第1584話:プニル君のサービス
フイィィーンシュパパパッ。
「ちょっと来るのが早かったかな?」
「早かったらスレイプニルと遊んでいればいいですぜ」
「それもそーだね」
魔境で楽しみ昼食を食べたあとに、ガリアの王宮にやって来た。
考えてみりゃプニル君も伝承に登場するような存在らしい。
気軽に遊べるってすごいことだなあ。
「プニル君どこだ? ここの庭やたらと広いからな」
「パレスの近くにいるね」
「あ、本当だ。珍しいな」
人間を驚かさないためか、いつも大体ちょっと離れたところにいるんだが。
ともかく王宮へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「おお、ユーラシアではないか」
王様とぽにょじゃないか。
玄関で何やってるの?
「スレイプニルが近くに姿を見せているということでな。雄姿を見に来たのだ」
「そうだったかー。プニル君がここにいるのは?」
『サービスだ』
サービスだったでござる。
よくわからんけど、プニル君も機嫌がいいんだろ。
「お土産持ってきた。ドーラで取れるいろんな野菜と柑橘だよ。好き嫌いがあったら教えてよ」
『すまんな。ありがたくいただく』
ふむふむ、大体何でも食べるな。
タマネギ・ジャガイモ・ダイコンはあんまりか。
根野菜がダメなのかと思ったが、ニンジンは好物だしな?
『柑橘は美味いな』
「柑橘は暖かいところの植物だから、ガリアじゃ栽培するの厳しいだろうな。ガリアのものだと何が好きなの?」
『ビートの甘いやつが好きだ。しかし人間が栽培しているものだろう? あまり食す機会はないな』
「王様、プニル君ビートの甘いやつが好きなんだって」
「ふむ、ならば時々用意させよう」
『ありがたい。我の力が必要なら言えと伝えてくれ』
「プニル君がありがとうって。力が必要なら言ってくれって」
「ほほう、スレイプニルの助力を得られるのか。贅沢なことだな」
どうもプニル君は甘みのあるものが好きな傾向にあるように思える。
とすると果物は大体食べるんじゃないかな?
王様が笑う。
「ユーラシア、ピュアセイント勲章が完成したのだ」
「あたしもちょっとした用があるんだよ。夕御飯一緒に食べようかと思って、お肉持って来た」
「そうか、中に入ってくれ」
「プニル君じゃーまたねー」
「バイバイぬ!」
うちの子達とともに中へ通される。
◇
「被った」
「似合ってるぬ!」
ヴィルは勲章好きだなあ。
ヴィルは随分あたしに貢献してくれているから、聖女ユーラシア勲章を授与してやりたいわ。
ガリアの勲章も首からかけるタイプだった。
いや、あたし大体チュニックを着ているから、どこかにくっつけて留めるタイプだと似合わない気がする。
わざわざこうしてくれたのかもしれないな。
王様とぽにょが首をかしげる。
「被った、とは?」
いや、デザインがね。
ナップザックから取り出す。
「これ、帝国でもらった特級聖女勲章なんだ」
「あっ、同じ意匠?」
「ハハハ、ユーラシアらしい凛々しさが表現されていたからな」
例の画集の表紙絵のポーズだ。
凛々しさって聖女に必要かしらん?
まーあたしに似合ってるからいいか。
聖女のポーズと言い張ってる内に浸透してくるだろ。
「ぽにょも王様の隣が似合ってきたねえ」
「そ、そうですか?」
「似合ってるぬよ?」
恥ずかしそうなぽにょ。
お世辞じゃないよ。
王様の押し出しが強いから、お妃様には控えめな女性が合ってるわ。
「今日はルーネロッテ様は?」
「社交界デビューが近いから、マナーとかお貴族様方向の人脈とかに力を入れろってことなんだ。あんまり遊んでやれなくなっちゃった」
「ああ、わかりますね」
「でも一昨日、ルーネを連れてタルガへ遊びに行ってきたんだよ。帝国の内海植民地の」
「タルガか。ふむ、どうだった?」
帝国の植民地タルガとガリアの衛星国サラセニアとの間で、アンヘルモーセンを介さない直接貿易が開始される。
王様も商売相手のことは気になるだろうな。
「タルガの近郊にはハマサソリっていう弱い魔物が生息しててさ。ルーネの初めての魔物退治にちょうどいいかと思って倒させたら、お父ちゃん閣下に文句言われた。危ないことさせんなって」
「ルーネロッテ様はかなりお強いですよね?」
「ハハッ、ドミティウス殿の過保護も相当だな」
「あたしが見てるのに危ないわけないのにな。ルーネの成長の足を引っ張んないかと他人事ながら心配」
さて、本題だ。
「サラセニアに対してアンヘルモーセンの当たりがキツいってのは、タルガ総督のサエラックさんはもちろん把握してる。とゆーか、アンヘルモーセンの拡大路線をかなり警戒してるっぽかったな」
「なるほど、タルガ総督も注意しているか」
「アンヘルモーセンを通さず直接サラセニアと貿易するってことは、タルガではもう一般にもかなり知られてるんだ。商人も少しずつ集まってきてるって」
「少しずつでも商人が興味を示しているか。朗報と言っていい」
「一昨日の段階で、サラセニア向けの輸送を今日明日中にも委託するって言ってたぞ?」
喜び頷く王様。
アンヘルモーセンを省いた内海交易の成功の可能性が高まってるからな。
「帝国は以前、内海への本格進出を目指したけど失敗して国が傾いたと聞いた」
「数十年前のことだな。予も歴史でしか知らんが」
「これは帝都一の大商人に聞いたことだけど、タルガもサラセニアも石炭が豊富じゃん? 石炭の強みを押しつける格好になるから、今回アンヘルモーセンは帝国とガリア両国を敵に回すことはできないだろうって」
「つまりアンヘルモーセンは、我が国とカル帝国の分断を図ってくるわけだな? 小癪な。しかし予想の範囲内だ」
「帝国は外海での失点を内海で取り返そうとするはずだよ。ガリア&サラセニアとの直接貿易を開始しながらアンヘルモーセンとの貿易もしれっと続けて、内海勢力図を塗り替えるつもりだと思う。だから当面ガリア&サラセニアとの協調をやめるつもりはない」
「ほう、帝国も大胆だな。しかし下劣なアンヘルモーセンよりはマシだ!」
んー王様沸騰してるかな?
冷ましておかねば。
「帝国には帝国の思惑があるからね。一方向ばっかり向き過ぎるのは良くないぞ? 今はアンヘルモーセンの専横を抑えるのが先だから、帝国と協力して貿易額を大きくし、商人呼び込むのがいいだろうけど」
「ユーラシアは冷静だな」
笑う王様。




