第1558話:お茶に夢中
――――――――――二四九日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「あっ、精霊使い君!」
皇宮にやって来た。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵が慌てている。
「どうしたの? あんたがサボってることは想定済みだから、近衛兵長に言いつけたりはしないぞ? いや、意表を突いて言いつけてしまう手はあるな」
「よくわからない意表の突き方は勘弁してくれ!」
「勘弁するかしないかはあんたの心掛け次第だけれども」
「君を崇めるから!」
「崇めるぬよ?」
何かすげえ許しの乞い方来たぞ?
あたしは慈悲深いから、エンタメを寄越せば許してやるのに。
「詰め所に公爵様がいらしているんだ」
「公爵? どこの?」
帝国には三つ公爵家があるそーな。
あたしと関係あるのはアーベントロート公爵家のフリードリヒさんと、うっかり元公爵の息子オーベルシュタット公爵家のアルフォンスさん。
ここで意表を突くとすると三人目の公爵登場だが?
「フリードリヒ様だ!」
「フリードリヒさんかー」
何だ何だ?
今からライナー君連れてアーベントロート公爵家邸行くはずだったのに、どーして向こうから来るんだ?
「お茶がどうのこうのと仰っていたぞ? もちろんライナー様もいらしている」
「お茶? ははーん」
この前お土産に置いてきた超すごいお茶を飲んで、待ちきれなくなっちゃったのか。
ハハッ、可愛いな。
焦ったとこ見せるのは商人としてよろしくないのは重々わかってるだろうけど、一刻も早くものを押さえるのが先と考えたようだ。
でもごめんよ。
残念ながら販売権があたしにない。
「さすがフリードリヒさんだなー。いいものはわかってくれる」
「そ、そんなにすごいお茶なのか? 公爵様が自らおいでになるほどの?」
「超すごい。フィフィが世界一って太鼓判押したくらい」
「お茶にはうるさいフィフィリア様が?」
「ただ扱いがやたらと難しいし、生産量も少ないんだよね」
つかテオさん家オンリーの家業じゃ、残念ながら生産量なんて増えないわ。
フリードリヒさんが食いつくくらいなら増産を考えなきゃいけないんだが。
どうすりゃいいかな?
考えてる内に近衛兵詰め所にとうちゃーく。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユーラシアさん!」
飛びついてくるルーネとヴィル。
何なんだあんた達は。
「ユーラシア君」
「フリードリヒさん、どーしたの? 商人の仮面が剥がれ落ちてるけど」
「あのお茶は何だ?」
「ドーラに一軒だけ茶農家があって、そこで作ってるお茶葉だよ。この前飲んでもらったのは枝変わりで出た特級品。『リリーのお気に入り』って名前がついてるやつ」
「売ってくれ! いくらでもいい!」
「おお? いくらでもいいとな? あたしの心をくすぐる言葉を知ってるなあ。でもダメなんだ」
「どうして!」
「件の茶農家で生産する茶葉は、全てドーラ政府が買い上げる契約になってるの」
「くっ、既に手を打たれているのか……」
落胆するフリードリヒさん。
でっかい身体が小さく見えるよ。
「でもドーラにはお茶を飲む習慣がないから、ほぼ全量を帝国に輸出することになってるんだよ」
「それは朗報だ! ドーラとの貿易を行ってる商人に問い合わせればいいんだな?」
「プリンスルキウスが信頼してる、ベンノっていう商人さん知ってる? ベンノさんが独占で扱うと思う」
「ベンノ氏だったか。よく知ってる。コンタクト取ってみるよ」
「ベンノさんはもうドーラ産の新茶持ってるはずだけど、今はまだ普通のお茶じゃないかな。『リリーのお気に入り』の今年の一番茶はこれからなんで注意ね。でも普通のお茶も、フィフィが皇室に納入する品と同ランクと言って差し支えない、って言ってた程度にはおいしいよ。試してみてよ」
「それほどか。ドーラ産のお茶は侮れないじゃないか」
フリードリヒさんが何かに気付いたようだ。
「ん? ドーラ産のお茶は全量をドーラ政府が買い上げる契約で、外貨獲得のための輸出品になるんだろう? 何故ユーラシア君が持ってるんだい?」
「お茶の契約には、生産量の二〇分の一を限度にドーラ政府があたしに仕入れ値で売ってくれるってゆー特約がついてるの。ただしこの前公爵邸で披露したお茶は、契約が結ばれる前に手に入れたやつだけどね」
「つまりユーラシア君は、ドーラ産のお茶を安く手に入れることができる?」
「そゆこと」
「どうして君は特別扱いなんだ!」
怒っちゃやーよ。
「『リリーのお気に入り』の淹れ方を発見したのも、お茶を見出して帝国に売ろうって言いだしたのもあたしだから」
「淹れ方? 水出しなのはやはり理由があるのかい?」
「あるよ。ベンノさんにドーラのお茶のことを問い合わせれば、説明があると思うけど」
いや、今日はお茶のために来たんじゃないんだった。
「フリードリヒさんがえらそーな講釈を垂れるって場面を見物したいから来たんだよ。ライナー君が丸っきり存在感なくして空気になってるじゃん」
「もうライナー君に話はしたよ」
「えっ?」
ちょっと話しただけでは十分じゃないでしょ?
ライナー君も微妙な顔してるけど。
全然進歩してる気がしないわ。
「ユーラシア君が見るところ、ライナー君に何が必要だと思う?」
「やる気とおゼゼ。知識、発想、経験、人材と人脈かな?」
「ハハッ、贅沢なラインナップだね。しかし必要なものは、話しているだけで手に入るわけじゃないだろう?」
「え? まあ言われてみれば」
「つまり話すだけムダだ」
「ええ? メッチャ極論来たぞ?」
フリードリヒさんの言わんとするところはわかる。
話したから必要なものを備えられるなんて、あたしだって思っちゃいない。
前途ある天然女たらしライナー君に何となく気合が注入される様を、エンターテインメントとして見たかっだけだ。
フリードリヒさんが言う。
「必要なのは実地の経験だ。ユーラシア君、あの素晴らしいお茶の産地に連れていってくれ!」
「ライナー君の教育に何の関係が……まあいいか。現地に行けば超すごいお茶も好きなだけ飲めるし」
「好きなだけ飲める? 茶の売買契約はどうなってるんだ!」
「カラクリがあるんだよ。ヴィル、ザバンへ行ってくれる?」
「了解だぬ!」
契約契約と実にフリードリヒさんが面倒くさい。
ザバンに連れてってややこしいこと言いださないだろうな?




