第1483話:とんでもない国
「スレイプニルって何だよ。そんな面白れえ話を隠してたのかよ」
「隠してたわけではないとゆーのに」
不平をゆーな。
イシュトバーンさんは神話とか伝説みたいなのが好きなのかな?
「四日前だったかな。ルーネを連れてガリアの王宮行った時、庭でデカい八本脚のウマが草食べてるの。スレイプニルだって教わってさ。神の馬飼ってるんだガリアすげえと思ったら、プニル君が寄ってくるんだよ。王宮の庭は好みの草が生えるから時々来たいけど、人間が怖がって近寄ってこないからどうしようって相談されて。だから王様に許可をとって」
「ほお、さすが神馬だな。喋れるのか?」
「プニル君は人間の言ったことを完全にわかってるよ。普通の人間より賢いまである。で、プニル君よりレベルが高ければ、何言ってるかも理解できるんだって」
「スレイプニルのレベルは?」
「九九」
「あんたとしか喋れねえじゃねえか」
「全く役に立たない限定条件だよねえ。賢いウマだから人間と喋れるってだけでいいのに」
もっとも親しげに誰とでも話すんじゃ神秘性が薄れる気もする。
プニル君も人間が堂々と近寄ってくるんじゃ鬱陶しいかもしれないしな。
「クエストとしては、スレイプニルがいるからガリアの王宮が困ってるっていうものだったみたいだね。知る前にプニル君と仲良くなったけど」
「あんただと不思議なことに事欠かねえんだな。で、もう一つのクエストは?」
「王妃候補のラブリーぽにょに手を貸すってやつ。ぽにょは王様と相思相愛で、優しい性格や子をたくさん産めそうな身体は高く評価されてる。でもガリアでは、女性もある程度武に長けていないといけないみたいなんだ。ぽにょは乱暴なことはからっきしだから、何とかしろってイベント」
「ははあ、レベリングだな?」
「あたしの十八番だね。王様の前で花嫁候補達が勝ち抜きトーナメント方式でチャンバラするっていう催しがあってさ。ルーネとぽにょで決勝だったんだ」
「ハハッ、それでチャンバラさせるななのかよ」
「んなこと言われてもルーネだって参加したそうだったし。大体あたしは試合の直前にぽにょ連れて魔境行ってたんだもん。ルーネ連れて魔境へ行ったら、危険だって閣下怒るじゃん? どないせえと」
「ただ見学させとけってことだったんだろ」
「ええ? あたしのエンターテインメント精神に反するわ」
ただ見学させとくなんて選択肢は思いつきもしなかったわ。
「ガリアのクエストはまだ全部完了にならないんだよね。続きがあるみたいなんだ。イシュトバーンさん、ガルちゃん。ガリアとその周りの国で知ってることあったら教えてよ」
「ほお、周りの国か。あんたのレーダーが反応したのか?」
「とゆーわけじゃないんだけど。周りの国が関わってきた方が面白そうじゃない?」
「なるほど、回収するためのフラグをあらかじめ立てとくんだな?」
最近そーゆー扱いが多い。
皆があたしの主人公補正に期待しているようだ。
「アンヘルモーセンとタルガには行ったことあるぜ」
「タルガってどんなとこ?」
ガリア南東にテテュス内海という海域があり、小国がいくつか存在するということはバアルに聞き、また地図で確認したから知っている。
アンヘルモーセンやタルガもテテュス内海に位置する国だ。
「正確にはタルガは国じゃねえ。帝国の植民地だ。テテュス内海諸国との窓口として賑わっているんだぜ。通貨もゴールドとギルがちゃんぽんで使える愉快なところだ」
「ふむふむ、帝国はゼムリヤを通してガリアと、タルガを通してテテュス内海周りの小国と付き合ってるんだな?」
「おう。中でもアンヘルモーセンが一番の交易国なんだ。首都シャムハザイは細かい水路の発達した美しい町だぜ」
「アンヘルモーセンはとんでもない国なのですわ!」
ガルちゃん突然の激昂にイシュトバーンさんが驚く。
「急にどうしたんだ?」
「アンヘルモーセンは天使との結びつきが強いって、バアルが言ってたな。気に入らないんじゃないの? ヴィルはどう思う?」
「シャムハザイは天使のナワバリだぬ。高位魔族は入っちゃいけないぬ」
「天崇教の総本山だからってことか?」
「いや、天使も存在するために負力が必要で、どうやら天崇教信者の信仰心を得ているってことみたいだよ。天使の影響で悪魔は総叩きだから、悪魔にとっては面白くないんでしょ。天崇教を作ったのは人間か天使か、どっちかわからんけど」
ヴィルの言うことが正解だな。
天使も生きてくためにアンヘルモーセンくらいは確保しときたいんだろ。
一つくらいは天使優勢の国があったっていい、とゆーのはあたしの見解。
悪魔の立ち入るべきでない天使の聖域。
「天使どもは勢力を広げようとしているのですわ!」
「んー? アンヘルモーセン一国くらいは天使のナワバリで認めてやってもいい気がするけど、勢力を拡大しようとすると他の思惑とぶつかりそうだな。要するにサラセニア大公国に進出しそうってこと?」
「そうですわ!」
「おい、どういうことだよ?」
「サラセニアは元々親ガリアなんだけど、交易の関係からアンヘルモーセンと組みたい派閥があってさ。両派が対立して、国を揺るがしてるみたいなことを聞いた」
天使と悪魔のゴタゴタを人間社会に持ち込んでもらっちゃ困るなあ。
サラセニアが親アンヘルモーセンになると、ガリアが怒って北方が乱れる原因になっちゃう?
ガリアのスタンスを王様に聞いといた方がいいな。
「しかし所詮北国のことだぜ。ドーラやカル帝国にはほぼ影響ないだろ?」
「今はね。でも人死にが出るような争いは、商売にプラスになんないんだよなー」
「北方諸国も商売相手として考えてるのかよ?」
「とゆーかドーラと帝国じゃ国力に差があり過ぎて、ドーラは主導権握れないじゃん? 全く面白くないから、他の国も含んだ大きな交易圏を作りたいんだよ。駆け引きの余地が生まれさえすれば、思い通りにできるかもしれない」
「ほお? あんたの考えてることはスケールが大きいな」
大きいんだよ。
今帝国とガリア両方のトップと忌憚なく話せるのってあたしだけじゃないかな?
だからさほど無茶なこととも思わん。
「そろそろ帰るね」
「おう、今日も面白かったぜ」
「御機嫌よう」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




