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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1588話:あたしと本の関係

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 毎晩恒例のヴィル通信だ。


「今日ねえ、すごく勉強になったんだよ」

『ん? 珍しく本でも読んだのかい?」

「読書? あたしはムダに睡眠時間を増やすようなことはしない」

『ムダって』

「枕にすると首が痛くなるし、よだれで本が汚れるし、夜の眠りが浅くなっちゃう。どう考えても損だ。損になることはしない」

『思いっきり言い切るなあ。隣のクララはどうしてる?』

「ユー様本を読んだ方がいいですよって顔してるけど、こればっかりは信用できない」


 いくらクララの意見でもなー。


『まあ君のポリシーだったらいいんだけれども。しかしユーラシアは本に拘るじゃないか。それこそアレクやクララよりも』

「せっかく人類が得た知識が失われるのが嫌なんだよ。損じゃん」

『いっぺんに大きなテーマになったなあ。ユーラシア的な損得の概念が絡んでくるし』

「だから得られた知識や技術やノウハウを、本として残しておいて欲しいんだよ。識字率向上も世の発展に重要だからさ。本が売れる世の中にしたいの」

『自分が読むこととは別の話と?』

「別だよ。あたしは賢いので、自分一人で何でもできるなんて考えてないんだ」

『ユーラシアはたまに驚くほど賢いことを言うなあ』

「そして賢いあたしの望む世界を作るのに役立つような人を育てるために、叡智の詰まった本を世に送り出すのだ!」

『騙されそうになるけどユーラシアの理屈だった』

「あーんど、あたしが眠くならないようなエンタメ本を増やして欲しい」


 アハハ、まあ本は大事だよ。

 イシュトバーンさんの画集の最初の目標小売価格は五〇ゴールドだった。

 結局六〇ゴールドになっちゃったけど、普通本っていうと一〇〇〇ゴールド以上はするものだから、かなり安くできたとは思う。

 でもフィフィのお笑い珍道中みたいにページ数のある本は一〇〇ゴールド越えちゃうのだ。

 将来的には、エンタメ本のような売れる本なら皆五〇ゴールド以下で売りたいもんだ。

 でないといくら識字率が向上しても、本が売れるような未来が訪れない。


「本は素晴らしいものだよ。皆が本を読みますように」

『何故本を読まない君の口から、本好きとしか思えないセリフが出てくるのかなあ?』

「皆が『精霊使いユーラシアのサーガ』を読みますように」

『本音がこぼれてきたぞ?』


 笑いどころ違うわ。

 大の本気だわ。


『話を戻そうか。何が勉強になったんだい?』

「今日ガリア行ったんだよ」

『ああ、商売の話だな? 札取りゲームの生産委託を頼みに、アレク達を担当者に会わせるという』

「そうそう。四日後に王様と森林大臣が会ってくれるって。あたし忘れてるかもしれないから、アレクとケスが輸送隊任務から帰ったら伝えといてよ」

『ハヤテは?』

「ハヤテにも。王様は『精霊の友』じゃないけど、割と精霊に配慮してくれるんだ。いるだけなら居心地悪いことないと思う。うちの子達も何回か王宮で御飯食べてるし」

『ナチュラルに食の話題になるなあ』

「ガリアに魚の加工品が一杯入ってる鍋料理があるんだよ。あれおいしいな」

『食べ物方面に話を広げろとは言ってないからな?』

「どっちに広げるんだったっけ?」

『勉強になった方』

「ぐー」

『おい、起きてくれよ。中途半端過ぎてこっちが寝られなくなる』


 冗談だとゆーのに。


「ガリアは寒い国だから、どうしても農産物はネックになるじゃん? 気温との勝負になる」

『うん、容易に想像できるね』

「ところが天使国アンヘルモーセンの隣国ダイオネアとラージャは農業国なんだそーな」

『ふうん。地図上では寒い国に思えるけど、比較的気候が農業に向いてるのかい?』

「いや、寒い国。で、明らかにガリアよりも寒い地区までライ麦・ソバ・ジャガイモの栽培が行われてるの」

『全て保存が利く作物だな。確かにライ麦・ソバ・ジャガイモを栽培できるなら定住農耕し得るだろうが、ガリアよりも寒い地区で可能なのは何故だい?』

「天使の加護があるからだって」

『三〇点。胡散臭い。もう少し現実味のある話を聞きたい』


 天使や悪魔に夢を見ていないサイナスさんは当然そう考えるだろう。


「ところが実際に現地の農民は天使の加護を信じてるんだよ。ガリアの王様も半信半疑ながら天使の恩恵があるのかって考えてたみたいだし」

『北方諸国は天崇教徒じゃなくても天使への畏敬の念があるのか?』

「多かれ少なかれあるように思えるね。とゆーか天使を過大評価してるのかな?」


 内海諸国の常識がドーラの非常識ってことなのかもしれない。


「でも賢いあたしは、何かカラクリがあるって考えるじゃん? 天使のパワーがなくはないのかもしれないけど、加護が国全体に及ぶなんてあり得んもん」

『ああ。今日は賢い日か』

「いつも賢いわ。王様とぽにょ連れて、ダイオネアの農業やってる北限のところ行ってきたんだ」

『ぽにょとはラブリーぽにょのことだな? 王妃候補の』

「そうそう。王妃内定したみたい。よかったねえ」


 ぽにょは今関係ないから続き。


「そしたら現地では、ライ麦・ソバ・ジャガイモの耐寒性品種をえらい凝ったやり方で輪作してんの。ライ麦・ソバ・ジャガイモだけじゃなくて、放牧地も絡めて肥料の補給もできるようにして」

『ほう?』

「国有地なんだ。国が指導して小作農にやらせてる」

『すごい先進的な農業じゃないか。ドーラじゃ考えられない」

「ガリアの王様もショック受けてたわ。ああやって工夫して得た作物をバックに天使国が幅利かせてると思うと、ちょっとおセンチな気分になるよ」

『ウソだ』

「大分おセンチな気分になるよ。栽培されてた耐寒性品種はもらってきたんだ。ガリアでも農地は広がるよ」

『え? そういう戦略的な品種は、国外持ち出し禁止なんじゃないのか?』

「だって現地の農民も天使の加護を信じてて、特別な品種なんて思ってないから」

『あ』


 知らないから秘密が漏れることもなかったんだろう。

 どんなけったいな秘密保持の仕組みだ。

 しかし数年経ってガリアが農作物増産に成功すると、内海諸国の勢力バランスは変わる。


「以上でーす。サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日は暇だな。

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