第1591話:赤眼族についての情報をバエちゃんに
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさん、こんにちはー」
「はいよ、アンタはいつも元気だね」
パワーカード大好きっ子アトムとともにアルアさんの工房へやって来た。
ちなみにまだ海岸に新しい『地図の石板』は届いていなかった。
とゆーことは『ガリア・セット』のクエストは継続するらしい。
王様のとこに遊びに行ける用があるのは嬉しいけどね。
「お土産のお肉だよ」
「いつもすまないね」
「エルマにもあげるから、お家に持って帰ってね」
「ありがとうございます!」
よしよし、エルマは可愛い妹分だからね。
おっと、心配そうな顔をしているね?
「あの、大丈夫でしょうか?」
何のことかを聞くまでもない。
『アトラスの冒険者』廃止後についてだろう。
「大丈夫だぞ? 転移の玉五〇個の設計が終わって、ドワーフに注文出してるの。七日後にはその内一〇個を受け取り予定なんだ」
「つまり一〇個完成するごとに、肉持って取りに来いということかい?」
「うん。ドワーフはお肉とお酒が大好きだよねえ」
お肉を食べられることがモチベーションになるなら、それはそれでいいのだ。
あたしから見れば扱いやすいとも言う。
肉はやり甲斐、肉は愛。
「ギルドに置く各地への転移石碑は、転移の玉五〇個が完成したあとに注文だな。カラーズ、カトマス、塔の村、魔境行きは絶対。他に転移先としてギルド指定の工房と、カトマスと塔の村の中間辺りに必要かなって意見は出てるよ。エルマもここには欲しいってのあったら教えてね」
「はい。わたしはそれ以外に必要な転移先はないです」
タルガのハマサソリは超初心者向けとして絶好な気がする。
ああいう弱い魔物ばかりいる転送先を持ってる冒険者いないかな?
「お姉さま、手持ちのアイテムは売らずにストックしておいた方がよろしいでしょうか?」
「えっ? 何で?」
「新『アトラスの冒険者』発足後に売った方が、新組織の儲けに繋がるのかと」
エルマの言うことはもっともだな。
ギルドだってアイテム売買で差益が出るんだから、現『アトラスの冒険者』より引継ぎ後に売る方が経営の安定に関わりそう。
金額的には微々たるものかもしれないけど、エルマが新『アトラスの冒険者』を大事にする意識を持ってくれているのが嬉しい。
「エルマは偉いねえ。あたし細かいことまで考えてなかったよ。エルマが困らないなら、あとで売ってくれるとありがたいかな」
「はい、では薬草のような時間で劣化してしまうアイテムを除いては取っておきます」
「転移の玉の材料代設計代加工代はどこから出てるんだい?」
「新『アトラスの冒険者』に加入してくれる人に、転移の玉を買ってもらうんだよ。ただその売り上げ金は新組織の運転資金に充てようと思ってるんで、あたしは持ち出しになっちゃうなあ」
「いいのかい、アンタはそれで」
「『アトラスの冒険者』には随分遊ばせてもらったからなー。恩返ししたいの」
あたしが好きでやってることだ。
『アトラスの冒険者』になれたことに感謝していることは本当だし、困るほどの出費じゃないから、どうでもいいのだ。
「素材の換金お願いしまーす」
交換ポイントは三八五五か。
転移の玉を起動して帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「者どもであえ! お肉だぞお!」
「やったあ! ユーちゃんありがとう!」
チュートリアルルームにやって来た。
小躍りするクネクネお姉さんに言う。
「何か変わったことあったかな? バエちゃんとこの世界からの指令とかで」
「特に何もないわ。平和というか、嵐の前の静けさというか」
「ふーん。エンジェルさんはもっとこっちの世界に絡んでくるかと思ったけど、当てが外れたな」
「ユーちゃんでも外すことがあるのねえ」
「……改めてそう言われると、絶対何かしてくると思うんだけどなあ」
何故ならあたしはトラブル体し……主人公補正があるから。
まあ何も起きない方がいいわけだが。
「『アトラスの冒険者』廃止後のバエちゃんの処遇は決まった?」
「まだ何も。心配ではあるんだけど」
「赤眼族についての追加情報だよ。赤眼族は過去何回か大火事起こしてるんだ。こっちの世界に放り込まれた以降の記録を、かなり失ってしまっているの。追放された一族だっていう伝承は残っているけど、どこからだかは知らない」
「ちょ、ちょっと待って! ユーちゃんいきなりどうしたの?」
「『アトラスの冒険者』は赤眼族の監視機関なんでしょ? じゃあバエちゃんの仕事上の成果を見せつけるんだとしたら、赤眼族についての詳細な情報を持ち帰ることが一番じゃないか。あたしが調べて知ったことは全部教えてあげるから、自分の立場を有利にすることに使いなよ」
「あっ、そ、そうね!」
『アトラスの冒険者』の廃止は決定した。
もう赤眼族についての情報を絞ってる意味がない。
この情報はバエちゃんの後押しに使うのがベストだろう。
何だかんだでバエちゃんには世話になったし、楽しかったから。
「最初に赤眼族に会った時、『アトラスの冒険者』を知ってて敵だとは言ってたけど、何故敵なのかの知識は持ってなかったよ」
「ふんふん。ユーちゃんは友達付き合いしてるのよね?」
「同じドーラの仲間だからね」
そう習俗が違うわけではないから、赤眼族が嫌がらないならノーマル人集落に吸収しちゃってもいいくらいだ。
「バエちゃんにもらった『亜人の習俗』っていう本の中に、赤眼族についてちょこっと書かれてたのは知ってた? 『他部族と馴れ合わず、戦う様苛烈たり』っていう記述があるの。でも今の赤眼族には戦う術がないよ。魔物対策は碧長石の魔物除けに頼るしかなくて、大した武器も持ってない。この本が書かれた当時、赤眼族は戦う集団だったって可能性がゼロではないけど、大方口汚く罵る舌戦や脅しが得意だったってことなんじゃないかなと思う。魔物がいる世界なんだから、戦う手段を失ったってのは考えにくいもん」
「そうよねえ」
「バエちゃんとこの世界についてほとんど何も知らない、武器も持たないんじゃ、危険性なんてないと思うぞ? これがあたしの結論」
「うえええええ、ゆーぢゃんありがどおおおお!」
こらこら、バエちゃん泣くんじゃないよ。
「じゃ、今日は帰るね」
「うんうん、また来てねええええ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




