第1556話:アンヘルモーセンの思惑は
「ルーネロッテ嬢はどうなのだ?」
「はい? どう、と仰いますと?」
「ラブい話はないのか?」
「王様ったらストレートにぶっ込んでくるなあ」
王様遠回しに言うこと好きじゃなさそうだもんな。
あたしも直球は大好きなので、面白い展開になったわニヤニヤ。
ちょっと寂しそうにするルーネ。
「私はまだ社交界デビューもまだですので……」
「表情心音に異常なし。ルーネには気になる異性がいないようです」
「ハハッ、ユーラシアはまことに敏感だな」
「あれどうなったの? 花束の役」
「お父様も乗り気です! 立派に務めさせていただきます!」
不思議そうな王様。
「何だ? 花束の役とは」
「今度プリンスルキウスとアーベントロート家フリードリヒ公爵の令嬢が結婚するんだ。その一般披露パレードで、新婚夫妻に花束を渡す役をルーネがやるってこと」
「ほう? 注目度抜群の役ではないか。しかしルキウス殿? ユーラシアが皇帝候補と言っていた?」
「うん。在ドーラ大使の第四皇子」
「ドミティウス殿とは次期皇帝を巡るライバルではないか」
王様そーゆーところすぐ気付くのな。
最近は結構帝国の次期皇帝事情について、かなり調べさせてるみたいだ。
お父ちゃん閣下が娘のルーネを喜んでライバルの式典に差し出すってのは、王様から見ると奇異に思えるのかもしれない。
「ライバルっちゃライバルだけど、仲悪いわけじゃないし。お父ちゃん閣下もプリンスルキウスも、つまんないことで国割ろうとするほどバカじゃないんだよね」
「ふむ、大人だな」
もっとも周りの人間にはバカがいるんで、プリンスを殺そうとするやつもいた。
王様は白黒ハッキリってのが好きそうだけど、スパッと解決だけじゃダメだってのもわかってる人だ。
苦労したからかなあ?
「ルーネロッテさんはどんな男性が好みなんですか?」
「ユーラシアさんが男性だったらいいのですけれども」
「……時々言われるな。理由は考えたくないけれども」
おっぱいか?
おっぱいが控えめなせいなのか?
「この前のライナーという伯爵令息はどうなのだ?」
「ライナー様は私など……。リリー叔母様の婚約者候補ですし」
「叔母様かー」
リリーはルーネの立場からするとおばちゃんなんだな。
聞き慣れないから一瞬何事かと思ったわ。
「リリアルカシアロクサーヌ皇女か。確かコンスタンティヌス今上帝の末子だな? よく名を聞くが、どんな皇女なのだ?」
「いい子だよ。年齢はあたしと同じくらいで、武術好き。ワイバーンの卵が好きで、朝は苦手。昼頃まで起きてこない」
「何故ユーラシアが詳しいのだ?」
「リリーはドーラで冒険者やってるんだ」
「ほお? 奇特なことだな。帝国とドーラの良好な関係がよくわかる」
リリーがいても帝国は構わず攻めてこようとしたけどな。
「騎士ライナーが婚約者候補とは?」
「傑作な話でさ……」
貴公子こてんぱんイベントとヤマタノオロチがどうのこうの。
「ハハハ、愉快だな」
「でしょ?」
「三人の貴公子は全滅というわけか?」
「全滅……でもないな。皆成長してる。リリーの婿として一番見込みがあるのは、フリードリヒ公爵の次男だよ。今、新男爵として領地経営に一生懸命なんだ」
「ふむ、アーベントロート公爵家が日の出の勢いなのか?」
プリンスルキウスの婚約者パウリーネさんがアーベントロート公爵家の令嬢だからという連想か。
とも限らんけどな?
プリンスが皇帝になるとそう見られるようになるかもしれないが。
「アーベントロート公爵家は、権力にあまり関わらない家風らしいよ。当代のフリードリヒさんは元騎士で、今は商売に一生懸命。跡継ぎの長男は現役の騎士だし」
「賢い生き方だな。うむ、大いに参考になった。情報感謝する」
熱心だなあ。
勤勉な人は好感持てるよ。
ぽにょからも好き好き尊敬光線出てるじゃん。
王様応えてやれよ。
「それで今日、ユーラシアが来たのは?」
「大したことじゃないんだ。帝国の人事の報告だよ。ツェーザル中将が一昨日タルガに着任した。同時に新造艦も就役だって」
「よし。ならばもうアンヘルモーセンが海上で仕掛けてくることはないな。早期にタルガと貿易開始だ」
「海上で仕掛ける? アンヘルモーセンって海賊みたいなことしてくるの?」
「まさかと思いたいが、やりかねないムードだったのだ」
マジかよ?
考えてた以上にギスギスしてるんだが。
「アンヘルモーセンは、どこの国に対しても嫌がらせしてるの?」
「ということはない。横柄な国ではあるが、現在露骨に干渉してくるのはサラセニアに対してのみだと思われる」
だよなあ。
いくらテテュス内海の覇者ったって、他国全部から総スカン食らったら貿易なんかやっとれんわな。
だったら何故サラセニアに固執する?
「どー考えてもおかしいじゃん」
「む? 何がだ?」
「どーしてアンヘルモーセンはサラセニアを標的にするの? バックにガリアついてるのなんかわかりきってるじゃん」
「だからカル帝国がアンヘルモーセンと組んだ可能性が高いと考えていたのだ。的外れだったが」
「他の理由、王様に心当たりある?」
「サラセニアは国土が狭い割に人口は多い。食料を盾に取って揺さぶられると、内海諸国で一番弱いだろうな。サラセニアの石炭を確保したいという思惑もあるだろう。ガリア王たる予が年若で舐められているせいもあるのではないか」
一応の理由にはなり得るか。
「我が国と帝国の関係が強化されれば、アンヘルモーセンの干渉は収まるのではないか?」
「むーん?」
「ユーラシアは我が国とサラセニアのさらなる関係強化が必須と見るか?」
「関係強化は大事だけど」
『ガリア・セット』のクエストは続いている。
ガルちゃんは、天使がサラセニアに勢力を広げようとしていると言っていた。
アンヘルモーセンではなくて天使が主体なのか?
天使がより多くの信仰心を得るために、どこかの国を狙うことはあるかもしれない。
しかし何故サラセニアを?
条件がいいとは思えないんだが。
ルーネが笑う。
「ユーラシアさんは、他国のことでも熱心なんですね」
「交易は自由であるべきだと思うんだよね。でないと欲しいもの手に入れるのが難しくなっちゃう。邪魔するやつはあたしの敵だな」
「敵だぬ!」
王様が言う。
「時間が過ぎれば腹が減る。食事にしようではないか」




