第1517話:悪女の微笑み
「ユーラシア君、助かったよ」
「どーいたしまして」
ニコラウスという頭が中途半端にハゲた外務大臣とアーダルベルトというひょろ長い国土大臣、植民地大臣アデラちゃん、ルーネ、ヴィルとともに執政官室へ来た。
主席執政官閣下ったら、あんまり感謝してそうな言い方でもないんだけど?
つまりまだ何か含みがあるらしい。
植民地大臣であるアデラちゃんと外務大臣を執政官室に連れてきたのはわかる。
それと国土大臣、か。
「状況を整理しようか。アンヘルモーセンを介さず、タルガ~サラセニア間の直接貿易を早急に開始する」
アンヘルモーセンはやり過ぎだろ。
サラセニアやタルガ出身の商人もいるんだろうし、天使国の専横に不満を持ってる者はいると見た。
帝国とガリアの肝煎りでタルガ~サラセニア間貿易が始まれば、タルガの重要性は増す。
「タルガの危機は未然に防がれた。アンヘルモーセンも我が帝国とガリアを相手にケンカを売ってくるほどバカでもあるまい」
「そーだね」
「しかし……」
まー言いたいことは見当がつくが。
もう一働きしろって?
了解。
「貿易相手がアンヘルモーセンからサラセニアに振り替わっただけじゃ、我が国の利益にならないんだがね」
「アンヘルモーセンとの貿易は今のまま続けりゃいいじゃん」
「「「えっ?」」」
半端ハゲとひょろ長とアデラちゃん驚いてるけど、閣下は驚いてない。
悪いやつだから。
「アンヘルモーセンを敵に回すわけではない、ということだね?」
「敵にしたって得がないからね。せっかく新造軍艦があるんだったら、アンヘルモーセンにこれ見よがしにチラつかせた上で、サラセニアと貿易始めるけどアンヘルモーセンを軽視するわけじゃないよ、ごめんねって謝っときゃいいよ」
「……とのユーラシア君の仰せだ。ニコラウス、タイミングを見計らって君をアンヘルモーセンに遣わす。威圧するでなく、淡々と事実のみ説明してきてくれ」
「はっ!」
「タルガとの交通が盛んになりそうだ。アーダルベルト、君はタルガ街道の確認と、必要ならば整備を手配してくれ。将来的に辺境開拓地区にも手を入れたいが、当面は取り掛かれない」
「では一応は辺境開拓地区開発をも視野に入れた整備計画を、ということですな?」
「ああ。任せたよ」
やはり主席執政官閣下はテテュス内海での帝国の存在感を増し、外洋での失点を取り返したい意向はあるんだろうな。
外務大臣と国土大臣の二人が退室する。
「有能な政治家が多いと、物事がポンポン進んでいいなあ。メッチャ羨ましい」
「ユーラシア君ほど話の早い存在はないからな?」
「褒めても何にも出ないぞー。で?」
閣下はまだあたしに用があるらしいのだ。
何だろ?
「アデラ、地図を」
「はい」
帝国の地図か。
東のテテュス内海に突き出た岬のようなところがタルガだ。
タルガって何で植民地なんだろ?
位置的に本国の一部でいいのにな?
「タルガは元々辺境開拓民の作った町なんだ」
「そーなの?」
カル帝国の内海に面した地域は不毛だ。
魔物も生息していて、ほぼ全てが辺境開拓地区に指定されているそーな。
唯一の大きい集落がタルガ。
「辺境開拓民には税制上や武器の携帯に対して優遇措置が取られているんだ。タルガも由来が由来だから、帝国本土と同じ扱いをするわけにいかなくてね」
要するに帝国にとってタルガは辺境開拓民政策の成功例で、テテュス内海への橋頭保という大事な町。
でも成り立ちから考えると、本国みたいな高額の税金を取れば、タルガの住民は離散してしまうかもしれない。
かといって特別扱いは他の本国住民から不満が出るので、植民地にして帝国の市民権は与えないということか。
「ふーん、頭いいやり方だなあ」
「現在のタルガは人口三万人弱。交易によって賑わう町です」
「自由で闊達な雰囲気の町でね。予も行ったことがあるが、好きなんだ」
「うん、わかる。ドーラにも似た感じの村があるよ」
「商業で賑わう町はいい」
カトマスっぽいところだな。
あたしも好きになれそう。
閣下がかつてドーラに拘ったのも、タルガと似たところがあるからかもしれない。
「ユーラシア君には、タルガと辺境開拓地区の視察を行って欲しいんだ。ドーラの冒険者でも出色のユーラシア君なら、問題点や解決策も見えるだろうから」
「お安い御用だよ」
閣下の施策の駒として使われちゃうのはモヤモヤするが、イシュトバーンさんが面白れえところと言ってたタルガには興味があるのだ。
大手を振って見物できるなら楽しそう。
「ルーネも連れていっていいよね? いつ頃になるだろ?」
「ハハッ、内海情勢にある程度見通しが立ってからだ。少し先になるよ」
ま、アンヘルモーセンのリアクションがわからんからな。
ルーネお嬢様が不満顔ですぞニヤニヤ。
「ところで新造艦の就役とツェーザル中将のタルガ出向はいつになるの?」
「数日中だ」
「早いんだね?」
中将がタルガに着いたら、一度様子見に行ってもいいな。
「閣下からお仕事の用はお終いなのかな?」
「ああ、以上だね」
「ルーネからお話があるよ」
「お父様、温泉のお土産なのです。これを見てください」
「これはっ……」
えっちなルーネの絵に驚愕するお父ちゃん閣下。
ハッハッハッ、閣下のそーゆー顔面白い。
不快感を滲ませながらも絵から目が離せないらしい。
イシュトバーンさんの言ってた通りだわ。
アデラちゃんが言う。
「ルーネロッテ様の魅力を十分に表現した、素敵な絵ですね」
「何が素敵だ! 破廉恥だ! ルーネ、この絵は誰にも見せていないだろうね?」
「はい、お父様が初めてです」
ニッコリ笑ってウソを吐くルーネ。
ルーネは悪女の微笑みを覚えた!
「その絵は閣下にあげるね。これ今帝都でメチャメチャ売れてる画集の絵師が描いたんだ。本人が大傑作だって言ってたよ」
「大傑作か。確かに大傑作……」
「帝国の美人画集出せっていう要望が多いんだよ。ルーネもモデルに含めていい?」
「ダメに決まってる!」
「ダメかー」
どうやらアデラちゃんはオーケー出そうだな?
閣下の顔が赤くなったり白くなったり忙しいこと。
「……絵師を処刑してやりたい……」
「ドーラ人に帝国の法は及ばないとゆーのに」
てか絵描いたら処刑なんて法はないだろ。
アデラちゃんが言う。
「食事にしませんか?」




