第1595話:煮詰まってきた話
「あのライナーっていう色男だが」
キャロの絵を描かせてもらってから、今はイシュトバーンさん家にお邪魔している。
イシュトバーンさんは絵に手を入れながらの雑談だ。
「あんた随分世話焼いてるみたいじゃねえか」
「もうちょっと役に立つ男に育って欲しいんだよなー」
イシュトバーンさんが男性に興味を持つのは珍しいな。
「ツムシュテーク伯爵家は古くからの名門で、しかもお金持ちらしいし」
「ああ、そういう視点なのな?」
「あたしは有力者との人脈を大事にしたいからね。リリーの三人のお相手候補の中で、ライナー君が一番頼りないとゆーか」
「だからあの聖女とくっつけようとしてるのか?」
「いや、ライナー君とキャロは相性いいってのは本当なんだよ。相性いい方が幸せ」
何をもって幸せと定義するかは人によって違うんだろうけど。
健康とおゼゼの次くらいのポジションには、パートナーとの相性があるんではなかろーか。
「煮詰まってきた話ってのは何だ?」
まあイシュトバーンさんの一番気になることだろう。
あたしももったいぶった自覚ある。
ガルちゃんがまだ来てないこのタイミングで言いだすのも、内容を配慮してなのかな。
「これあげる」
「ほう、酒か? すまねえな」
「ガリアでもらったんだ。最近デス爺に働いてもらってるからさ。お酒をプレゼントして労おうかと思って。いくつかもらったから、イシュトバーンさんにもおすそ分け」
「……デスさんが絡んでるのか?」
かなり意外だったみたいだな。
最近あたしのとこに振られる外国のクエストでは、デス爺関係しそうにないし。
「『アトラスの冒険者』の廃止が決まったんだ。まだ発表されてないから内緒ね」
「いつだ?」
「八の月の末にチョン」
「四ヶ月弱か」
「今月末か来月頭くらいには、ギルドの職員に知らされる予定だった。実際にはもうあたしが教えたから知ってるけどね」
イシュトバーンさん、あんまり驚かないね?
「『アトラスの冒険者』は赤眼族監視の組織なんだろ? 異世界にとって監視する意味がなくなりゃ、存続させる意味だってねえからな」
「うん、根本はそーゆーことなんだろうと思う」
「赤眼族以外の理由があるのか?」
「『アトラスの冒険者』のトップがエルの母ちゃんなんだ。エルは旧王族の血を引いてる、つまり赤眼族と同じ監視対象になり得る存在で、実際に母ちゃんがエルの行方を捜してる」
「おいおい、いきなり情報量が多いじゃねえか」
「エルの母ちゃん偉い人だから、派閥争いがあるんだよね。旧王族の子を生んだっていう母ちゃんのスキャンダルを、どうやらライバルが掴んでるらしいの。でもネタが大きくて政権自体を揺るがしかねないから、『アトラスの冒険者』を潰せっていう方向に攻撃が向かってるみたい」
「クネクネ姉ちゃんからの情報かい? よく聞き出せたな」
「で、ここから誰にも話してない、あたしの夢で知った情報だけど」
「夢?」
イシュトバーンさんが特有のえっちな目を向けてくる。
絵に集中しなよ。
「聞こうじゃねえか」
「あたしの夢にたまに出てくる、たわわ姫っていう女神様がいるんだ」
「おい、そのたわわ姫について詳しく」
たわわというワードに即反応するイシュトバーンさん。
ブレないなあ。
「やや眠そうな目をした、薄い金髪の美人さんだよ。あたしがたわわ姫って呼んでる通り迫力のあるおっぱいだけど、おっぱいさんに比べるとやや重力に負け気味」
「たわわ姫を描きてえんだが」
「ちょっと難しいかなー」
夢の中だしな?
「たわわ姫はこっちの世界を統括して発展させるのがお仕事なんだって。『アトラスの冒険者』は異世界の事業だから、こっちの世界に干渉してくるのが面白くなかったみたいで。『アトラスの冒険者』がこっちの世界に安定をもたらしてる内は不承不承納得してたけど、ソロモコが守られたことで帝国の対魔王戦争が回避され、運命が人類の衰退へ向かうルートはほぼ消失したんだそーな。だから『アトラスの冒険者』廃止に関して肯定的になった。つまり『アトラスの冒険者』本部とたわわ姫、どっちの意向にしても『アトラスの冒険者』存続の目はないみたいなんだ」
「面白い話だが、信憑性はあるのか?」
「あたしの『強奪』はたわわ姫にもらったの。世界の発展に貢献してるからって」
「ほう? あんた固有能力が欲しかったわけじゃねえんだろう?」
語るも涙の事情があるんだよ。
「あたしの働きでたわわ姫が得してるのに、実際に働いているあたしに報酬がないのは不公平だ。大きいおっぱいが欲しいって交渉したら、今生ではムリだって」
「ハハハハハ!」
笑い過ぎだわ。
「結局褒美として固有能力をもらえることになってさ。たまたまランダムで一つ発現したのが『強奪』だったという」
「女神なら自分でいい世界を作りゃいいじゃねえか」
「世界に直接干渉することはたわわ姫でもできないんだそーな。固有能力を授けることはギフトの範疇だから可能ですって」
「信じてるのか? 夢の話を」
「たわわ姫は敵じゃないし、恩恵があったから信じてやってもいい」
「ああ、あんたのスタンスは実利重視だったな」
所詮夢の話。
信じる信じないはどうでもいいのだ。
重要なのは実際にどうなるかってこと。
「今の話とデスさんはどう繋がるんだ?」
「現実問題として、いきなり『アトラスの冒険者』がなくなると困るじゃん?」
「一線級の冒険者が仕事にあぶれちまうわけか。治安の維持も難しくなる?」
「うん。『アトラスの冒険者』が保安官みたいな仕事してるんだから、冒険者が塔の村ばかりに集中しちゃうのはよろしくない。で、じっちゃんの転移術を利用して、ギルドからあちこちへ飛べるようにする新『アトラスの冒険者』を作る、とゆーことを考えたんだ。もうじっちゃんに設計してもらった転移の玉五〇個の製作を、ドワーフに注文してあるの。再来月の中頃にはできあがってきそう」
「デスさんも働かされてるな。『アトラスの冒険者』の廃止には楽勝で間に合うじゃねえか」
「新『アトラスの冒険者』をうまく運営できるかは別問題なんだよなー。今までみたいに赤字になったら補填してくれる本部もないし」
「ドーラの人口は増えるし、問題ねえだろ」
経営についてイシュトバーンさんはあまり心配してないみたい。




