第1557話:ボヤと魔力かまど
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
毎晩恒例のヴィル通信だ。
『今日ボヤ騒ぎがあったんだ』
「大変だったね。どこの誰ん家?」
『開拓地のエメリッヒ氏だ』
「えっ?」
元宮廷魔道士のエメリッヒさん?
何やらかしてんだ?
『魔力かまどの実験でな。想定よりも魔力供給量が大きかったらしくて、突然炎がぶわっと立ち上ったそうな』
「ははーん。まだ初期段階の実験じゃ、火力の調整もできないだろうしな」
『火力の調整?』
「料理するのに火加減は重要じゃん? 薪の量で調節しようとしてたんじゃ、料理人レベルの技量がないと難しい料理はできやしないんだよ」
『火力を供給魔力量で制御できるようにする?』
「そゆこと。可能になれば料理技術の向上だけじゃなくて、火事も減ると思うよ」
ま、今日はその魔力かまどのせいで火事になりかけたわけだが。
『幸い『プチウォーター』を使えるアレクがいたから、すぐに火を消し止めることができた』
「ふーん、そんな愉快なイベントを見逃してしまったとは」
『愉快じゃすまされないからな?』
しかし火事はヤバいよなー。
蓄えていたものが一気になくなってしまう。
特に人口が多くなると建物が密になり、延焼の危険が跳ね上がる。
赤眼族じゃないが、一遍に燃え広がって多大な損害が出る可能性がある。
もし大火事になった場合、アレクくらいの高レベル者ならともかく、低レベル者の『プチウォーター』じゃ何の役にも立たないだろう。
やっぱりペペさんに消火魔法を作ってもらった方がいいな。
「でも今エメリッヒさんもアレクも、デス爺の手伝いで忙しいんじゃなかったっけ? スキルスクロールのチェックもあるでしょ? よく魔力かまどの実験やってる暇があったね?」
『研究者って興味と材料があると、すぐやってみたくなってしまうものらしいぞ?』
「研究者じゃないけど、ちょっとわかる」
あたしもすぐ何かやってみたくなる。
他人のことは言えなかった。
「魔力量の調節は『スライムスキン』の導線を弄ればイケると思うんだよね」
アレクが『スライムスキン』の折り方の差で、魔力が流れる流れないなんてことをやってたしな。
『あとは火に強くて黒妖石のように魔力を溜める性質がなくて、かつ魔力をよく通す材料があれば、魔力かまどは理論的には完成らしい』
「もう完成ってのがすげえ。火に強くて魔力をよく通す材料か」
生体を構成する素材は一般に魔力を通すけど、火に強いとなると……。
「え? まさか『逆鱗』?」
『正解』
「やったぜ! 賞品は何だろ?」
『賞品は満足感です』
冗談はさておき。
だからエメリッヒさんは『逆鱗』を欲しがったのか。
「困ったなー。魔力かまど普及させるためにドラゴン狩りまくったら絶滅しちゃう。自然保護団体やドラゴンラブの人達から文句が来そう」
『逆鱗』の価格が高騰しちゃうわ。
ただでさえレア素材なのにな。
別の材料考えないと商品にはなんないだろ。
『いや、貴重な『逆鱗』じゃなくてもいいんだ。レッドドラゴンやファイアードラゴンの鱗なら、全身どこの鱗でも耐火性があるから』
「あ、そーか」
『小さな黒妖石を粘土で固めて使う要領ならば、魔力かまど一基に使用するドラゴンの鱗の量がそう多くなるわけでもない』
「りょーかいでーす。今度レッドドラゴンやファイアードラゴン仕留めたら、普通の鱗も剥がして取っておくね」
『頼むよ』
実際にはドラゴン帯で悠長に鱗を剥ぐなんて結構難しいんだが、何とかなるだろ。
魔力かまどイコール魔道コンロの実現が早くなりそう。
嬉しいなあ。
「こっちおかしなことになった」
『ユーラシアのやってることは大概おかしいけれども』
「おいこら、あたしのやってることがおかしいんじゃないわ! おかしいイベントに恵まれてるだけだわ!」
恵まれてる言っちゃってるけれども。
『何をやらかした。正直に言いなさい』
「あたしがやらかしたわけじゃないとゆーのに」
『犯人は大体そう言う』
「犯人じゃないわ。皇帝陛下の遺書、二通目が出てきちゃったの」
『えっ?』
「で、二通目の遺書もあたしが預かることになった」
『どういうことだい?』
説明っと。
「遺書をどうしたらあたしの世界征服計画に組み込めるかなって、リモネスさんに相談したんだ」
『『サトリ』の能力持ちだったか? 皇帝陛下の知恵袋だという』
世界征服計画はスルーされてしまった。
「リモネスさんは貴族じゃないし、どこの派閥ってわけでもないからさ。相談するのにはちょうどいいと思ったの。陛下に近いところにいる人だから、何か知ってることあるかもしれないし。そしたらリモネスさんも遺書を預かっていたという」
『……皇帝陛下に信頼されていて側にいる、かつ次期皇帝争いと関係の薄い人ということか。遺書を持っていると考えられる状況ではあったな。内容は同じなのか?』
「ごく個人的な部分は違うかもしれないけど、重大な内容は同じだと思う。渡されてる時期はほぼ同じだし。リモネスさんも同じだろうって言ってた」
『リモネス氏も内容は知らない?』
「能力が能力だから、感じ取ってることはあるんじゃないの? でも見てはいないって」
今一番真実に近いところにいるのはリモネスのおっちゃんか。
『まだ他に遺書が出てくる可能性は?』
「ないって。リモネスさんが断言してたから間違いないな」
『どうして君が預かることになったんだ?』
「リモネスさんの身辺が騒がしいらしいんだな。遺書を持ってると危険みたい」
『ははあ、遺書の存在に感付いた者もいるらしいということか』
そゆこと。
『断罪』のこと言わなくても、身辺ヤバいことは通じるだろ。
「で、帝都の新聞記者を呼んで、もし陛下が亡くなったらあたしが遺書預かってることをいち早く報道しろって伝えてある」
『つまり遺書の内容が公表されるまでは混乱は抑えられる。遺書を持ってる君がドーラにいるなら、不測の事態もあり得ないということか』
「帝国の未来は賢い美少女精霊使いの手に握られた!」
『マジで吹いてる通りなのがえぐい』
吹いてないし、えぐくもないわ。
実に面白い展開になったわ。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はライナー君か。




