第1598話:近衛兵が勤務中に油断するのはありなん?
――――――――――二五四日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君、絵師殿、いらっしゃい」
皇宮にやって来た。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵だ。
「あんたいつもここにいるのか?」
「うーん、疑問に思うのはやむなし。サボリ君は美少女番近衛兵なんだよ。イシュトバーンさん家のノアと一緒」
「ほお? 精霊使いがVIP扱いじゃねえか」
「間違ってはいないけど、サボリ君と言うのはやめてくれ」
アハハ、サボリなのは間違いないらしい。
あたしはどこでも歓迎してもらえるのでやりやすいなあ。
「昨日の聖女キャロラインの絵が完成したんで届けに行くんだ。見る?」
「もちろん! おおおおおお?」
「ハハッ、気に入ったかい?」
「生絵はまたすごいな……」
「サボリ君も美人絵画集買ってくれたんだ?」
「買ってるやつは多いよ。でもまだ品薄なんだ」
ちょっと前に帝都で五万部って言ってたけど?
今はもう少し上積みあるだろうに、それでも品薄なのか。
帝都は人口が多いし、皆が欲しがり始めるとメッチャ売れちゃうな。
第二弾帝国美人版の売れ行きも楽しみだが……。
「本屋があんなに繁盛することはもうないだろうな」
「ところがあの画集、帝国版を出すことになりそうなんだ」
「……となるとリリー様や聖女キャロラインも載る?」
「なるべく第一弾と違うモデルをお届けしたいけど、リリーは再登場だろうな。キャロもこの絵とは別に描かせてもらいたい」
「えっ? 本決まりの企画なのかい?」
「決定とは言えないけど」
「昨日、ユーラシア教会で帝国版を出すという流れになったんだぜ」
「誰をモデルにしたらいいかっていう要望を新聞に寄せてもらってさ。得票数の多い人んとこに連絡取って描かせてもらおうっていう企画だよ」
「ワクワクするな!」
ワクワクするんだよ。
あたしも楽しみだな。
「あたし帝国美人はあんまり知らんからさ。サボリ君も協力してよ」
「もちろんだ。ところで詰め所にお客と新聞記者が来ているよ」
「お客?」
「ちょっと意外な方なんだ。楽しみにしてなよ」
サボリ君が楽しげだ。
意外な人か。
誰が来てるか教えないで会わせるという趣向のようだ。
それにしても新聞記者トリオが来てるとはな?
今日は絵を置いてくるだけだから、記事になるようなことはないんだけど。
さて、近衛兵詰め所に到着だ。
が?
「……たまにはサボリ君に先導してもらいたい気分だな」
「ハハッ、承ろう。でもサボリ君と言わないでくれ」
笑いながら詰め所へ。
声だけかける。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ちぇすとおおおお!」
「どおおおおおおお!」
いきなり脛を木剣で叩かれて悶絶するサボリ君と謝る小さな子。
「す、すまんぞなもし!」
「いや、大袈裟なんだよ。リフレッシュ!」
謝ったのはヴィルくらいの背の高さの幼女だ。
新聞記者トリオがワクテカしてるがな。
「結構鋭い一撃じゃなかったか?」
「うん、なかなかやるね」
ちっちゃい子なのに大した撃ち込みではあった。
怒るサボリ君。
「おい! 君ニライカナイ嬢が襲ってくるのわかってて俺に先導させたんだろう!」
「そりゃまあ。あたしはあんたほど痛いの好きじゃないし」
「俺だって好きじゃないよ!」
近衛兵長さんが感心したように言う。
「精霊使い殿はさすがですな。わかりますか?」
「気配があったからねえ」
「お、俺だって油断してなきゃ……」
「近衛兵が勤務中に油断するのはありなん?」
「職務怠慢ですな。減給か罰金か、どちらかを選べ」
「そんなー!」
「まあまあ。美少女精霊使いを身を挺して守ったってことで勘弁してやってよ」
アハハと笑い、これにて一件落着。
「ところでニライちゃんはどこの子?」
「ツムシュテーク伯爵家の御息女ですぞ」
「あっ、ライナー君の妹さんか」
歳の離れた妹がいるって話だったわ。
ライナー君の妹なら剣術習っててもおかしくないな。
しかしあたしを睨んでくるのは何でだ?
初対面だと思うけど。
「にいさまをまどわせてるからぞなもし! このましょうのおんなめ!」
「イシュトバーンさん、この子どう思う?」
「気に入ったぜ」
「ニライちゃんおめでとう! イシュトバーンさんの新作画集『女達』帝国版のモデルの一人に内定だよ」
「「「おめでとうございます!」」」
「えっ? あ……」
「帝国を代表する可愛い子と認められたってことだよ」
「ありがとうぞなもし!」
ツムシュテーク伯爵家って言ったら、結構な高位の貴族じゃん。
ちゃんとした令嬢なのに変わった喋り方だな。
まだ淑女教育を受けてない年齢だからだろう。
「ところであたしに撃ちかかってきたのは何でなん?」
「おぬしはてきだからぞなもし! いたいめにあわせてやった!」
「痛い目に遭ったのは俺だ! 精霊使い君じゃない!」
うるさいなあ。
いつもサボってるやつがたまに職務を遂行すると、存在を主張したがるんだから。
まあ美少女の盾になるのは立派な仕事と認めてやってもいいよ。
ニライちゃんが従者の後ろに隠れながら言う。
「……にいさまがなやんでおられる。きいたらおぬしのなまえがでたぞなもし」
「あたしが魅力的過ぎたかー。魔性の女でごめんよ」
「にいさまのおあいてはおぬしではなく、キャロラインねえさまがいいぞなもし」
「おお? ニライちゃん見る目があるね。あたしはライナー君のお相手じゃないから、心配しなくていいよ。もっと言うと、あたしも聖女キャロは皇女リリーよりライナー君に合ってると思う」
「そうなのか?」
「そうだぞ? ニライちゃんもキャロがいいっていう考えなら、あたしが協力してやろう」
「うむ、よろしくたのむぞなもし!」
握手。
うんうん、ニコニコしてる方が可愛いぞ。
「にいさまはなぜおぬしのなまえをだしたのだろ?」
「悩み多き年頃なんだから、色々考えることもあるでしょ。とゆーかニライちゃんは、何で話に出ただけであたしをライナー君の相手だと考えたの?」
「うむ。にいさまはあまりむずかしいことはかんがえないので、なやむならいろこいだとおもったぞなもし。それにさいきんよくおぬしはわだいになるから」
おいおい、ライナー君心配されてるんだかディスられてるんだかわからねえ。
態度が受身のライナー君より、ニライちゃんの方がよっぽどしっかりしてるぞ?




