第1500話:ルーネと『ララバイ』
フイィィーンシュパパパッ。
ルーネを連れてイシュトバーンさん家にやって来た。
イシュトバーンさんを迎えに来ただけだから、特にルーネがいる必要性はなかったんだけど何となく。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。そちらは?」
「ルーネロッテ皇女だよ。ドミティウス主席執政官の娘」
「ええっ!」
驚きのあまり前髪が跳ね上がり、両目が顕わになる美少女番警備員ノア。
イシュトバーンさんったら、ノアにルーネのことを話してなかったらしい。
連れてくるかもってことくらい想像できてただろうにな。
面白ポイントの伏線を張っとくためだろう。
あ、イシュトバーンさん飛んできた。
「そちらが皇女殿下だな?」
「そうそう。ルーネだよ」
「初めまして」
無遠慮にルーネを眺めるイシュトバーンさん。
「いいな」
「いいでしょ?」
「何がです?」
首をかしげるルーネに説明っと。
「最近帝国でも売れてるドーラ発の画集『女達』ってのがあるんだけど」
「あっ、知ってます! すぐ売り切れてしまって、一部でプレミア価格がついてる画集ですよね?」
「プレミア価格になってるのか」
安く売るコンセプトなのに、まことによろしくないな。
大人気作の宿命なのかもしれない。
どうせガンガン輸出するのだ。
初期の高騰は仕方ないと諦めるべし。
「あれ描いたのがイシュトバーンさんなの」
「そうだったんですか! 高名な絵師様とは知らず、失礼をお許しください」
軽く腰を落として挨拶するルーネ。
お上品だなあ。
さすが皇女だわ。
「畏まるのはやめてよ。イシュトバーンさんの方がずっと失礼だし」
「何言ってんだ。あんただって大概だからな?」
アハハと笑い合う。
「イシュトバーンさんは女の好みがひっじょーにうるさくて、いい女しか描こうとしないの。ルーネは描かれる資格があるってことだよ」
「本当ですか! ぜひ、私も描いて欲しいです!」
「おい、オレは願ったりかなったりだが、いいのか?」
「どーだろ? 絵のモデルにするところまでは、お父ちゃん閣下の許可得てないんだよね」
「これも滅多にない経験じゃねえか。皇女の成長を促すためには必要なことだぜ」
イシュトバーンさんの言う通りなんだけどさ。
ルーネに色々経験させたい思惑が完全に読まれているでござる。
イシュトバーンさんが描きたいだけの気もするが。
まあルーネの絵は画集にするやつじゃなし、閣下にプレゼントしてやれば宥めることはできるだろ。
「うん、ルーネも描いてもらおうか」
「ありがとうございます! お願いします!」
「皇女殿下はいろんなイベントを求めて精霊使いにくっついてるんだろ?」
「はい!」
「イベントって」
「ノアがいるじゃねえか」
「ノア? ああ」
『ララバイ』の固有能力を体験させろってことか。
面白いな。
「ここの警備員ノアはちょっと珍しい固有能力持ちなんだ。握手してみ?」
ノアがいいのかって顔してるけどいいんだよ。
「握手ですね? あ……」
意識を失ったルーネを抱える。
ぺしぺし、起きなさい。
「……あ、ユーラシアさん。握手した途端、何故か急激に眠くなって……」
「ノアは『ララバイ』っていう固有能力を持っているんだぜ」
「『ララバイ』?」
「結構ひどい能力なんだ。ノアくらいの力があると、耐性持ちでなきゃどんなにレベルがあっても眠らされちゃう。今はわかりやすく握手してもらったけど、実際には離れてても眠らせることができるの」
知ってりゃ対策取ることは難しくないが、初見殺しの能力ではある。
ルーネもヤバい固有能力があるってことを覚えておいてちょうだい。
「すごいですね。ノアさんはいつ頃自分の力に気付いたんですか?」
「あたしも興味あるな」
「……俺は孤児で、妹が夜を怖がって寝ない時に頭を撫でてやってたんです。いつもすぐぐっすりだったんで、それで……」
「ノアは最初からコントロールできてたんだ? あたしの知ってる別の『ララバイ』持ちは、レベル一の時でも握手した瞬間に高レベル冒険者を眠らせるくらいのパワーだったけど、全然コントロールできなかったんだ」
同じように強く固有能力が発現していても、様相は違うもんなんだなあ。
勉強になったよ。
「『ララバイ』は大変なレア能力ってわけじゃねえはずなんだ。しかし自分が『ララバイ』持ちと知ってるやつは少ないだろう」
「だろうねえ」
今の話聞く限りでは、ノアみたいに初めから能力が発現してるケースですら、気付かずスルーされちゃってる人多そう。
世の中固有能力が全てってわけじゃないけど、自分の能力くらいは把握しとくべきだよなあ。
進む道を決めたっていい能力も多いぞ?
「使い方によっては危ない固有能力ではありませんか?」
「すげえ悪いことに使える能力なんだよ。ノアなんか金髪ブタ男爵の屋敷に忍び込んで、いる人いる人片っ端から眠らせて侍女を誘拐してきたからね」
「えっ?」
「主犯が何を言うか!」
「えっ? えっ?」
混乱するルーネに面白おかしく種明かしをする。
「……とゆーわけで、ノアとココちゃんはイシュトバーンさんの屋敷で幸せに暮らしているのでした。めでたしめでたし!」
「とっても素敵です! ユーラシアさんらしいです!」
ハッハッハッ、とっても素敵だぞー。
ルーネの冒険者ソウルにストライクのようだ。
イシュトバーンさんがニヤニヤしながら言う。
「この精霊使いは、法律と正義がケンカした時は必ず正義に味方するんだぜ」
「あたしはあたしのやりたいようにやるけど、ココちゃん連れ出しは法律と正義がケンカしてるケースじゃないでしょ?」
ノアがものすげえ疑惑の目で見てくるんだけど、何ゆえに?
あんた最大の受益者じゃないか。
全く意味がわからんな。
「さて、そろそろ行こうか」
塔の村のフィフィと合流せねば。
それから待ちに待った温泉!
「えーと、湯浴み着は貸してくれるんだよね。じゃあ特に準備するものはないのかな?」
「日帰りだしな。何もいらねえぞ」
「絵を描く道具は?」
「おっといけねえ、忘れてたぜ」
「何なのもー」
今日のメインイベントだとゆーのに。
イシュトバーンさんも相当温泉で浮かれてるらしい。
楽しみだったんだろうなあ。
「じゃ、一旦家に寄って、うちの子達連れて塔の村ね」
「はい!」
ルーネは何でも楽しそうだなあ。
転移の玉を起動して帰宅する。




