第1537話:ある意味お宝を手に入れた!
あたし達であることはわかっていたのだろう。
その羽を持つ緑色の精霊が飛びながら寄ってくる。
「ウツツ、こんにちはー」
「こんにちは。お久しぶりです」
「おう、ウツツ。元気だったか?」
「もちろんだよ、アトム」
「そっちのふよふよ飛んでる子が悪魔のヴィル。好感情好きなとってもいい子だよ」
「とってもいい子ぬよ?」
「こっちのいじわるそーな子がコケシ。無差別殺戮の好きな子だから、餌食にならないようにね」
「何てことを言うんですか!」
アハハ、まあまあ。
今日のコケシは随分大人しいじゃないか。
逆に不安になるわ。
ウツツが言う。
「皆さんは苔むした洞窟に何か用がありましたか?」
「最初にここでアトムやウツツと会った時に見た、石碑だか石の蓋だかがあったじゃん? 宝箱の置いてあったところのさらに奥の、読めない文字のやつ。あれを読みに来たんだ」
「中に宝物があるかもしれませんものね」
「あ、中があるの?」
「と、決まったわけじゃないですけど。誰も足を踏み入れぬ苔むした洞窟最奥の謎を解きし勇者達よ。その宝物は叡智を極めし貴公らのものだ、って言いたいじゃないですか」
「ウツツはいいこと言うなあ」
「何もないフラグが立てられたんじゃないでしょうか?」
「コケシは悪いこと言うなあ」
アハハと笑い合う。
ウツツはドラマチックで大仰なセリフが好きな子。
コケシは皮肉と逆接と無慈悲が似合う子。
ただ現在のところコケシの機嫌が大変よろしい。
何でだ?
いや、気分良く仕事してくれそーなのは悪いことじゃないけれども。
「コケシなら簡単に読めるもんなんだ?」
「ユーラシアさんにもらった資料に書かれていた文字と同じものならば、問題なく読めると思われます。コモンズで書かれていることさえわかれば、文字を当てはめていくだけですから。完全な訳の資料がありましたし」
見たことない文字ということは、コモンズで書かれていない可能性も高かったのか。
いずれにせよ資料が少なかった時は何もできなかったに違いない。
「鋭い舌先攻撃力以外でコケシすげえと思ったのは初めてかもしれない」
「何なんですか舌先攻撃力って。もっと私を尊敬してもいいんですよ」
「うん、尊敬する」
「へっ?」
戸惑うな。
今みたいな時こそクララチックにえへへーって言ってりゃ可愛いのに。
件の大石の方へ。
書かれた文字を見て顔を顰めるコケシ。
「どお?」
「……苔でかなり見づらいですね。ちょっとこのままでは判別できないです」
「剥がしやしょうか?」
「うーん、字を傷つけると読めなくなっちゃうしな?」
「ファイアーはどうね?」
「その手もあるか。でも焦げてこびりつくとさらに厄介なことになっちゃうかも?」
小石でこそげ落としながらコケシが言う。
「いえ、大丈夫です。何とか読めます!」
「やったぜコケシ!」
「勝利は貴公のものだ!」
ハハッ、ウツツもノリがいいなあ。
字を削っちゃうといけないから、作業はコケシに任せる。
彫りつけられた文字を読み上げるコケシ。
「『この先、トイレなし』」
「「「「えっ?」」」」
何それ?
予想もつかない内容だったわ。
しかし『この先』ときたぞ?
やはり中に何かある?
「続きがあります。『中のものを託す』。最後に署名だと思います。『ヒバリ』と」
「ヒバリさんの遺産か!」
ビックリ!
つまり『この先、トイレなし』って、ヒバリさんのジョークなんだな?
ドーラの特に西域の発展に尽力し、将来の発展を夢見たヒバリさん。
何を残してくれたんだろうか。
「よーし、じゃあこの石はただの蓋と決まった。外すぞ!」
あれ、見た目より薄い石で簡単に外れた。
もっともあたしのレベルあってのことだろうけれども。
さて、中にあるのは?
「明るいね? 風も通ってる」
外は湿っぽくて苔だらけだったのに、中はどういうわけか乾燥しとるやん。
中とゆーか、洞窟外部なんだろうな、ここは。
「姐御! 碧長石でやす!」
「ザッツグレイト!」
大量の碧長石が並んでいた!
やった、欲しかったやつ!
しかしうちの子達が喜んでいるのに、コケシとウツツはポカンとしている。
「何ですか? この石は」
「強力な魔物除けが作れる特殊な石なんだ。コケシの主人エルの世界の住人がよく使うみたい。これがあれば新しい街道が作れる! 集落の安全性も飛躍的に高まる!」
あたしはすっごい嬉しいのに、コケシとウツツには感情を共有していただけないようだ。
こーゆーテンションのギャップはちょっと寂しい。
「もちろんコケシとウツツにも分け前あげるからね」
「いりませんよ、そんなもの」
「僕もいらないです」
「そお? じゃああんた達の意思は、ドーラの発展にありがたく使わせてもらうね」
「べつに意思なんかないですけれども」
「つれないなー」
コケシが何かに気付いたようだ。
「あ、ここにも何か文字が刻まれていますね」
「よく見つけたね。何て書いてあるかな?」
中は比較的乾燥しているためか、苔は生えていない。
読みやすかろう。
「ええと、『肉はラブ、肉はピース、肉はミート』です」
「間違いなくヒバリさんだわ」
不可解な顔をしながらウツツが聞いてくる。
「そのヒバリという方はドワーフなんですか?」
「この洞窟はドワーフの研究所って話だったね。違うんだ。ヒバリさんは一〇〇年くらい前のノーマル人だよ。西の亜人達と交流があったんだって」
ここがドワーフの研究所と伝えられていたのは、本当に工房みたいな用途で使われていたのかもしれないし、あるいは石の加工にはドワーフの協力を得よという、ヒバリさんのヒントだったかもしれない。
コケシが言う。
「こっちの石には『塔二八階』と書いてありますよ?」
「『塔二八階』? あっ! 塔のダンジョンの二八階でこの石採れる?」
「……そういえば趣きの異なる石でできた階がありましたよ」
「やたっ! 完璧だ!」
『永久鉱山』の塔のダンジョンなら、碧長石を採り尽くすことはない。
ヒバリさんは魔除けとして使えって言いたかったんだろう。
文字は赤眼族の、この場所はドワーフのヒント。
両者の協力がなければ碧長石は魔物除けとして使えないから。
さすがのヒバリさんも、現在の赤眼族はこの文字を読めないってことまでは思い当たらなかったようだけど。
「協力ありがとうね。腹も減った。お肉を食べようじゃないか!」




