第1530話:初体験フィッシング
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
「ユーラシア!」
魔境で稼いだあと、ラグランド行きの船にルーネを連れてやって来た。
ヴィルとオードリーが飛びついてくるのはわかるが、ルーネまで引っついてくるのは何故だ?
うっかり公爵を喜ばせるためか?
もう慣れたからいいけれども。
「オードリーにお土産だよ」
「大きい卵じゃの!」
「ユーラシア君、これも魔物の卵なのか?」
「そうそう、ワイバーンの卵だよ。大きいだけじゃなくてすごくおいしいの。ドーラでは高級食材とされてるけど、市場に出回ってるのは見たことないな。リリーや皇妃様の大好物。夕御飯にでも食べてちょうだい」
「うむ。ありがとうの!」
「ところで今日どうしたの? えらく船のスピード遅くない?」
うっかり公爵と船長さんが説明してくれる。
「航海が思った以上に順調であるそうだ」
「へー、いいことだね」
口に出しては言わないけれども、うっかり公爵が乗ってるのに順調って、何かモヤモヤするな。
あなたのピンチにあたし参上、ってやつがやりたかった。
「明日の到着時間の調整のために、釣りでも楽しんでもらおうかと思いましてね」
「メッチャいいところに来たな。あたし達にも釣りやらせてよ」
ルーネ大喜び。
「私、魚釣りは初めてです!」
「わらわもじゃ!」
「あたしも釣りはやったことないなあ」
「何? そうなのか?」
あれ、皆が不思議そうですね?
「あたしはお淑やかだから、釣りには縁がないとゆーか」
「ウソじゃ!」
「何でわかるのかな? 近海が魚人の領域ってこともあって、ドーラ人は釣りとか漁業はやんないんだよね。割とタブーなの」
「……うむ。思い返してみれば、わしもドーラ総督時代に釣りという話はついぞ出なかったな。よし、わしが教えてしんぜよう」
「お爺様! よろしく頼むのじゃ!」
「よしよし、王女殿。針にエサをつけてだな……」
うっかり公爵目尻下がりまくりやんけ。
オードリーは元気よくて可愛いからな。
リキニウスちゃんは釣り経験者なんだね?
じゃああたしとルーネは、リキニウスちゃんと船長に教えてもらお。
「そのまま竿を持ってるだけでは、魚はなかなかかかってくれぬのです。エサだけ食べられてしまいます。合わせが必要なのですよ」
「「合わせ?」」
「魚の口に針を引っ掛ける動作ですよ。針先には返しがついていますので、しっかり引っかかればそうそう外れません」
「合わせが早くても遅くても魚は釣れませぬ」
ほう、魚釣りとは食うか食わせるかの駆け引きが必要なのか。
エサと針で勝手に魚がかかるもんじゃないんだね?
ちょっと理解した。
面白いじゃないか。
「竿のしなりと錘でエサと針を遠くへ放り込む。あとは魚がかかったら、糸巻きで引いてくればよろしい」
「わかった、やってみる」
えーと、竿のしなりを利用して、ぶーんと放り込めばよしと。
強過ぎると糸が切れちゃうかな?
加減して……。
「ナイスキャスティング!」
「アハハ、楽しいなあ」
上手に投げることができた。
放物線を描いてちゃぽーん。
エサが沈んでいく。
「……本当だ。エサに興味を持ってる魚がいる」
「わかりますかな?」
「うん、わかる。大きい魚っぽい」
「糸をフリーにして、鼻先にエサを持っていけますか?」
「やってみる。あ、来る!」
魚がエサをくわえた!
軽く合わせ!
「よーし、かかった!」
「糸を弛ませないように。かといって引っ張り過ぎないように寄せるのです!」
「オーケー!」
魚がジャンプ!
見覚えのある長い魚体だ!
「お、大きいですね?」
「シイラだ!」
「やたっ! おいしいやつ!」
シイラのフライはまよねえず講習会の時に食べて美味かった。
しかもデカい魚だから、食べるところたくさんあるんだよな。
何が何でも釣り上げねばならぬ。
強く引き過ぎると、口が切れたり糸が切れたりするわけだな?
緩めると逃げるチャンスを与えてしまうから、糸の張力を保ってと。
糸巻きをくりくり。
大体わかった。
竿の弾力を使って、糸に大きな力がかからないようにすりゃいいんだな?
「ほ、本当に初めてですか? 大変にお上手ですな」
「うん、理屈は理解した。魚釣り面白い」
船べりまで寄せてくると、船長さんが手持ちの網ですくってくれた。
やったぜ、いいサイズ!
「楽しかった! あたしはもういいや」
「そうですか? まだ時間はたっぷりありますよ?」
「オードリーとうっかり公爵の様子を見てくるよ。事故が起きるといけない。……ルーネとリキニウスちゃんの竿、あと五秒くらいで両方同時に魚がかかるぞ?」
「「えっ?」」
「油断しない」
「来ました!」
「ヒット!」
「夕御飯が充実するなあ」
ルーネとリキニウスちゃん大興奮。
糸絡まないようにね。
船長さん大忙し。
逆サイドのオードリーと公爵は?
正直トラブルに巻き込まれてるんじゃないかと心配で、おちおち釣りなんか続けてらんないわ。
「どお?」
「ピクピクしてたのじゃ! 何かがエサに寄ってきてたと思うのじゃ」
「そーか。んー? でも今は全然魚の気配ないな。エサ食べられてなくなっちゃったのもしれない。一度巻き取って確認してみ?」
「わかったのじゃ!」
くりくり。
巻き上げてみると……。
「何これ?」
エサが食べられちゃってることはさておき、えらくバカデカい針がついてるんだけど?
糸も太いぞ?
うっかり公爵が得意げに言う。
「大物狙いだ。小物などいらん!」
「おいこら、ちょっと待て! 間違って大物がかかったら、オードリーが海に持ってかれちゃうだろーが!」
「あっ?」
あ、じゃねーよ!
やっぱ見に来てよかったわ。
さっきのシイラだって結構な引きだったぞ?
まったくすっとこどっこいなんだから。
セグさんも揺れる船で足元が覚束ないようだし……。
「危ないから、あたしがオードリーについててやろう」
「よろしく頼むのじゃ」
針を小さいものに替え、エサをつけてぽーい。
「おお? ユーラシア君はうまいではないか。釣りは初めてなのだろう?」
「さっき一匹釣ったらコツがわかったんだ」
オードリーに竿を渡す。
「……うん、よしよし。魚がエサを見てる」
「まことか?」
「まことだよ。でも……」
これも結構デカいやつだぞ?
オードリー一人じゃマジで海に引きずり込まれるかもしれない。
ま、あたしがいれば平気だが。




