第1513話:メインの話はキメラ肉
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
ルーネとライナー君を皇宮まで送ったあと、毎晩恒例のヴィル通信だ。
「あたしはお肉が好きなんだよ」
『オレも好きだよ』
「いやん、照れる。サイナスさんの熱い告白を受けて目が覚めたわ」
『肉はどこへ行った?』
アハハと笑い合う。
軽い掛け合いから始まる夜寝る前のひと時。
日常的リラックスの時間だ。
「今日雨だったじゃん?」
『ああ。雨の日は魚人の王国へ行くんだったか?』
「そうそう。コブタマンのお肉はおいしいけど、たまには別のお肉も食べたいとゆー乙女心があるじゃん?」
『飽きたということかい?』
「いや、飽きはしないけど、違うおいしさを探求したいとゆーか美味いものは別腹とゆーか。浮気心ってこういうものなのかしらん?」
『何だろう? 既にトラブルの予感が漂っている』
イベントではあったけどトラブルじゃねーよ! 今日は。
まったくサイナスさんは失礼なんだから。
「前魔王島行った時に食べさせてもらったキメラのお肉が大変おいしかったからさ。狩りに行ったんだ」
『それでとんでもない魔物に遭遇しちゃったりするわけか?』
「違うとゆーのに。ただアースドラゴンが出現しててどうしようか、みたいなことにはなってた」
『アースドラゴンか。普通だな』
ごもっとも。
アースドラゴンはノーマルドラゴン。
ただノーマルドラゴンという用語を使っているのは、どうやらあたしだけのようだ。
「だからそー言ってるじゃん。でもアースドラゴンは魔法に対する抵抗がすごく高いんだって。悪魔は闇魔法が主な攻撃手段だから、苦戦しちゃうじゃん? じゃあうちのパーティーで倒しとくよってことになって」
『ふむふむ』
「普通に倒して、その後キメラの出るところへ案内してもらったの」
『ええ? 何の盛り上がりもないじゃないか』
「キメラのお肉はなかなかおいしいんだ。前にも幼獣は食べたことがあるんだけど、今日のは成獣でさ。やっぱ成獣は旨みが違うね。脂の乗りでコブタマン、後味のスッキリさでキメラと、甲乙つけがたいよ。海の女王もドワーフもガリアの王様も喜んでくれたんで、大変結構でした」
『いや、キメラ肉の説明を盛り上げてくれという期待じゃなかったんだが』
アースドラゴンとキメラ肉、どっちがメインの話だと思ってるんだよ。
お肉の話の前フリに盛り上がりを期待されても困るわ。
「魔王とは仲良くしとこうと思うんだ。魔王島は開発の余地があるし」
『え? 魔王島の開発なんて考えてるのかい?』
「まあ考えるだけは。魔王統治だけど税金なし。基本的に魔物も悪魔が駆除します。代わりに悪魔に感謝しなさい、っていう関係だったらうまくいきそうな気がするから」
もちろん現実はドーラの開発だけですら手が足りない。
あたしが魔王島開発なんかに関われるわけない。
「魔王配下の連絡係の悪魔にギルドを教えてあげようかと思うんだ。『アトラスの冒険者』に伝言できるし、不得意なことがあれば依頼出しゃいいし」
『何でもありだなあ』
「偏見はよろしくないからね。今まで会った悪魔は皆ちゃんとしてるよ。メチャクチャな子はいない」
『戦争起こさせようとするのは、メチャクチャに入らないんだなあ』
メチャクチャってのは原理原則がないやつのことを言うのだ。
悪感情を得るために戦争起こさせようってのは、理屈としてわかるからいいんだぞ?
いや、よくはないか。
理解はできる、話もできるってこと。
『帝国の要請でガリアに行ってきたんだろう?』
「行ってきた」
『どうだった?』
「サイナスさんも陰謀みたいなことが好きだなあ。面白いことになってたんだ」
『どんなふうに?』
ちょっと遠回りな説明になるが。
「帝都からいうと北東にテテュス内海ってとこがあってさ。外の大きい海と繋がってはいるんだけど出入りが困難で、内海だけで一つの交易圏が形成されてるのね?」
『うん、それで』
「帝国もガリアも大国だけど、テテュス内海では主役じゃないんだ。一番存在感が大きいのが圧倒的に天使国アンヘルモーセンっていう構図。内海交易における中心が天使国ね」
『面白いところはどこだい?』
「がっつくなあ。帝国もガリアもアンヘルモーセンを警戒してるんだ。ガリアの王様に至っては、アンヘルモーセン消えてなくなれなんて言ってる。ところが帝国もガリアも、相手がアンヘルモーセンと組むことを恐れてるの」
『ははあ? 確かに面白いな』
「でしょ?」
『というか、ユーラシアは面白がるだろうな』
どーゆー意味だ。
サイナスさんのあたし評は微妙過ぎて、アウトセーフがよくわからん。
「内海だけならともかく、大国同士で揉めてもらっちゃ困るじゃん?」
『後を引きそうでもある』
「アンヘルモーセンがガリアの子分の国サラセニアにちょっかいかけてるんだ。あたしは帝国施政館で、ガリアがサラセニアの件で何考えてるか探ってこいって言われてたんだよ。で、ガリアの王様に帝国の事情話してさ。帝国の植民地タルガとサラセニアの間で貿易するように提案してきた」
『ん? 今まではどうしてたんだ?』
「アンヘルモーセンが強過ぎて、全ての道はアンヘルモーセンに通ず。アンヘルモーセンにあらずんば人にあらずって感じ?」
『つまりものは全てアンヘルモーセンに集まる? アンヘルモーセンを通さないと内海交易は成立しない?』
「おーそうそう。サイナスさんすごい!」
あれでわかっちゃうのはさすがだなー。
説得力の勝利?
「まー天使国も強過ぎるから、図に乗って他国にウザ絡みするんだと思う」
『ではタルガ~サラセニア間の直接貿易が始まるとどうなる?』
「目端の利く商人は注目するでしょ。帝国とガリアという大国がバックについてることがわかってるんだから。天使国に意地悪された商人なんかもいると思うよ。喜んで参加してくれる人もいるんじゃないかな」
『なるほど?』
「初期に参加してくれた商人は優遇してやればいいしね」
内海情勢はあたしもまだわからんことが多いけど、割といいセンいってるんじゃないだろーか。
今後のテテュス内海は愉快なことになる気がする。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はガリアと施政館。




