第1590話:まがいもの
フイィィーンシュパパパッ。
赤眼族の集落の次に、エルフの里にやって来た。
「この季節だと、木が生き生きしてるよねえ」
「荘厳な上に、力強い感じがしますねえ」
うむ、エルフの里の森は木がデカしすごい。
ほこら守りの村の参道沿いの森も荘厳なんだけど、あっちは静的なんだよな。
こっちは動的なイメージ。
「ここの転送先も名前変わったんだったよね。今は『エルフの里』だけど、最初何だったっけ?」
「『白き族長アビゲイル』でやしたぜ」
「そーだった。『面白き族長アビゲイル』」
「ナイスジョークね!」
あれ、ダンテにウケてる。
ここも最初は転送先が森の中だったけど、今は集落のすぐ近くなので便利になった。
門番さんに挨拶、と。
「こんにちはー」
「やあ、精霊使いのお客人。どうされた?」
「アビーが肌を白くするほどお肉を待ちわびてるらしいから、お土産に持ってきたんだ」
「ハハッ、族長の肌はいつも白いぜ」
「いつもお肉を待ってるのかー」
笑いながらクララの『フライ』でお肉(加工前)を運びつつ族長宅へ。
「こんにちはー」
「いらっしゃいお肉!」
「カンがいいなあ。確かにお肉だけれども」
お待ちかねだろうから、ごそっとお肉(加工前)を置く。
アビーの目の何と喜びに満ち溢れてること。
お肉がラブでピースでジャスティスなのだという真理がよく理解できる。
「ああ、何という幸せの重み!」
「わかる。でもまだお肉になる前だぞ?」
「この世の全てがお肉でできていればいいのに」
「焚き火するだけで焼き肉が食べられちゃうわけか。あたしもその世界に住みたいな」
「そうでしょう! 火事になっても食べ物に困らない、夢の世界ですよ」
「本当だ。アビーすげえ!」
この眼鏡白エルフの言ってることはメチャクチャだけれども、反対できない謎の引力がある。
あたしと感性が似てるんだろうか?
でもうちの子達は、何だそれ現実を見ろって顔をしているけれども。
「今日はどうされたんです?」
「どう、ってことはないな。お肉の使者としてちょっと様子見に来ただけ」
「あら、お肉の使者さん。おかけになってくださいな」
飲み物を出される。
柑橘の香りがするな。
何だろ? これ。
「レモンバーベナのハーブティーですよ」
「レモンバーベナ?」
「ええ。そろそろ葉も揃ってきて、ハーブティーにすると飲み頃の季節なんです」
「ふーん、好きな匂いだな」
柑橘とは全然関係のない、冬になると葉を落とす木らしい。
結構香りが強いな。
エメリッヒさんが欲しがってる香料の材料になる植物かも。
「この木欲しいな。分けてくれない?」
「心の友よ!」
がっとあたしの手を勢い良く握ってくるアビー。
何なの、一体?
お肉以外でもアビーが一生懸命になることあるんだな。
「レモンバーベナは同族に不人気なのです!」
「えっ、どうしてかな?」
「まがいものだと言うのです!」
「まがいもの?」
森エルフは柑橘好きだそう。
なるほど、エルフの血を引くと言われている緑の民も、柑橘を結構栽培してるわ。
好きだからこそ匂いだけ柑橘に似るレモンバーベナを嫌う?
わからんでもないが……。
「確かに匂いは似てるかもしれんけど、この木のせいではないじゃんねえ? 手軽で素敵なハーブだと思うわ」
「私はレモンバーベナが不憫で……ノーマル人の間に広まって評価されたら勝った気になれます。見よレモンバーベナよ、あれが巨木の星だっ!」
先ほどあたしとアビーは感性が似てると言ったな?
あれはウソだ。
アビーのノリはよくわからねえ。
ともかくレモンバーベナはもらっていくけれども。
「ところで『アビゲイルホームラン』っていうバトルスキルあるじゃん? あれアビーが作ったんでしょ?」
「そうです。あれ、どこでお知りになりました?」
「職人にお任せでパワーカード作ってもらったら、『アビゲイルホームラン』付属のができ上がってきたんだ」
「我ながら大変お気に入りのスキルなのです。ムシャクシャした時にぶっ放すと、気持ちがスッと楽になるような気がします」
クララも盛んに頷いとるがな。
何でやねん。
アビーもクララもムシャクシャした気持ちを抱えるキャラじゃなさそーなのが怖い。
「アビーはスキル作るの得意なの?」
「昔はかなりケイオスワードに入れ込みましたね。最近はとんと御無沙汰ですけれども」
「何でやらなくなっちゃったの? もったいなくない?」
独力でスキル作れる人なんか、他にペペさんくらいしかいないのにな。
極めて希少性のある技術だが。
「カナダライさんに叱られたのです」
「どーして?」
「以前、森の管理のために『大木斬り』という魔法を作った時のことですけれども」
「はいはい。あたしも世界樹切ったり村を広げたりするのに使わせてもらってるよ。消費マジックポイントの小さい、使い勝手のいいスキルだよね」
「ありがとうございます。でも調整のために何度も使用していたら、森の一区画から木が消え失せてしまいまして」
「えっ?」
管理する森がなくなっちゃうというオチか。
アビーは手段のために目的を見失うタイプだな?
何となくわかってはいたけれども。
「スキル作りから足を洗ってくれと言われまして」
「カナダライさんの判断は、残念ながら当然だね」
「スキルを作る前には足を洗うようにしたのですけれども」
「そーゆー意味じゃないと思うけど」
「冬場などは大層水が冷たくてですね。足を洗うと身体が芯から冷えてしまうのです。億劫になってしまって、段々スキル作りから離れてしまいました」
「うーん、目的達成おめでとうなのかな?」
カナダライさんの苦労が偲ばれるなあ。
アビーはペペさんとは違ったタイプのトラブルメーカーだ。
「ところでカナダライさんは?」
「ワイルドボアの幼獣を捕まえに、数人を率いて出かけているのです。今出産シーズンですから」
「あっ、なるほど。協力が必要なら言ってね」
ワイルドボアの家畜化計画を推進するんだな?
邪気を持つ魔物はずっと魔物除けのあるところにいると弱ってしまうので、案外飼うのが難しい。
ワイルドボアはコブタマンに似た味とのことだった。
邪気が抜けて完全に家畜化に成功したら、ノーマル人地区でも導入したいな。
期待して待とう。
「じゃ、帰るね。レモンバーベナありがとう」
転移の玉を起動し帰宅する。




