第1495話:テテュス内海情勢は複雑
「こんにちはー。美少女精霊使いユーラシアとドルゴス宮廷魔道士長、ルーネロッテ皇女がやってまいりましたよ」
「はい、伺っております。中へどうぞ」
施政館の受付も美人で感じのいい人だなあ。
行政府の受付のお姉さんもギルドのおっぱいさんもそうだけど、受付は組織の顔だから。
あたしもキュートな顔で勝負したいけど、受付みたいにじっとして動かないお仕事には耐えられんわ。
執政官室に案内される。
「こんにちはー」
「やあ、いらっしゃい」
重みのあるドアを開けて中に入ると、三人の男がいた。
主席執政官閣下とツェーザル中将、もう一人は知らない帝国風スーツ姿の人だ。
何か言いだしそうになる魔道士長さんを閣下が止める。
「おっとドルゴス宮廷魔道士長、そこまでだ。ユーラシア君、この男どう思う?」
「えっ? 閣下はクイズが好きだなー」
帝国風スーツ姿の男をじっと見る。
一見人の好さそうな、白髪で腰の曲がった老人だ。
でも只者じゃないぞ?
レベルは中将に及ばないにしてもかなり高い。
隙をわざと見せているような感じだが、実際にはないのだ。
ライナー君の師ボクデンさんに似た雰囲気を漂わせている。
「……見かけお年寄りっぽいけど、秘めた鋭さは引退した人のものじゃないと思う。中将が遠慮してる雰囲気あるから、中将の上司か先生筋の人なのかな? 腰が曲がってるのは多分そーゆーフリしてるだけ」
「「「えっ?」」」
何閣下と中将と魔道士長さんは驚いてるのよ?
謎の老人がにんまりとする。
「ホッホッホッ、さすがじゃな。これがドーラの精霊使いユーラシアか」
「彼は軍務大臣と統合作戦本部長を兼ねているクンツ大将だ」
帝国で元帥は名誉職なので、大将は事実上軍人の最高位とのこと。
何とこのじーさん、世界一の大国の軍隊のトップやないけ。
現役の軍人ならスーツじゃなくて制服着ててよ。
「クンツ大将。曲がった腰は演技だったのか?」
「いかにも。いやあ、見破られてしまいましたな」
人の好さそうな顔を崩して笑うクンツじーさん。
何年もかけて周りを騙してたってことか?
どんな酔狂だ。
あたしも酔狂は嫌いじゃないけど、気長に何年もなんてようやらんわ。
「ところで閣下、明日ルーネ借りていいかな? 温泉行きたいんだ。ドーラのノヴォリベツっていう、特に危険はないところ」
「温泉? ま、まあ日帰りなら……」
「やたっ! ルーネ良かったねえ」
「はい!」
クンツじーさんの意外な事実発覚に衝撃を受けてる内に認めさせてしまう作戦成功。
話題変えとこ。
「あたしはどーして呼ばれたのかな?」
「アンヘルモーセンの動向が不穏なのじゃな」
天使崇拝と商業の国アンヘルモーセンか。
やっぱ天使が関わってきたぞー。
あたしの人生には楽しいことが多いわ。
「ユーラシア君はアンヘルモーセンについて、何か掴んでるかな?」
「何も。サラセニアに進出するかもっていう噂くらい」
つまり閣下付きの悪魔ガルちゃんが言ってたこと程度だぞ?
閣下が言う。
「アンヘルモーセンがサラセニアにちょっかいかけてるのは事実なんだ」
「歴史的にサラセニアはガリアに近い国じゃ。もしサラセニアがアンヘルモーセンの手に落ちると、ガリアが黙っているとは思えぬ」
「だよね。でもアンヘルモーセンよりガリアの方が圧倒的に大きい国なんでしょ?」
「内海での影響力だとそうでもないんだ」
「えーと?」
ナップザックから地図を取り出して開く。
ルーネの勉強にもなるからよく見ててね。
ガリア南東の小国群のある海域をテテュス内海といい、外海と繋がってはいるものの、その通路は浅瀬や岩礁ばかりだったり冬は凍結したりと、外から大きな船が入ってくるのは至難の業だそうな。
「つまりテテュス内海で一つの閉じられた経済圏になってるんだね?」
「現在のところは。我がカル帝国もタルガ植民地を介して内海貿易に参加しているんだよ」
「だからアンヘルモーセンが引っ掻き回してくれると困っちゃうと?」
微妙な表情をする閣下とじーさんと中将。
「正確にはガリアのリアクションが過激だと困るんだな」
「どゆこと? アンヘルモーセンがガリアの子分であるサラセニアに構うことに対するリアクションがってこと?」
「うむ、ガリアはテテュス内海に大きな港を持たないのじゃ。現在はサラセニアを通して内海ギル交易圏に一定の存在感を示しておる」
「ガリアの腹がわからないんだ。何が何でもサラセニアを自国の影響下に置きたいのか、港の使用権さえ認められればサラセニア自体にさほど興味がないのか」
「ガリアとアンヘルモーセンの間で、何らかの秘密条約が締結されておることも考えられるしの。その他小国の立場も含めて内海情勢は複雑じゃ」
「ふむふむ、要するにガリアへ行って、王様にどういうつもりか聞いてくりゃいいんだね?」
「ユーラシア君なら可能だろう?」
どうせ帝国の思惑は知らなくとも、ガリアには行くつもりだった。
天使の専横についてと、サラセニアに対する対応を聞きたかったから。
今回のミッションとも重なるんで都合がいいな。
「じゃ、帝国のスタンスとアクションを教えてよ」
「ふむ、必要かの?」
「向こうの情報が欲しいならこっちも情報出さないと。それが信頼構築の手段だぞ? 言っていいところだけでいいから」
「もっともだ。我々はタルガの権益を守らねばならない。内海に新造の軍艦一艦を就役させ、ツェーザル中将をタルガに派遣する」
あ、だから中将も今日いたんだ。
「魔道士も一人派遣する。ドルゴス宮廷魔道士長は人員を早急に選抜してくれ」
「わかりましたぞ」
「ホッホッホッ。新造艦とツェーザル中将はあくまでタルガ守備の目的に過ぎない。しかしユーラシアよ、交渉をうまくいかせるためなら、好きなように吹いてもらって構わんぞ?」
「大将は話せるなー。随分楽になるよ」
実際に軍艦が動くことはなさそうだが、その可能性を仄めかしたり虚像で脅したりするのはオーケーということだ。
あたしの好きなやつ。
やりやすいなあ。
あれ、閣下と中将が心配そうな顔してるけど平気だぞ?
あたしは平和主義者だからね。
「じゃ、あたし帰るね。明後日ガリア行ってくる。ルーネは何か閣下に言うことある?」
「ありません」
「娘が冷たい……」
アハハ。
さて、ちょこれえと買って帰ろ。




