第1514話:美しい美少女のあたし
――――――――――二四三日目。
『精霊使いか?』
「そう。美しい美少女のあたし」
朝からイシュトバーンさんのところへヴィルを飛ばした。
美しい美少女ってフレーズは気に入ったので、またどっかで使おうと心に決めた美しい美少女のあたし。
『あんた昨日来なかったじゃねえか』
「え? だって雨降ってたもん。行かないって連絡したじゃん」
フィフィの本用の絵が完成することは覚えてたけど、濡れちゃうと嫌だし。
イシュトバーンさんは絵が濡れないように配慮してはくれると思うけど、あたしが濡れないようにはしてくれないし。
『製本の都合があるかもしれねえ。早い方がいいだろ? 表紙絵はヘリオスのところへ届けといたぜ』
「あっ、ありがとう!」
表紙絵がどう仕上がったか見たかった。
でもまあ本ができた時の楽しみと思えばいいや。
昨日カラーズから輸送隊が進発しているので、今日にも本用の新しい紙がヘリオスさんの手元に着くはず。
フィフィの本の生産が始まるな。
「楽しみだなー」
『第一版の発行部数は少なくするようだぜ? しかし可能な限り早めに出す、販促用の試本を多く用意するということだ』
「わかった。あたしが宣伝してくればいいんだね?」
『任せたぜ』
ひょっとするとプリンスとパウリーネさんの結婚直後くらいに出せるかもな。
プリンスとパウリーネさんの煽り文ありなら最高の結果になる!
『それから皇女殿下の絵、少々色気をサービスしておいたぜ』
「えっ?」
ルーネの絵に色気をプラス?
お父ちゃん閣下に献上する予定なんだけど?
えっち過ぎると、何て絵を描かせてるんだって文句言われそう。
『我ながら大傑作だぜ』
「かもしれんけど、閣下に怒られそう」
『怒りながらも目を離しゃしないんだぜ』
「……一見の価値があるね。ぜひそーゆー閣下を拝んでみたい。怒られるだけの値打ちはありそう」
『ハハッ。絵はヴィルに持たせておく。どういう経緯になったか、あとで教えてくれよ。どうせ近い内に閣下殿とは会うんだろ?』
「今からガリアの外務大臣連れて、帝国施政館行くんだ」
『ガリアの外務大臣?』
うん、唐突だというのはわかる。
これは説明がいるだろ。
「簡単に言うと、テテュス内海でアンヘルモーセンが大きな顔してるから、他所が迷惑してるよね。帝国とガリアは手を組もうねって話」
『その迷惑ってのは、ガリアの腰巾着サラセニアがってことか? ガルちゃんの言ってた』
「うん。サラセニアが混乱するとガリアも迷惑ってこと」
『つまり帝国の農作物をサラセニアに流して、アンヘルモーセンが食料で締め上げることをできなくするってことだな? ガリアにばかり天秤が傾いてねえか? 帝国にメリットがあるのか?』
あるんだよ。
「帝国はガリアとアンヘルモーセンが秘密条約でも結んでるんじゃないかって疑ってたの。だからあたしはガリアを探ってこいと言われてて」
『ははあ? ガリアとアンヘルモーセンがつるむと、帝国領タルガ植民地が危ないっていう、帝国側の懸念か』
「危ないかは知らんけど、内海における存在感をなくしちゃうかもってことだろうねえ。だからガリアと仲良くできれば帝国にも大きなメリットなんだよ」
『面白い。商人の血が騒ぐぜ』
商人じゃないあたしの血も騒ぐわ。
最近外洋でいいところのない帝国が、テテュス内海でまで失敗するわけにいかない。
できれば挽回したいんだろ。
実にインタレスティングなのだ。
「イシュトバーンさんから見て、アンヘルモーセンって国はどうなの?」
『商人目線ってことか? オレの知ってるのは二〇年以上前の話だが、当然昔から栄えてるだろうなってのは、地図見りゃわかるだろ?』
「うん」
テテュス内海の真ん中くらいの位置で天然の良港を持ち、おそらくガリアほどは寒くないから農業生産力の大きいだろう平野を持つ国が後背にある。
そりゃまあパッと見て内海の中心だろうな、って感じ。
地理的な位置って大事だと思う。
『他所者の商人は入りにくいんだ』
「ふーん、何でだろ?」
『天崇教信者を優先してるからだぜ』
信者なら優遇されるとわかれば天崇教に改宗する者も多かろう。
天使にも大きな利があり、天崇教が大きくなれば信者商人の仕事もしやすくなるということか。
天崇教が考えたのか、それとも天使自身が考えたか知らんけど、うまい仕組みだ。
おそらく現在でも同じやり方を踏襲しているだろう。
しかし……。
「当然天崇教に反発する人もいるんでしょ?」
『まあ宗教だからな。皆が皆受け入れるわけじゃねえ』
「チャンスだな」
『非信者の商人を取り込んで、タルガ~サラセニアの貿易に活用しようってことか? アンヘルモーセンのやり方が気に食わねえやつらは賛同するだろうが……』
通信越しでもわかる。
イシュトバーンさんはあのえっちな目をしているのだろう。
『えらく帝国とガリアに肩入れするじゃねえか』
「子分のサラセニアに手出しされてるから、ガリアの王様がえらく怒ってるんだよ。情勢が不穏だもんで帝国も新造艦を就役させるっていうし。平地にわざわざ波風立てようとするアンヘルモーセンは驕り過ぎだと思う」
『平地にわざわざ波風立てるのは、あんたの好みだと思ったが』
「それはそれとして」
アハハと笑い合う。
王様の言い方からすると、どうやらアンヘルモーセンは弱みにつけ込んでサラセニアを影響下に置こうとしているらしい。
主導しているのがアンヘルモーセン政府なのか天崇教なのか天使なのかわからんけど。
「どーも我が儘押しつけられてる側が可哀そう。フェアな取り引きじゃないのは好きじゃないんだよね」
『あんたは我が儘押し立てたパワープレイが大好きじゃねえか』
「それはそれとして」
もーやりにくいなあ。
『まあ言いたいことはわかるぜ。ウィンウィンじゃねえってことなんだろ?』
「一言で言うとね。我が儘が紛争のタネになってるんじゃさらによろしくない」
『さっきから好きじゃないのよろしくないの言ってる割には、声が生き生きしてるじゃねえか』
「わかっちゃう? 国際関係って面白いなあと思い始めたんだ」
あたしの伝説ロードはエンターテインメントで舗装されつつあるらしい。
「イシュトバーンさん、じゃねー」
『ああ、またな』
「ヴィル、ありがとう。こっち戻ってきてくれる?」
『はいだぬ!』




