第1576話:正面から論破したでござる!
閣下がしみじみ言う。
「娘の成長を感じられて嬉しいやら悲しいやら……」
「何が悲しいのか、わけがわからんな。成長と言えばこの前温泉行った時、あたしとルーネのおっぱいがほぼ同じサイズだと判明したよ。来年には負けそう」
「貴重な情報ありがとう」
あれっ? ここは叱られて爆笑の場面だったんだけど。
感謝されるとムズムズするわ。
「タルガについての報告は後ほど聞こう。その前に特級聖女勲章だが、現物ができ上がってきたんだ。デニス、出してくれ」
「はい」
「どれどれ?」
勲章が先とは、閣下も宿題を残しておきたくないタイプかな?
あるいはデニス封爵大臣が忙しいのか。
おっと、右手を前に突き出したこの意匠は?
「画集の表紙のポーズだね?」
「ああ、君がモデルだということだったろう? デザインとして相応しいと思ってね」
「そーかー。ありがとう!」
封爵大臣が付け加える。
「待遇は特級勇士勲章と同じです。年間五万ゴールドの年金が支給されますよ」
「ありがたいなあ。贅沢してるつもりはないのに、何故かおゼゼが出ていくんだよね。謎過ぎる」
「ユーラシア君ほどあちこち飛び回っていれば当然だろう。適切なことに適切なだけ使っても、金はなくなるものだ」
「ほんとにそう。ありがたくない真理だなあ」
笑いごとじゃないわ。
もっともうちの場合、おゼゼに困れば魔宝玉ハンターの実力が炸裂するだけなので、特に深刻な事態にはならないけどね。
首から勲章をかける。
「どお?」
「素敵です!」
「似合ってるぬ!」
ヴィルの目がキラキラしてるやん。
マジで悪魔は勲章好きだな。
うまく使えばどの悪魔も言うこと聞いてくれるんじゃないの?
「タルガについての報告を聞こう」
「お父様! タルガについて私に聞いてくださらなかったのは何故ですか? 私の報告は当てにならないからですか?」
突然のルーネの剣幕に面食らうお父ちゃん閣下。
ハハッ、ようやくルーネのターンだ。
面白くなってきたぞーニヤニヤ。
「えっ? ……昨日はルーネを怒らせてしまって、報告を聞くどころじゃなかったから」
「おーうまい理屈を考えたなあ」
「タルガ総督府であったことを私に聞かないのは、頭の中までお子ちゃま扱いされてるからだとユーラシアさんが言うのです!」
こら閣下、殺意五〇%救難要請五〇%の目をこっち向けんな。
閣下がルーネを甘く見てたのは事実だろーが。
ヘルプ? 楽しめたからまーいーか。
貸し作ったろ。
「じゃ、あたしから閣下に話すから、ルーネからも付け足すことあったら話してね」
「はい!」
助かったみたいな顔をする閣下。
ちょろいなあ。
「サエラック総督とツェーザル中将の間は全然問題ないな。仲良くやれてる感じ」
「サエラックはちょっとくだけた性格だから、中将とはどうかなと思ってたんだ」
「商人みたいなおっちゃんだよねえ。サラセニアに対してアンヘルモーセンがキツいとか、アンヘルモーセンの国と認定商人と天崇教は三位一体とか、サラセニアに天崇教の宣教師をぎょうさん送り込んどるとか言ってた。総督がかなりアンヘルモーセンに警戒感を持ってるなという印象を持ったな」
「ふうむ、現場のサエラックもそういう意見か。アンヘルモーセンに対する警戒度は上げた方がいいかもしれない」
「商人も少しずつ集まってきてるから、サラセニア向けの輸送を委託してすぐ始めるって。そんなとこかな」
「ルーネの方からは何かあるかい?」
ためらいがちに話すルーネ。
「いえ、ありません。あの、サエラック総督とツェーザル中将の仲とかは重要な情報なのですか?」
「むしろ施政館にいては知ることのできない、一番重要な情報といっても過言ではないな。総督も中将も有能なのは周知の事実だが、両者の連携を欠いてはいざという時に不覚を取るおそれがあるだろう?」
「そうなのですね……」
「ある人物がどういう考えを持っているかというのは、報告書でもかなりのバイアスがかかると見ていい。バイアスの方向を知ることができれば、得られる情報はより有用になる。もちろんユーラシア君自身のバイアスもあるわけだが、ユーラシア君のスタンスはルーネも知っている通り明確だから」
「……」
「あとから報告書で上がってくる情報で重要なのは、鮮度が必要なものだけだよ。今のユーラシア君の報告だと、サラセニア向けの輸送を委託してすぐ始めるというのが該当する」
正面から論破したでござる!
さっきまでルーネにアタフタしてたお父ちゃんと同一人物に思えん。
さすが閣下、やる時はやるなあ。
封爵大臣とアデラちゃんが目を丸くしてるぞ?
「……私には随分足りないものが多いようです」
「足んないのは経験だぞ? ルーネの経験が足んないのはお父ちゃん閣下が悪い」
ハッハッハッ。
閣下がうまく収まったみたいな顔してるから、責任擦りつけてやった。
睨んでもダメだぞ?
ルーネが悲しそーな分の責任は取りなさい。
「ざっと見、タルガで気がついたことはあったかな?」
閣下が露骨に話題を戻したけど、考えてみりゃこっちが本題だった。
気付いたことはいくつかあるが……。
「ぶっちゃけタルガって、港にしか価値がないなあとは感じた。他所の開拓民集落からの集積地になってるのかと考えてたけど、とゆーわけでもなさそう? 道も帝国本土と繋がる立派なやつ以外にはないみたいだし」
「他の辺境開拓民集落は、何とか自活するのが精一杯だと思われる。実は戸籍や市民権もいい加減なんだ」
「え? よろしくないね」
辺境開拓民は税を免除されるそうだから、戸籍や市民権がアバウトでも帝国の財政には直接響かない。
だから放置してあるんだと思う。
でも市民権がないんじゃ他所へ移住もしづらいだろ。
ひいては山賊予備軍になってくれって言ってるようなもん。
「トサ様っていう、実力ある辺境開拓民と知り合いになったんだ。今度その人に案内してもらって、辺境開拓地の主なところ見てくるね」
「頼むよ。アデラ、トササマという名前は控えておいてくれ」
「はい」
「じゃ、あたし帰るね。帝国政府が内海交易と辺境開拓地に力入れるってことは、『ケーニッヒバウム』フーゴーさんや新聞記者に言ってもいい?」
「フーゴーは商工組合長だったな。助かる」
「じゃーねー」
「バイバイぬ!」
施政館を後にする。




