンさんもニヤニヤしてないで知恵を出してよ。
「ニライちゃんがライナー君を助けてやればいいんだぞ?」
「にいさまを? たすける?」
「ライナー君は剣を得意とする人でしょ? じゃあニライちゃんが考えるの得意な人になればいい。だったら助けられるでしょ?」
「もっともなことぞなもし!」
「ニライちゃんって、もうお相手決まってたりする? 他家に嫁がなきゃいけない事情がある?」
「い、いや、特にないですけれども」
「じゃ、ニライちゃん鍛えた方が手っ取り早いな。ノルトマンさんの考えとしてはどーかな?」
ヴィルがニライちゃんのとこ行った。
二人並ぶとすげー可愛いな。
ん? イシュトバーンさん何?
ライナー君育てるのを諦めるのかって?
だってライナー君、どこ連れてっても受け身なんだもん。
積極性を感じないからつまんない。
ニライちゃんを構う方が面白そう。
ノルトマンさんが言う。
「ふむ。ニライカナイの教育の方向性を考えてみます」
「うん。いきなり木剣持って撃ちかかってくるような子は、普通の伯爵令嬢の教育するのはもったいないと思うよ」
ノルトマンさん苦笑してるけど、皮肉じゃないからね?
「ところでニライちゃんの持ってるクッションは何なの? これ二つ目の違和感なんだけど」
「クッションではないぞなもし。ぬいぐるみぞなもし」
「ぬいぐるみだったのか」
ほんとだ、目がついてる。
えらい単純な形のぬいぐるみだな。
「……ひょっとしてスライムのぬいぐるみ?」
「だいせいかいぞなもし!」
「ニライちゃん、スライムが好きなの? 見たことある?」
「ある!」
「触ったことは?」
「……ない。さわってみたいぞなもし」
「触らせてあげようか? ドーラにはスライムの牧場があるんだ。そこのスライムは人に馴れてて、頭撫でてやるとキューって鳴くんだよ。メッチャ可愛いの」
「ほんとうか! いきたいぞなもし!」
「本当だよ。ただしノルトマンさんが許したらだぞ?」
「ととさま!」
ニライちゃんの縋るような目。
これには父親は勝てまい。
「ハハハ、私も御一緒させてもらってよろしいでしょうか?」
「もちろんだよ。三日後の朝、ここで待ち合わせでいいかな?」
「ユーラシアさん。私どももよろしいでしょうか?」
「記者さん達も? いいよ」
ドーラの産業の紹介になるかもしれんし。
「じゃあ三日後にね。さいならー」
「バイバイぬ!」




