第1597話:子供みたいな人
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
毎晩恒例のヴィル通信だ。
「今日は珍しい日だったんだ」
『ユーラシアが珍しいって言うくらいか。心して聞こうじゃないか』
「面白いイベントがあったとゆーわけじゃないからね?」
どーもハードルが上がり過ぎているような?
あたしは重要人物なのだから、言葉を選ばなければいかんな。
いや、肩すかしの技法も新たな芸風かもしれない。
「やること特に決めてなかったんだ。予定多きウルトラチャーミングビューティーにとってはかなり珍しい日」
『方向性が期待通りじゃなかったな。おまけにムリヤリウルトラチャーミングビューティーを捻じ込んでくるし』
「あんまりウルトラチャーミングビューティーが浸透しないんだよね。美少女精霊使いの方が通りがいいみたいで」
どうでもいい話題も、今日みたいな日には合ってる気がする。
『君昨日、特に予定を言ってなかったな』
「細々した用事を片付けちゃう日だと思ってさ。お肉持って赤眼族の集落とエルフの里行ってきた」
『用があったのかい?』
「用ってほどでもないな。友好を深めに? 将来への布石かな」
『何となく遊びに行っただけなんだろうけど、将来への布石という重みのあるワードで反論を封じるなあ』
「アハハ。赤眼族は完全に火事から復興してるから、もう安心ではあるけど」
『火事は怖いよな』
「まさにそれ。早い内にペペさんに消火魔法を開発してもらおうかと思ってる。エメリッヒさんも消火の魔道具とかに心当たりないかな?」
地中の魔力を集める仕組みと水魔法の組み合わせでイケそう。
『据え付け式の装置なら可能かもな』
「延焼を防ぐだけでも有用なんだよね。特に今後、開拓地の方は人口密度高くなりそーじゃん? 何か対策しとかないとさ」
『開拓地にはクー川があるから』
「あるから何なの? 水運ぶの大変じゃん」
『いや、君が製塩のために考えた、水を転移させてくる装置があるじゃないか』
「あっ、あれを応用するのか! サイナスさん頭いい!」
『頭いいのは君だからな?』
褒め合い。
転移で水運んでくるなら水魔法で水作るよりも効率よくできそう。
飲み水に使うわけじゃないしな。
「使えそーなアイデアが出たなあ。これだから夜の通信はやめられない」
『消火魔法の使い勝手次第じゃないか? 小回りが利きそうな方を普及させればいい』
「そーしよ。製塩事業の開始はまだまだ先だよね?」
『開拓地の水路が完成してからだな。かなり西まで通ったんだが、完成となると今年一杯は予定してた方がいいだろう。特に主力の黄の民は米の試作もしているから』
「まあねえ」
塩は海の王国が売ってくれているので、当面困ってるわけじゃない。
今後人口が増えることと供給元が少ないことが懸念材料なだけだ。
問題があると気が急いてしまうのは、あたしのいいクセだ。
「午後、イシュトバーンさんを連れて帝都へ行ってたんだ」
『重要事かい?』
「重要と言えば重要かな。放っておくとイシュトバーンさんがセクハラ事件を起こしてしまいそうだったんだ」
『何だそれ?』
「断片だけ聞くと謎でしょ?」
説明しよう。
謎は全て解けた。
いや、あの謎絵の理屈はわからんけど。
「この前温泉でルーネの絵も描いてもらったじゃん? イシュトバーンさん的にその絵が会心の一作だったみたいで」
『ほう?』
「あれ以来右手が疼くから絵を描かせろ、美女を用意しろって」
『子供みたいなことを言うなあ』
「子供みたいな人なんだよ」
サイナスさんもイシュトバーンさんとは一度会っただけだからな。
性格までは知らなかったか。
『わざわざ帝国でモデルを募ったのかい?』
「募ったというか、描かせてもらえそーな心当たりのとこ行ったんだ。例のユーラシアの聖女」
『遠くまで行かなくても、君が描かせてやれば良かったじゃないか』
「サイナスさんは少年心がわかってないなー。イシュトバーンさんはいろんな美女に会いたいんだよ」
『少年心ではないだろう。老年心かスケベ心だ』
「じっとしてるだけのモデルは退屈だから、あたしも好きじゃないし」
『君の都合がメインの理由だったか。納得した』
納得されてしまった。
乙女心はわかってくれるらしい。
「で、聖女キャロラインのとこ行って絵描かせてもらうじゃん?」
『簡単に描かせてもらえるのな?』
「その辺はどうにでも」
『マジで君の説得力は万能だな』
どーして皆ただ絵を描かせてもらうのが難しいと思うのか、あたしにはわからん。
難しいのはお父ちゃん閣下みたいな保護者がいるケースだけだ。
聖女って聞くと、お高く留まってる人だと思われるのかしらん?
あたしを見れば気さくな聖女もいるってわかるだろうに。
「絵描いてると、いつものように大熱狂で画伯コールが起きるじゃん?」
『いつものようになのか。イシュトバーン氏の絵なら当然か』
「当然なんだよ。オーディエンスから画集の帝国版を出せっていう要望が多くてさ。人気投票やることになった」
『画集の帝国版までは想像できるが、人気投票とは?』
「誰をモデルにしたらいいか、新聞社に意見を寄せろ。要望の多かった人のところへモデルの交渉に行くぞーってやつ」
『実にユーラシアらしい展開だなあ』
褒められてると思っておく。
まーあたしも帝国美人にはあんまり心当たりがないから。
「イシュトバーンさんって、奇麗可愛いってだけの女性に興味があるわけじゃないんだよ。一クセあるとか何かの心得や経験があるとか、プラスアルファが必要なの。もちろんあたしのように抜群に純情可憐とかでもいいんだけど」
『ムリヤリねじ込まなくても、ユーラシアの魅力は周知の事実だよ』
「ありがとう照れる。人気投票で上位にランクされるような人は、有力者だったり結構な個性の持ち主だと思うんだ。そーゆー人と知り合いになれるのは、あたしにとってもメリットだからさ」
『目論見までムリヤリねじ込んでくるのか』
「あたしのやることだからね。でも今の画集をまだ売り切ったと言えないじゃん? 実現はちょっと先になるかな?」
『とことん利益を追求するなあ』
アハハと笑い合う。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日も帝都。




