第1561話:アグネスの悩み
フイィィーンシュパパパッ。
「さーて、チャーミングにしてコミカルな頭はどこかな?」
「あそこだぬ! 眩しいぬ!」
「おーい、じっちゃーん!」
ザバンから帰ってフリードリヒさんルーネライナー君を送ったあと、ヴィルと塔の村にやって来た。
デス爺の元へ駆け寄る。
「何じゃ、騒々しい」
「何じゃって、もったいつけちゃってもー。今日にも新『アトラスの冒険者』用の転移の玉の設計図、完成するって言ってたでしょ? もらいに来たんだ」
「うむ、できておる。小屋の方へ来るがよい」
「やたっ!」
設計図を渡される。
五〇個分ともなると結構な量があるな。
「じっちゃん、ありがとう。これお礼」
「うむ、酒か? 見たことのない銘柄じゃの」
「海の王国製のお酒だよ。海藻から造ってるんだって。帝国との輸出にかなりの量回っちゃってるけど、言えば取り引きで手に入るはずだからね」
「ほう、魚人達が酒造を行っているとは盲点じゃったな」
「あたしもじっちゃんが酒好きって知らなかったんだよ。サイナスさんに教わったんだ」
「お主は世界中を飛び回っているのだろう?」
「おねだり来たぞ? お酒で働かせたるわ」
アハハと笑い合う。
世界にはきっと変わったお酒もあるだろう。
お酒は腐らない消耗品だから、商品として有望だ。
ドーラでも一生懸命生産すりゃいいのにな。
「今度探しとくよ。じっちゃんは転移石碑の方の設計よろしく」
「現在のドリフターズギルドに置くのじゃな?」
「一番いい場所だと思うんだよね。管理しやすいし、レイノスにも近いし」
レイノスの旅人や商人を、行きだけでも有料で転移させるって商売をギルドの収入源にしてもいい。
「転移石碑って輸送には使えないのかな?」
「身一つの行商人くらいなら何でもない。実際ワシも高級素材や魔宝玉をレイノスで換金するのに使っておるしの」
「例えばウマに引かせた荷車一台とかは?」
「蓄えられた魔力量にもよるが、まあ考えない方がよいじゃろうな。転移事故の可能性が高くなる」
「そーかー。あれ、転移の玉の人数制限はどうなってるの?」
「ある程度以上の大きさの生体はカウントされるが、死体はカウントされぬ。荷物は人数枠八人分程度なら何も問題はない。それ以上の重量になると、使用者から引き出される魔力量が加速度的に大きくなるぞ」
やっぱり。
コブタマンをたくさん狩った帰りにデス爺製の転移の玉を使った時、消費するマジックポイント量が違うなと感じたのだ。
あたしは持ちマジックポイント量が多いから問題なかったけど、引き出される魔力量が加速度的に大きくなるってヤバい。
適正な使用を心掛けるべし。
「うちのヴィルはワープ上手なんだけど、一人でしか飛べないんだよね。誰かを連れて転移できる子もいるじゃん?」
「ヒカリが二人連れで転移できるな。いつもスネルとのコンビで塔の調査に当たっておる」
ヒカリもスネルも元々灰の民の村にいた精霊だ。
塔の村では会ったことないな。
熱心に仕事してるんだろう。
特にスネルは凝り性だから。
「何が違うの? 上手下手が関係あるの?」
「いや、素質じゃな。転移の玉の複数人同時に転移させる技術は、ヒカリの協力なしには実現し得なかった」
「へー」
転移術も色々難しいらしい。
アレクとエメリッヒさん、プラス『晴眼』持ちペーターのトリオで、デス爺の転移術を継いでくれるといいな。
「ユーラシアさん? ヴィルさん?」
「あっ、アグネスじゃん!」
「こんにちはぬ!」
天才冒険者デミアンの妹、猫っぽい吊り目を輝かせるアグネスだ。
うんうん、元気そうで何より。
「塔の村に来てるって話は聞いてたんだよ。でもこっちで会ったの初めてだねえ」
「ふむ、時々フィフィリア嬢と塔に潜っている?」
「はい!」
「初心者らしくない頭飾りじゃな、と思うていたのじゃ」
「あたしがあげたやつなんだ。各種状態異常と即死無効の優れもの」
「どこで知り合ったのじゃ?」
「アグネスのお兄が『アトラスの冒険者』なんだよ」
やや表情が曇るアグネス。
元気そうだけど悩みがある?
「で、どうしたの? 何か困ってる?」
「実は……」
ふむふむ、目標を見失ってる?
どゆこと?
「例えばフィフィリアさんはお金を稼いで家族の生活を成り立たせるという、明確な目標があるじゃないですか」
「職業として冒険者を選択したからには、多かれ少なかれおゼゼを稼ぐ側面はあるもんだと思うけど」
「ユーラシアさんは違いますよね?」
「……あたしはいろんな場所に行きたかったんだ。でもドーラは魔物だらけじゃん? だから魔物に負けない力が欲しかった」
懐かしい。
あたしの冒険者生活の原点は行動範囲を広げること、魔物を倒せる力を身につけることだった。
思えば最初はおゼゼやお肉のことは頭になかったんだなあ。
今からは考えられんことだけど。
「フィフィリアさんとは面識ありましたし、ほぼ同じ時期に冒険者になったということがありましたからね。探索にお供させていただくことが多かったんです。でも……」
「今のアグネスの目標は何なん?」
「お兄に負けたくない。レベルと知識が欲しいです」
デス爺が言う。
「アグネスの兄は大した冒険者なのかの?」
「うん、大したやつだよ。天才って言われてる。冒険者歴二年ちょい。ソロでやってるのにレベル七〇くらいある」
あたしがレベル上げに関わってないのに、上級冒険者でもトップクラスの実力がある若手はデミアンだけなのだ。
「ユーラシアさんはどう思います?」
「アグネスがどうすべきかってこと? 目指すところが違うかもしれないけど、フィフィのパーティーと行動をともにするのがいいんじゃないの? 執事さんの知識はすごいでしょ? メッチャ勉強になると思う」
「マテウスさんですか? わかります」
「次善がお兄に教えてもらうことだな。何だかんだでデミアンは一流だぞ? アグネスも経験を積むにつれ、お兄の実力がわかってきたんじゃない?」
「……」
「一度お兄とドリフターズギルドに来ると、いろんな人から話聞けると思うよ」
「……はい」
デミアンはシスコン気味だからアグネスも嫌なんだろうけどな。
でもお兄の実力は正当に評価してやった方がいいよ。
「じゃ、あたし帰る。じっちゃんアグネスバーイ」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




