第1496話:天使について情報収集
「おっとラッキー!」
「ラッキーだぬ!」
昼食後に灰の民の村へ行ったら、アレク達とエメリッヒさんが戻ってくるところに出くわした。
多分スキルスクロールチェックのお仕事がどんなもんか、確認するため緑の民の村に行ってたんじゃないかな?
ケスが言う。
「姐さん、どうしたんだ?」
「どうって言われると、ちょこれえとに触れざるを得ないんだけれども」
「ちょこれえと?」
「帝国の高級スイーツだよ。黒くて若干の苦みが甘さを引き立てるとゆー、口では表現しづらいものなのだ」
「そのちょこれえとが?」
「午前中帝国に行ってたから、お土産に買ってきてお昼御飯に添えるじゃん? 甘いものは別腹の法則に従うと、お腹の別のところが膨れちゃうわけだよ。解消するために遊びに来た」
「全然関係ないんじゃねえか?」
アハハ、まあ関係ない。
ちょこれえとというものがあるんだと教えてあげただけ。
「ユー姉がムダなことしないのは知ってる」
「鋭いね。黒の民んとこ行ってくるんだ。でもあんた達にも用があるんだよ。エメリッヒさんにチラッと聞いてるかもしれないけど、デス爺が転移術教えてくれるって」
「うん、どういうことなんだろう? お爺様はこれまで危ないからって頑として教えてくれなかったんだ」
「じっちゃんはある程度以上のレベルがある『晴眼』の固有能力持ちなんで、転移先が見えるんだそーな。緑の民の輸送隊員ペーターいるじゃん? あの子に協力させれば安全に研究できるから、今度連れてこいって言ってたよ」
「お爺様は『晴眼』の固有能力持ちだったのか……」
ショックを受けてるようだけど。
「アレクはじっちゃんが『晴眼』持ちだって知らなかったんだ?」
「知らなかった。お爺様は白魔法使いだと思い込んでいたから」
「あっ、そういえばそうだな?」
「転移先が見えると言っていたことはもちろん知っているけど、長年転移術を研究したことによる経験からだと思ってたんだ」
デス爺は複数の固有能力持ちだったのか?
いや、回復魔法や治癒魔法はスキルスクロールから習得したのかもしれない。
いずれにしても自分からベラベラ喋るような性格じゃないから、聞かなきゃ教えてくれないだろうな。
アレクもデス爺が『白魔法』持ちだと思い込んでたら、わざわざ聞くことはなかったろうし。
エメリッヒさんが言う。
「今後面白いことに関われるってことじゃねえか」
「エメリッヒさんの言う通りだ。建設的な考え方だ」
アレクも気を取り直したようだし。
「ところであんた達はどこ行ってたの?」
「緑の民の村でスクロールのチェックを。エメリッヒさんも特に問題はなく。今から図書室でミーティングだよ」
「やっぱそーか。よろしくお願いしまーす」
「姐さんこそどうするんだ?」
「だから黒の民の村行くんだってば。……うちの子達置いてくよ」
どうやらエメリッヒさんは精霊親和性高めの人のようだ。
うちの子達とハヤテが、慣らして『精霊の友』にしてやるーって顔してる。
うんうん、建設的だね。
「じゃねー」
「バイバイぬ!」
ヴィルを連れてJYパークへ。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシアじゃないか」
ピンクマンとサフランの居場所を聞いたら、やはり村内の醸造ラボだった。
あ、サフランも来た。
「最近はどう? 順調?」
「まずまずです」
「醤油はレイノスへ出荷するよりも、移民に売れる方が多いのだ」
「移民は一大市場になり得るな。お金持ちになって欲しい」
「ワサビはないかと言われることが多い。どうにかならないか?」
「あるある。本当のワサビは栽培難しいらしいんだけど、これヤマワサビっていうんだ。ワサビよりはずっと簡単。手持ちのやつあげるから、移民の間で増やしてもらって」
「すまんな」
「灰の民はヤマワサビ作らないんですか?」
「試作はしてるよ。本来は若干涼しい地域の植物らしくてさ。ドーラで作るのコツがいるかもしれないんだ。移民は育て方知ってる人がいるかもしれないから」
移民が上手に作れるなら、わざわざあたし達が作らなくても、開拓地で特産品にしてもらえばいいのだ。
分業大事。
「今日はワサビのために来たのか?」
「いや、天使のことを教えてもらおうと思って。どーもこれから絡みがありそうなんだよね。予備知識を仕入れておきたいの」
「天使か。小生は見たことがないが……」
「概ね一〇歳前後のノーマル人少年少女のような外見で、例外なく美しく、白髪ないし銀髪だと聞きますね」
「悪魔と違って、こちらからの呼びかけにはほぼ応じないな」
「えっ? 黒の民って悪魔や天使に呼びかけてるのかよ?」
呪術か儀式魔術の類か。
黒の民は何してるかわからんな、まったく。
「悪魔は大体機嫌良く取り引きに応じてくれるのだが、天使は稀に現れても傲慢だと聞くな」
「呼ばれるのは承認されてることと同じだから、悪魔は嬉しいんだな?」
「そうだぬよ?」
天使は信仰心を糧にするらしい。
承認くらいじゃ特に嬉しくないのかも。
さては悪魔よりグルメだな?
その辺が傲慢だって言われている所以かもしれない。
恐れ入ったりすると天使の思う壺か。
「天使の能力的な特徴とかってある?」
「固有能力として『聖魔法』か『白魔法』を持つ。『聖魔法』持ちは位が高いのだ」
「なるほど、序列があるのか」
「大体何人かでまとまって行動していて、悪魔を見つけるとイチャモンをつけてくるんだぬ!」
「集団虐めか。大変よろしくないな」
悪魔は基本ソロだから、天使に見つかると面白くないことになっちゃうんだろう。
「一般に天使のイメージがいいのは何でだろ?」
「美形でズル賢しいことをしないからだろう。気位が高いのも、気品があると見做されないこともないし」
「イメージの悪い高位魔族の敵であることも大きいと思います」
「悪魔が割を食ってるんだな? だから天使を崇める天崇教みたいな宗教が成立しちゃうと」
悪魔可愛いのになあ。
まあ悪感情を露骨に得ようとする悪魔のアプローチの仕方が祟ってるんだろ。
しかしピンクマンもサフランも、悪魔と天使でどちらが上とは見ていないようだ。
さすが黒の民。
「大体わかった。ありがとう」
「いや、こちらこそヤマワサビをすまんな」
「いいんだよ、じゃーねー」
「さようなら」
「バイバイぬ!」
黒の民醸造ラボを後にする。




