第1587話:北の未来
「ごちそーさまっ! お腹一杯です! おいしかった!」
「満足だぬ!」
ガリア王宮に帰ってきて夕御飯をいただいた。
自分は食べてないのにも拘らず、あたしの気持ちを代弁してくれるヴィルをぎゅっとしてやる。
ヴィルは皆の上機嫌の感情を吸ってるだけで満ち足りてるのかなあ?
あんたはいい子だね。
王様が真面目くさって言う。
「知らないことが多かった。我がガリアの耕作よりも大層進んでいる。農業大臣を連れて行くべきだったな」
「そうだねえ。あたしもビックリした」
ダイオネアの北限農業地域を視察後の感想だ。
もっとも農業行政のプロより、篤農家や農業そのものの専門家がいたら北限農業を見せたかったなあ。
現地のづら農夫にもらった、ライ麦とソバ、ジャガイモの苗、カブの種は貴重な研究材料になる。
数年後、ガリアの農業生産力を飛躍的に引き上げる源となるだろう。
ぽにょが恐る恐るといった感じで言う。
「あの、ユーラシアさん。よろしかったんですか? 一〇万ギルの出費になってしまいましたが」
づら農夫に礼として渡したおゼゼだ。
大金と言えば大金ではあるが。
「いいんだ。メッチャ価値のある情報だったし」
「うむ、まさに」
「づらのおっちゃんを共犯者にするためには必要な出費だった」
「ハハッ、共犯者か。ひどいな」
「御主人はあの農夫のワンダーセンスとづら語尾を気に入ったようだぬ」
「気に入ったけれども」
大笑い。
楽しい一時だ。
「いや、一〇万ギルを出させたことについては申し訳ない。いずれ何らかのお返しをさせてもらおう」
「だったらガリアのおいしいお酒もらえないかな? お世話になってる人にあげたいんだよね。ガリアのお酒は飲んだことないと思うから」
「お安い御用だ。代表的なものから珍しいものまで用意させよう」
「ありがとう!」
デス爺にいいお土産ができた。
王様が声を落とす。
「……あの『スワップスクエア』という農法だが」
「うん。大したもんだねえ」
正方形の区画を一二に分割。
半分を放牧地に、半分を畑にし、さらにその畑部分を六分割してライ麦・ソバ・ジャガイモ・ライ麦・ソバ・ジャガイモと輪作する。
加えて畑の六分の一と放牧地の六分の一を毎年交換し、全体としては一二年サイクルで回すという、テクニカルな手法だ。
「ガリアでも導入しようと思う」
「いいんじゃないかな。改良すべき点はあるけど」
「ふむ、ユーラシアはどこが問題だと感じた?」
「小作料だな」
真面目に働いても不真面目でも小作料が一定では、サボっちゃうんじゃないだろうか?
ダイオネアでは真面目に働かないと天使の罰があるとかで脅してるのかもしれないけど、ガリアでは通用しないだろ。
「怠惰な者には罰を与えるべきか?」
「いや、収穫量に応じて小作料を上下するようにした方がやる気が出るんじゃないかな。優秀な小作農には褒美出してもいいし」
国に接収する収穫量を決めといて、オーバーした分は小作がもらえるんでもいいし。
やりようはいくらでも。
「予は放牧地が疑問に感じたな」
「放牧地? 何で? どの辺が?」
休耕地にして地味地力を回復させる、肥料の補給を担わせるというのは合理的だと思うけど。
灰の民もニワトリやウズラを使って似たようなことはやってる。
「冬季に家畜の食料が不足するであろう?」
「あ、そーか」
寒い気候のところでは冬は草がないもんな。
温暖な地に住むドーラ人のあたしにはない発想だったよ。
プニル君は冬の食べ物どうしてるんだろ?
「じゃ、干草や家畜用の飼料をどこかで計画的に生産してるのか。いよいよ大規模資本の主導じゃないとやれない農法だねえ」
「うむ。あれほどの施策をダイオネアが行っていたとは……おそらくはラージャも同様の手法を用いているのだろう」
「ラージャの畑はダイオネアほど整っていないぬよ?」
「そーなの?」
ヴィルの言葉に王様が何か閃いたらしい。
「わかった。ダイオネアは中央集権的な王国だから王の主導で行えるが、共和国のラージャは自作農が多くて個人か団体かがバラバラにやってるんだな? 我が国が手本にすべきなのはダイオネアだ」
「うん。でもあんだけすごいことやってるのに、小作のおっちゃんは天使の加護だって信じてたじゃん? 天崇教の影響力もヤバいよね」
「だからこそ予らも騙されていたわけだが」
「しかも多分何十年もでしょ? 農作物大増産計画っていつ頃だったんだろうなあ」
「わからんな。聞いたこともなかった」
アンヘルモーセンかダイオネアかラージャか。
あの辺りの農業研究者の努力が、不毛の寒地を農地に変える品種と農法を生み出したんだろう。
北国の食糧事情を改善し得る素晴らしい研究が、食料を握ることによってテテュス内海の流通を支配するアンヘルモーセンの政策に利用されたのは残念ではある。
でも今後は内海各国に『スワップスクエア』農法が広がっていきそう。
「カブは知らない作物だった。ガリアの市場には出回ってないはずだ」
「ガリアにはビートがあるからかもしれないな。根も葉っぱも全部おいしく食べられるし、種から油も取れる有用な作物だよ。寒いところで作れるってのはあたしも知らなかったけど」
カブは煮ても炒めても酢漬けでもおいしいのだ。
素直で優しい味がする。
「感謝するぞ、ユーラシア。農耕北限問題はガリア長年の課題であった。今日、一気に解決した思いだ」
「まだ早いってば。もらってきた苗を増やして試験的に農法を取り入れてみて。喜ぶのは成功してからでしょ。まだ何年もかかるよ」
「うむ……しかし今まではきっかけすらもなかったからな。北限に挑戦するのは不可能なことだと思っていた」
満足そうな王様と、王様を見てニコニコしているぽにょ。
執事らしき人が結構な荷物を運んできた。
「陛下、用意ができました」
「うむ。ユーラシア、これを持っていけ」
「お酒? ありがとう!」
デス爺喜ぶぞー。
「じゃ、今日は帰るね」
「バイバイぬ!」
「うむ、また来い」
転移の玉を起動して帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
これもクエストだったか。
ガリアで五つ目だったか?
そろそろ『ガリア・セット』のクエストも終わりかもしれない。
明日は特に予定ないし、海岸行って新しい地図の石板来てるか確認しないとな。




