第1563話:遺書の存在を行政府に明かす
「こんにちはー。美少女精霊使いが重要だと思われるものを持ってきましたよ。重要だと思われる皆さんに会いたいです」
「はい、大使室へどうぞ」
行政府受付で訪問を告げたら自由に入ってくれって。
ついに案内もつかなくなったぞ?
いいんか? こんなことで。
「人員が足りてねえってのはわかるんだけどよ」
「いやマジでドーラの独立は早過ぎたよね。行政府に収入が欲しい」
「雑過ぎじゃねえか?」
「行政府のセキュリティが他人事ながら心配だよ」
面倒くさいよりはよっぽどマシだけれども。
何はともあれ大使室へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、ユーラシア君いらっしゃい」
プリンスルキウスがニコニコだ。
結婚式が近いからだろう。
クリークさんマックスさんアドルフという、いつものメンバーもいる。
皆腑抜けたような笑顔を見せているが、この爆弾を見てもその顔が維持できるかな?
「失礼します」
「あ、パラキアスさん、オルムスさん」
こっちの二人は緊張気味だね?
「ユーラシア君が重要なものを持ってきたと聞いた」
「連絡が入ったからか。あたしが重要なものって言った時は、世界を震撼させるほど重要なものだとわかってるなあ」
「世界を震撼させるほどか」
「見て驚け、じゃーん!」
爆弾よ炸裂せよ!
例の手紙を取り出す。
え? 溜めはどうしたって?
あたしだって空気は読むわ。
いかにもオルムスさんとパラキアスさん忙しそうだもん。
「これは?」
「封書が二通?」
プリンスが何かに気付いたようだ。
「陛下の印璽で封してある! この手紙は何だ?」
「コンスタンティヌス今上陛下の遺書と思われるものだよ」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
素早く驚愕から立ち直ったイシュトバーンさんが言う。
「おい、どういうことだよ。最初から話せ」
最初からってどこだ?
不死身の公爵の件は割愛するよ。
「リキニウスちゃんオードリー含めたうっかり元公爵一行がラグランドへ渡ったんだ。保養目的みたいなもん。うっかりさんのドジっ子属性というかハプニングの神様に愛された体質がラグランドの人達に大ウケで、反帝国感情は弱まってる感じ」
「うん、そっちは一安心だね」
「問題起きてないかと、一昨日ラグランドに見に行ったんだ。そしたらうっかりさんがくれた。隠居の身の上のうっかりさんが持つには重過ぎるからあたしにって。好きなように使ってくれって」
「二通ともグレゴール公爵から?」
「いや、もう一通はリモネスさんから。こんなものもらっちゃったけどどうしよう? って相談に行ったらリモネスさんも持ってたんだ。リモネスさんにも預かってくれって言われたの」
「随分信用されてるじゃねえか」
「あたしは崇め奉られるべき存在だから当然と言いたいところだけど、この展開は我ながら唖然」
呻くプリンス。
「……グレゴール殿とリモネス殿か。確かに陛下から遺書を託されてもおかしくない二人だが……」
「封がされているようだが、中を見た者は?」
「誰もいないよ」
「どういう状況で陛下から二人に渡されたかわかるか?」
「二人とも第一皇子の死去の直後、他に誰もいないところでだって」
「ということはつまり、後継者指名の手紙?」
「……」
背中がかゆくなるほどの沈黙と重い空気を打ち破ったのはプリンスだった。
「……リモネス殿の身は安全か?」
やはり陛下に何かを託されるならリモネスさんと考える者はいるだろう、ということか。
プリンスもそう思い当たるなら、リモネスさんが遺書持ってちゃ危険だったな。
「身辺探られてるみたいだよ。でもわけあって大丈夫」
リモネスさんには固有能力『断罪』がある。
遺書をあたしが預かってるなら弱みはない。
持ってないで押し通せるだろう。
「ふむ、リモネス殿はこの手紙について何か言っていたかい?」
「陛下が最終的に何考えてたかはわからないけど、この二通の手紙は皇帝後継者に関する重大な決定について書かれていると断言できるって」
「やはり……」
パラキアスさんが言う。
「ユーラシアはこの手紙をどうするつもりなんだ?」
「帝都の新聞記者にだけは、こういうものがあってあたしが持ってると明かしてあるんだ。陛下が亡くなったら遺書があることをすぐに報道しろって伝えた」
「なるほど、遺書の存在を明かされて、肝心の手紙がドーラにあるんじゃ様子見にならざるを得ないわけか」
「まあ。頃合い見計らって皆が見てる前で開封、内容の公表かな」
「うまい手だ。が……」
パラキアスさんの目が険しくなる。
「何故これを行政府に持ってきた? 今ここで開くつもりはないんだろう?」
「ないねえ。でもリモネスさんが言うんだ。あたしが陛下の手紙を持ってることを、プリンスには伝えておけって」
「リモネス殿が?」
「わけわかんないよねえ?」
再びの沈黙。
皆さんはどう考えるだろう?
「……ユーラシアはどう思う?」
「リモネスのおっちゃんは『サトリ』の固有能力から、手紙の細かい内容については知らないにせよ、何か掴んでるんじゃないかと思うんだ。先帝が残した意思って、その通りになるものなの?」
「とは限らないが、可能な限り考慮されるだろう。本物であればだが」
「じゃ、後継帝の名前が記してあるんならもう変えようがないじゃん。なのにプリンスに遺書の存在を伝えろってことは……」
「この遺書だけで次の皇帝は決まらない?」
「多分」
ここまでは間違ってないんじゃないか。
でもその先はな?
「リモネスさんはプリンスとドーラ首脳がツーカーだってことは知ってるから、プリンスに話せってことは、パラキアスさんやオルムスさんに聞かせろってことと同じだと思うんだ。でもだからどうしたって言われるとサッパリ」
クララはメッセージではないかと言っていた。
パラキアスさんやオルムスさんに通じるものがある?
でもドーラ人に何ができる?
「よくわかった」
「えっ?」
何か知らんが、パラキアスさんには通じたらしい。
今日の用事は終わりだ。
「じゃ、あたし帰るね。あとは、と。フリードリヒ公爵に超すごいお茶飲ませたら、メッチャ食いつかれたんだ。ザバンに出資してくれるって言うから、あたしに産出量の二〇分の一を仕入れ値で売ってくれるって権利の半分を、フリードリヒさんに譲ることにしたよ。その旨承知しといてね」




