第1499話:ルーネを連れて
――――――――――二四一日目。
フイィィーンシュパパパッ。
ルーネを迎えに皇宮にやって来た。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
考えてみりゃ、このサボリ土魔法使い近衛兵はいつでもいるなあ。
近衛兵の休みってどーなってんだろ?
「今日は温泉なんだって?」
「あっ、聞いた? ドーラの田舎の温泉だよ。昨日主席執政官閣下に許可もらって。もうルーネは詰め所に来てるんだ?」
「とても楽しそうで微笑ましい。ルーネロッテ様の表情が最近豊かだと、皇宮では評判なんだよ」
「あたしも最初に会った時、ルーネはクールな子だと思ってたな」
全然そんなことなかったわ。
ルーネは大体何でも面白がる、好奇心旺盛な子だった。
以前はずっと皇宮にいて、あまり楽しいことがなかったんだろう。
あたしがルーネを遊んでやって嬉しそうにしてるのを、お父ちゃん閣下も見たいんだろうな。
親バカだから。
「温泉行きというのは急に決まったのかい?」
「いや、ババドーン元男爵の娘フィフィリアいるじゃん? あの子が今度本を出すんだよ」
「えっ? フィフィリア嬢が本? どういうことだ?」
「フィフィがドーラに来てすぐ、魔物が出ないとも限らない強歩三日の道のりを歩かせてるって言ったの覚えてる?」
「ああ、もちろん。チラッと希望を見せながら引っ張るなんて鬼畜な所業だなあと思ったから、よく覚えている」
何を言ってるんだ。
あたしの慈悲の現れだとゆーのに。
高飛車のままだったらどこ行っても通用しなかったわ。
「その時の紀行文だよ。初めから記録させてあったんだ。歩き始めてすぐ靴擦れ起こして歩けなくなるわ、レベル二〇くらいあってようやく相手にできる魔物三体に追いかけられるわ、結構面白い内容なの。フィフィはトラブルメーカーとして優秀」
「ちょっと待て。記録させてあったとは? 最初から本出すつもりじゃなかったんだろう?」
「あたしは出すつもりだった。でもドーラに来たばかりの頃のフィフィはえっらそーなプライド固めたような令嬢だったからさ。恥の記録なんて残そうとするわけないじゃん?」
「まあ……うん。想像はできる」
「だからリリーに土産話がいるだろ。旅の失敗談は鉄板だぞーって煽って」
呆れるサボリ君。
「最初からよからぬことを企んでいたことは理解したよ。しかし温泉との繋がりがわからないんだが」
「フィフィの本の表紙絵を温泉で描いてもらうんだ」
「わざわざ温泉でか」
「絵師が温泉を指定したんだもん。その温泉がフィフィの珍道中にあったってこともあるんだけどさ。絵師はここにも連れてきたことのある、イシュトバーンさんだよ」
「ああ、元商人だという?」
「そうそう、最近帝都でも売ってる『女達』って画集描いた人」
「えっ? あの超ヒット画集の? まずいんじゃないか?」
「まずくはないよ。表紙絵の効果もあってフィフィの本はメチャメチャ売れちゃう予定だから、あんたも読むといいよ」
慌てるサボリ君。
「ではなくて。あの扇情的な絵を描く人とルーネロッテ様を会わせるということだろう?」
「どんな化学反応が起きるか見ものだよね」
「ドミティウス様が許すわけないだろう!」
「いや、ルーネの絵を描くわけじゃないからね?」
あたしも閣下を怒らせたいとは思ってるわけじゃないから。
もっともイシュトバーンさんは描きたがるだろうなあ。
「あの『女達』の画集、帝国本土版も出さないかとは言われてるんだよ」
「企画としては当然あり得るだろうな」
「画集って二〇人くらいはモデルが必要なんだよなー。あたしはイシュトバーンさんの好みを把握してるけど、まだ描きたそーなモデル五、六人しか心当たりがない。ルーネを含めて」
「含めてはダメだというのに」
「とすると頓挫かなあ?」
ひゃい子と聖女キャロラインは描かせてくれるだろう。
皇妃様やアデラちゃんは難しそうだしなあ。
いや、皇妃様は人妻だから、イシュトバーンさんの守備範囲外なのかな?
まあ仕方ない、おいおい考えていけばいいや。
さて、近衛兵詰め所に着いたぞ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「「「「ユーラシアさん!」」」」
「あれ、予想外」
新聞記者トリオがいる。
新型転移の玉の人数制限は八人だ。
あたしとうちの子達、イシュトバーンさん、フィフィと執事、ルーネで人数一杯だから、今日は連れていけないぞ?
お土産のお肉を近衛兵に渡す。
「昨日、ユーラシアさんが施政館から出てこられたすぐあと、クンツ大将とツェーザル中将も帰られたんですよ」
「施政館の入り口張ってたんだ? ジャーナリストっぽいことしてるねえ」
全然気付かなかった。
新聞記者は悪意がないってこともあるけど、ちょこれえと買って帰ることが頭の中を占めてたから。
「また戦争になるのでしょうか?」
「機密なのはわかりますが、漏らせるところだけでも……」
なるほど、戦争については心配か。
ルーネと顔を見合わせる。
どーすべ?
「……どっちにしても今は記事にできないことだぞ? 帝国から見て他所の国二国ないし三国が揉めそう。とばっちり食うと嫌だから、ツェーザル中将を守りに出す。あたしは状況を探ってきてくれって頼まれた」
「戦争にはならない?」
「なるかもしれないけど、帝国は当事者じゃないよ。ひょっとしたら巻き込まれる可能性がないわけじゃないってくらい。あったとしても小規模で、帝国本国じゃなくて植民地がね」
「安心しました」
もう少しサービスしといてやるか。
「明日あたしはガリアの王様のところ行くんだ。ルーネも連れて。これもその件に関係あることだよ」
ルーネは喜んでるけど、昨日ルーネ連れて施政館に来いってのは意図があってのことなのだ。
つまりあたしが帝国施政館の意向で動いてるというのを示すためにも、閣下の娘であるルーネの同行は都合がいい。
閣下の知恵かクンツじーさんの知恵かわからんけど。
「つまりガリアが当事国の一つ……」
「ヒントはそこまでだな。帝国政権としては安全保障上無視できないけど、帝都の市民の関心を引くことではないと思うよ」
ゴシップ紙だと思ってたのが、意識高くなったこと。
ここまで成長したのは偉い。
「じゃねー。夕御飯食べたら帰ってくるよ」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動、ルーネとともにホームへ。




