第1593話:金持ち領のお金の使い方
「聖女キャロラインってのはどんなやつなんだ?」
ユーラシア教会への道すがら、イシュトバーンさんと話しながら行く。
ヴィルはいつものように肩車だ。
キャロは聖女の異名を取ってる子だから、イシュトバーンさんも気になるんだろう。
「帝国で聖女のスキルって言われてる『リフレッシュ』を生まれつき使えるんだって。毎日ケガ人とかにかけてあげる、無料奉仕をしてるの」
「ほお、感心な行いじゃねえか。しかしそれくらいじゃあんたが聖女聖女って持ち上げたりはしないだろ?」
「あ、わかる?」
イシュトバーンさんはさすが。
興味ありげなえっちな目になっている。
「レベルの低い人が魔法かけられる回数なんか限度があるじゃん? 例えば大勢負傷者来ちゃったりするとどうにもなんない」
「当然だな。まあ無料奉仕だと思えば、撃ち止めも仕方ねえだろ」
「と思うじゃん? ところがキャロは、超不味い魔法の葉を食べてまで無料奉仕を続けようとするの」
「魔法の葉を? マジかよ地獄だろ!」
「大マジなんだよ。魔法の葉はお布施でもらうことがあるみたい」
「何でもらったとしてもクソ不味いのは一緒だろ。あり得ねえ!」
「あたしがキャロに初めて会った時なんか、魔法の葉くわえたまま気絶してんの。変死体かと思ったわ」
感心するイシュトバーンさん。
「精霊使いが聖女って言うだけのことはあるな」
「あたしもキャロには聖女度で勝てないよ」
イシュトバーンさんもますますキャロに興味が出てきたみたい。
「あたしがレベル上げしたから、今ではキャロはマジックポイント切れ起こすことはないと思うけどね」
「あんたも働いてるんじゃねえか」
「あたしの信徒だから大事にしないと」
「ハハッ、汎神教の大地の女神ユーラシアか」
宗教にはあんまり関心はないけど、女神ユーラシアは悪魔も分け隔てしないフレキシブルな神様のようだ。
さすがにあたしの名前の神様だけのことはある。
「今頃聖女キャロは、ユーラシア教会ともども商売に勤しんでるはず」
「商売? どうして?」
まあ説明は必要だろうが。
「キャロは『灯火』っていう固有能力持ちなんだ。古代の偉大な覇王や宗教指導者が持っていたという、人を惹きつける支配系の能力」
「ええ? そんなのをレベル上げしたのかよ。ヤベえ臭いがプンプンするな」
「『灯火』持ちってことはあとで知ったんだってば」
キャロが『灯火』持ちであることで、レベルの上昇とともに影響力も増大したとする。
ユーラシア教会ともども、よからぬことを企む輩に利用されやすいのではないかという懸念があるのだ。
「……なるほど、浮世離れした修道女じゃ悪意に太刀打ちできねえ。商売でも経験して世間ずれしろってことか」
「狙いとして悪くないでしょ? 同時にキャロ自身の聖女度を落とせば、悪いやつに注目される度合いも減るかなと思って」
「あんたライバルを聖女から蹴落とすのが目的じゃねえだろうな?」
「そのよーなことは地母神ユーラシアに誓って決して」
「信じてもいねえ神に誓うな。あんた自身に誓え」
アハハと笑いながら歩みを進める、と?
「あれ、ライナー君じゃん」
「こんにちはぬ!」
「ああ、こんにちは。そちらは?」
「最近帝都でメッチャ売れてる『女達』って画集知らない? あれの絵師のイシュトバーンさんだよ」
「その色男は?」
「ツムシュテーク伯爵家の跡取りで騎士のライナー君。皇女リリー争奪戦貴公子こてんぱんイベントのトリを飾った人」
呆然とするライナー君。
「貴公子こてんぱんイベント……」
「ハハハ、精霊使いに関わると大変だろ」
「毎日を刺激的に過ごせると評判だよ」
「あんたには聞いてねえ」
アハハ、楽しいなあ。
「イシュトバーンさんが無性に無償で絵を描きたいようなんだ。聖女キャロの絵を描かせてもらおうと思って。午後だとさほど忙しくないよね?」
「おそらくは」
「ライナー君もユーラシア教会に行くの?」
「ああ、やることがなくてね」
「何なの、いい若い者がもー」
ライナー君ったら、休暇のたびにやることがないのか。
しょーがないな。
イシュトバーンさんが聞いてくる。
「おい、どういうことだよ?」
「ライナー君は天才剣士で、騎士として優秀ではあるんだよ。でも次期伯爵としては剣を使えるだけじゃダメじゃん?」
「ツムシュテーク伯爵領ってのはカツカツなのか?」
「裕福だって聞いた」
「じゃあ当代と同じことしてりゃいいだけじゃねえか。マネするくらいの甲斐性はあるだろ?」
イシュトバーンさんの言ってることは、決して間違いではない。
でも金銀の産出を除けば、ふつーの田舎みたいだぞ?
ツムシュテーク伯爵領って。
帝都に近いメリットがあるんだから、あたしだったら何かやりたくなっちゃうわ。
ライナー君が言う。
「師匠に期待されているんだと思います」
「師匠がボクデンさんていう武道の達人。あたしとレベル倍以上離れてるはずだけど、無手の組み手だと勝てる気しないな」
「ほお? すげえ人だな」
うん、ボクデンさんはヤバいくらいすごい人。
「期待が大き過ぎるだけだろ」
「うーん、プリンスルキウスの義父になるフリードリヒ公爵にも相談したんだけど、ライナー君領主になるとおゼゼ貯め込んじゃうかもなって」
「贅沢な悩みじゃねえか。あんたは投資しろって言いたいんだろうけど、難しいぜ?」
「まあねえ。騙されちゃうことだってあるもんねえ」
「投資は……あまり自信がない、です」
イシュトバーンさんが、あの人好きのする丸い目をライナー君に向ける。
「新しい産業でも起こせば領民のためになる。しかし投資には知識とセンスと見切りが必要だ。慣れてねえことに手を出すくらいなら、慣れてることやれよ」
「慣れてること、というと?」
「人材の育成は大事だぜ? 剣術を教えるのもその一つだ」
「あっ、人材を育成しよう! 子供に読み書き計算教えてさ。優秀な人は領費で帝都に留学させて高等私塾通わせてもいい」
「な、なるほど!」
「これこそ金持ちの領にしかできない金の使い方だぜ」
人材は確実に役に立つしな。
役に立つことに関して投資するという考え方なら、道を整備したり果樹を植えたりするのも皆が喜びそう。
「どっちにしてもライナー君にはいろんな経験が必要だよ」
「楽しいことやってりゃいいんだぜ?」
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