第1582話:ギルドにて、着々と廃止後の準備
――――――――――二五二日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「やあ、ユーラシアさんいらっしゃい。今日もチャーミングだね」
「おっはよー、ポロックさん」
「おはようぬ!」
いつもニコニコポロックさんが聞いてくる。
「今日は何か用があったのかい?」
「いつものように換金だぬよ?」
「最近ヴィルがおりこうだなあ。ペペさんに用がないこともないんだけど」
「ペペさんも来てますよ」
「うーん。急ぎの用じゃないんで、わざわざ起こすのは可哀そうというか」
寝る子は育つって言うしな?
いや、ペペさんは見た目は子供でも実年齢は大人だったか。
でも積極的に安眠を邪魔したいわけじゃないし。
『アトラスの冒険者』廃止に備えて、スキルスクロールの原版作ってくんないかなってだけだ。
ペペさんの仕事は早いので、今伝えなきゃいけないことでもない。
苦笑するポロックさん。
「いつも寝てるわけではないだろう?」
「そう? 起こさないで起きてるとこ、ギルドではあんまり見たことないな。睡眠確率九〇%くらい?」
「ハハッ、睡眠確率って」
「ナチュラルに起きてるペペさんに会えたらいいことがあるような気がする」
いや、ペペさんが目を覚ましてるのはトラブルがある時かな?
トラブルも面白いから、いいことの範疇に入れてやってもいいしな。
ともかくギルド内部へ。
「よう」
「ダン、おっはよー」
「おはようぬ!」
ツンツン銀髪の男が話しかけてくる。
「あんたあんまりギルドに来ねえじゃねえか」
「用がなきゃ来ないよ。あたしは忙しいんだ」
「普通は用がない時にこそ来るもんなんだぜ」
世の中暇人が多いな。
もっと働け。
「つまりダンも退屈を持て余してるわけだね?」
「持て余してるわけだぬ!」
「まあ暇だな。哀れな俺に面白話を献上してくれ」
「雑だなー。皆があたしに対してそーゆー扱いなのがいただけない。ま、いいや。依頼受付所行こ。おっぱいさんにも把握しててもらいたいんだ」
「知ってたか? ペコロスさんとサクラさんの新居、もうすぐ完成なんだぜ」
「形になる愛の巣ってキュンキュンするわ。どこに建ててるの?」
「ギルドの少しレイノス寄りのところだぜ」
大工さんはダンが手配してくれたのかもな。
ダンの実家の農場は、大工さんを呼ぶ機会も多いだろうから。
ともかく依頼受付所へ。
「サクラさん、おっはよー」
「おはようぬ!」
「おはようございます」
うむ、おっぱいさんの機嫌良さそう。
幸せで何より。
「ちょっといいかな?」
いきなり内緒話モード発動。
「『アトラスの冒険者』廃止後の話か?」
「うん、代替組織。名前は『アトラスの冒険者』のままでいいよねえ?」
「構わないと思います。一般の人は『アトラスの冒険者』廃止のことは知らないわけですから、混乱を引き起こさないためにも名前は継続させた方が良いでしょう」
ごもっとも。
ダンも頷く。
「新『アトラスの冒険者』で使用する転移の玉とりあえず五〇個は、もうドワーフに注文してきたんだ」
「早えな。完成はいつになるんだ?」
「転移の玉とホームに埋めといてもらうビーコンをセットで考えるよ? 一日一セットくらいは作れるみたいなんで、順調なら二ヶ月後には必要量揃うと思う」
「二ヶ月後ですか。まだ冒険者には廃止が伝えられていない頃ですね」
「うん。ただ転移石碑の方がデカくて時間かかりそうだから」
設置も含めてだけど。
「転移石碑ってどこ行きが必要かな?」
「ちなみにあんたが考えてるのは?」
「魔境、塔の村、カトマス、カラーズは絶対必要で、近いけどレイノス行きもいるかなとは思ってる。他はどーだろ? この五ヶ所は設計担当のデス爺も行ったことあるから、すぐに設計図書いてくれると思うんだ。でもそれ以外の場所は早めに連れていって、現地を見せといた方がいいかもしれないし」
ビーコンを埋められない場所だと工夫が必要かもわからんしな。
「ギルド指定工房への転移石碑は欲しいですね」
「アルアさんのパワーカード工房はデス爺が関わってるから大丈夫だな。他はわかんないや」
「カトマスと塔の村の間が距離開き過ぎだろ。最低真ん中くらいに一ヶ所必要だぜ」
「なるほどの視点だね。クルクルがいいかな」
「クルクル? 何があるんだ?」
「今は何もないんだ。でも南部への街道を通すと、西域街道とクルクルで繋がることになりそうだから、いずれ交易で賑わうようになると思う」
クルクルが発展すると近隣の、例えばあたしの名前のついた集落とかも栄えそう。
「例の南部街道の話かよ。実現できるのか?」
「できる。現在西域街道に使われてる魔物除けの基石の正体がわかったんだ。同じもの使えばイケるよ。石の入手も目処ついたし、魔物除けの文様もわかってる。ドワーフの協力が必要だから実現は先になっちゃうけど、二年以内には何とかしたいね」
「できる子じゃねえか」
「あたしは当然のごとくできる子なんだよ」
転送先候補については、意識に置いといてもらえばいいのだ。
初心者に絶好のエリアや珍しい素材が豊富なエリアがあるといいな。
現在いい転送先を持ってる人がいたら、ダンが適当に聞き出すだろ。
「サクラさんとダンに頼みたいことがあるんだ」
「何だ?」
「何でしょう?」
「今、水魔法『アクアクリエイト』の輸出分スキルスクロールを、異世界に外注出してるじゃん?」
「あんたそんなずうずうしいことしてたのかよ?」
ダンは知らなかったんだっけ?
まあいいや。
「『アトラスの冒険者』が廃止されて異世界との交流が途絶えると、当然外注も出せなくなっちゃう。でもカラーズ緑の民の村でスキルスクロールを大量生産する体制はできたんだ。ごめんね、ギルドにお金入んなくなっちゃうけど」
「いえいえ」
「頼みたいことって何だよ?」
「いずれドーラで生産に切り替えるから、ペペさんに『アクアクリエイト』のケイオスワード文様の原版を作ってもらいたいんだ。そう言っといてくれないかな? 急ぎじゃないから、気持ち良く寝てるとこ起こすの可哀そうで」
「あんたいつも気にせず大声で起こしてるじゃねえか」
「たまにはあたしだって気を使おうと考える時だってあるんだよ」
「たまにはだぬ!」
アハハと笑い合う。
内緒話モード解除。
「サクラさん、じゃーねー」
「バイバイぬ!」
さて、換金だな。




