第1531話:頑張ったオードリーの勝利
オードリーに注意を促す。
「かなりの大物だよ。手伝ってやるから頑張れ」
「わかったのじゃ!」
「そのままそのまま。魚はエサを狙ってるよ。よし、追いかけてきたぞ。まだまだ辛抱して。……三、二、一、合わせて!」
「やあっ!」
「よーし、バッチリだ! ナイスオードリー!」
「わわわわわ?」
オードリーが竿ごと引っ張られて海に落ちそうになるのを捕まえる。
よしよし、大丈夫だからね。
竿を持った感じだと、さっきあたしが釣ったのと手ごたえが似てるな。
これもシイラかな?
「あたしが竿持っててあげるから、あんたは糸を巻きなさい」
「了解なのじゃ!」
しかし四苦八苦している。
オードリーの力ではなかなか巻けないようだ。
「はあはあ……」
「根競べになってきたね。負けるなよ?」
「無論じゃ!」
相手がでっかい魚ともなると、釣るのも一苦労。
体力勝負になるなあ。
魚も必死に左右に泳ぐけど、針は外れないぞー。
せいぜい疲れるがいい。
ん?
「……来る」
「何がじゃ?」
「かかってる魚だよ。この船に向かって真っ直ぐ泳いでくる。糸を緩めて針を外すつもりだ!」
敵もさる者。
夕御飯の分際で考えてきたな。
「どうすればよいのじゃ?」
「急いでがーっと巻いて!」
「わかったのじゃ!」
必死で糸を巻き取るオードリー。
だが糸は弛む。
まずい、ここでジャンプか!
「……ラッキー」
「こんなこともあるのじゃの」
船に飛び込んできたでござる。
やっぱりシイラだった。
あたしが釣ったやつより少し大きいかな。
飛んで船に入る夕御飯。
「よーし、根性が幸運をもたらした! 頑張ったオードリーの勝利!」
「ありがとうなのじゃ!」
「もう一匹いってみる?」
「いや、わらわは満足したのじゃ。お爺様が大物を釣り上げるのを見ることにする」
「ええ? どーかなあ?」
釣れないと思うぞ?
だって針がデカ過ぎるもん。
でもうっかり公爵はとんでもないトラブルメーカーだから、クラーケンとかかかっちゃうかもしれないしな?
あたしも見てよっと。
「ユーラシア殿」
「あ、セグさん。船酔いはどう?」
「すっかり平気です。魔法をかけてもらったあとは何ともなくて。もう不思議なほどですぞ」
クララの『キュア』も謎だな?
船酔いはその場だけじゃなくて、根本から治るのかしらん?
「お母ちゃんは?」
「アルヴィリア様ですか? 船酔いの方はいいようですぞ。しかし昨日、気が高ぶり過ぎたのか、少々発熱してしまったようなのです」
「あちゃー。昨日もそーゆー兆候があったんだよ。だから公爵が休めって言ったことにあたしも賛成したんだけど」
病気には魔法効かないからなー。
夫の第一皇子を亡くしてから、気落ちして体力が落ちてるのかもしれない。
ラグランドで保養になるといいけど。
「ただ大したことはないようです。ユーラシア殿、ルーネロッテ様によろしくと」
「オードリーにあげた卵。あれ最高の滋養効果があるってお医者さんが言ってた。お母ちゃんにも食べさせてやってね」
「わかりましたぞ」
オードリーがうっかり公爵の隣に座り、嬉々として何か話している。
「姫様が毎日楽しそうで、わしは嬉しいです。グレゴール様もアルヴィリア様もリキニウス様も大変良き方で……」
目を潤ませるセグさん。
「ユーラシア殿のおかげです」
「単なる巡り合わせだぞ?」
いやまあそんなことあるよ、とかあたしを崇めるがよいと返すのが定番ではある。
でもあたしも雰囲気が読める程度には賢いのでやめといた。
一応。
「これからが大事だよ。あのうっかり公爵リキニウスちゃんお母ちゃんの三人がラグランド人に受け入れられるように、セグさんも気をつけてやってよ。必ずラグランドにもいいことあるからね」
「はい……。姫様のお父様お母様が亡くなられたのも帝国絡みであったのです。帝国に対しては、正直まだ思うところはあります。しかし今後がより大事でありましょう」
ラグランド人の反帝国感情はまだまだ強いだろう。
ホルガー総督の任期切れで新体制に入ると状況は変わるかもしれないが、楽観はできない。
うっかり公爵一行のラグランド入りでいい影響があるといいな。
幸いあたしはラグランド人にウケがいいので、時々様子を見に行ってやってもいい。
「ユーラシア!」
オードリーが呼んでる。
特に何もないようだけど。
「どーしたの?」
「お爺様の竿、ピクピクはしているのじゃ。しかしかかってはいないようなのじゃが?」
「魚がエサをつついてるね。でも針の大きさよりも口が小さいから……」
「へーくしょい!」
「あっ?」
うっかり公爵突然のくしゃみが不規則な動きを起こし、針が魚の横っ腹に刺さったっぽい。
こんなこともあるんだな。
さすがは公爵、トリッキーでござる。
「かかったぞ! 大物だ!」
「大きいは大きいけど、大まぐれだぞ?」
「ハハハハハ、大漁だっ!」
「一匹だけだとゆーのに」
掛け合いはともかく、針は魚体にしっかりがっちり刺さってる。
糸も太いやつだから、ふつーに巻いてくればふつーに夕御飯だ。
ぐりぐり糸を巻き上げるうっかり公爵。
「どうだっ!」
「お爺様、すごいのじゃ!」
「うーん、おいしそう」
アジの仲間の美味い魚らしい。
でも針の刺さりどころがなー。
食べるとこ少なくなっちゃってるぞ?
あたしも切れやすい口よりも胴体に針を刺した方が逃げられにくいかと一瞬考えたが、食べるところが減るのはダメだわ。
まあうっかり公爵御満悦みたいだからいいか。
「リキニウス殿とルーネの方も見に行こうぞ」
「走ると危ないぞー」
リキニウスちゃん四匹も釣ってるじゃん。
ルーネも三匹。
船員さんや公爵の従者も釣ってくれているから、食べきれないほどある。
「すごく楽しかった!」
「私もです!」
「わらわもじゃ!」
「わっちもだぬ!」
アハハと笑い合う。
さて、いい時間だから帰ろうか。
「ユーラシア君、ルーネロッテ嬢。自分で釣った魚は持って帰ってくれ」
「いいの? ありがとう」
「お父様も喜ぶと思います!」
お父ちゃん閣下が喜ぶのはルーネの生きがいいからだぞニヤニヤ。
「今日は何も起きなかったなー」
「不吉なフラグを立てようとしないでくださいよ」
リキニウスちゃんに釘を刺されてしまった。
皇子様なのに、結構気を回せる子だなあ。
「じゃーねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




