第1482話:御飯が不味くなっちゃいそう
フイィィーンシュパパパッ。
「こんばんはー、本日二回目」
「また来たか。いらっしゃい」
魔境で一稼ぎしたあと、イシュトバーンさん家にやって来た。
片目を隠した髪型の美少女番警備員ノアが言う。
「旦那様の機嫌がいいんだ」
「イシュトバーンさんの機嫌はいつもいいでしょ?」
「妙にテンションが高いというか? 温泉だ温泉だと」
「あー」
イシュトバーンさんが飛んできた。
「イシュトバーンさん、そんなに温泉楽しみなの?」
「楽しみだぜ」
「絵を描く方が主目的なんだからね?」
「よおくわかってるぜ」
ん? 転移だ。
ヴィルとガルちゃんが現われる。
「御主人!」
「よーし、よく来た! ヴィルいい子!」
「本日はお招きありがとう存じます」
「これお土産のお肉」
「おう、じゃあ中入ってくれ」
屋敷に通される。
◇
「ドミティウスがブツブツ文句を言ってるんですのよ? ユーラシア君が来ないって」
「何なのガルちゃん。席に着くなりその御飯が不味くなっちゃいそーな爆弾発言は」
普通に閣下が会話に出てくるのはいいのか?
まあイシュトバーンさん家ならいいか。
イシュトバーンさんがニヤニヤしている。
「あんた何やらかした?」
「何にもしてないって。でも閣下の不満はわかる。美少女成分が不足してるんだね?」
「違いますわ。ルーネロッテを……」
ルーネだったか。
この前連れまわしたのが相当楽しかったらしい。
ユーラシアさんが冒険者がーってルーネが言ってるのを、父ちゃん閣下は苦々しく思ってるんだろう。
「もっと遊んでやってくれねば。ルーネロッテが不満がってるのを見るのはつらいって」
「あれ? 何だそれ。予想と違ったぞ?」
もっと遊んでやっていいのか。
考えてたよりもずっと娘に甘かったでござる。
かといって魔境に連れてくと文句言うんだろうし……。
「温泉に連れてけばいいじゃねえか」
「危ない目に遭わせるなって言われてるんだよね」
「危なくはねえだろ?」
「イシュトバーンさんの前に可愛い子を晒すのは、危ない内に入らないのかなあ?」
むしろ最も危険な気がする。
イシュトバーンさん、ルーネのことは絶対気に入るしな?
ま、お父ちゃん閣下に了解取ればいーか。
「明後日帝都行くんだ。ルーネと会うと思うから、施政館にも寄るよ」
施政館に呼び出される気がするのだ。
何となくだけど。
「明後日ですね。ではそうドミティウスに伝えておきますわ」
「楽しみが増えたぜ」
「御飯来たっ! いただきまーす!」
◇
「ごちそーさまっ! 大満足です!」
「大満足だぬ!」
イシュトバーンさん家では完全に食後にデザートが定着している。
スイーツうまうま。
ガルちゃんが聞いてくる。
「温泉とはどこにありますの?」
「ドーラ西域のノヴォリベツという村だよ。ガルちゃんも興味ある?」
「いえ、報告は情報が多い方がいいですから」
「おお、ガルちゃん真面目だな」
「鄙びた温泉地だぜ」
「鄙びてるんだ?」
フィフィも言ってたな。
ヒバリさんが関わって長らく西域街道の終点だったっていうから、結構賑わってるのかと思った。
イシュトバーンさんが首を振る。
「昔は栄えてたって話だぜ? しかしドーラ自体が観光や保養に金使おうって国じゃねえだろ」
「わかる」
残念ながら今のドーラはビンボーだ。
ヒバリさんは西域街道で発展するドーラを思い描き、ノヴォリベツももっと繁盛させるつもりだったんだろう。
おそらくはヒバリさんのいた一〇〇年前から、当時考えてたほどドーラは大きくなっていないってことか。
申し訳ないなあ。
「大体食べ物が美味くないのが良くねえ」
「そーなの?」
「土に含まれてる成分がな。風呂にはいいんだが、耕作には向いてねえ土地だ」
「ふーん」
なるほど盲点だ。
作物はポーン辺りから買いつけるんだろうが、お客さん多くないんじゃいい食材も買えないだろうし、料理人もやる気にならないんだろうなあ。
「改善点はあるもんだなあ。御飯がおいしくないのはいただけないね」
「よろしくないですわ!」
「ガルちゃんもそう思うよねえ。泊り客を逃がしちゃいそう」
「塔の村開村で客自体は増えたと聞いてる。が、確かに飯が不味いんじゃ泊り客が増えるとは思えねえな」
「ノヴォリベツも問題抱えてるんだなあ」
もっとも大した問題じゃない。
客が多くなれば全て解決だ。
となれば塔の村~カトマス間の人の往来が多くなることが先決。
塔の村の素材やアイテムの需要が多くなるには……。
「やっぱ人口かー」
「どうしても人口の大小に帰結するよな。ただ焦ることはねえんじゃねえか?」
「移民が大勢来ているのでしょう?」
あたしがせっかち過ぎるのかな?
「ま、ドーラ全体で見れば、移民が大勢来てることは確かなんだけどさ。人口のアンバランスが気になるじゃん?」
「レイノスより東に比べて西域はってことか?」
「うん。アルハーン平原はクー川左岸も中流上流も未開発だから、どんどん居住域広げられるけど、西域はなー」
「魔物がネックだな」
「街道に埋められてる基石ってどういうものなの? 魔物除けだって聞いたけど」
微妙な顔をするイシュトバーンさん。
何なの?
「埋められてるらしい、ってだけだぜ。実際に確かめたやつはいねえんじゃねえか?」
「マジか」
「あんたに似てるっていう、ドーラ黎明期の冒険者ヒバリが設置したっていう伝説だ」
「ヒバリさんが?」
「実際に街道に出現する魔物はごく少ねえ。基石のせいかはわからねえが、何か仕掛けがあることは間違いねえよ」
ヒバリさんの行動には、一貫して西域を発展させたいという意図がある。
港町レイノスとノヴォリベツを結ぶことで、開発の足がかりになることを計画したんだろう。
……案外温泉好きなだけかもしれないけど。
「本当だとするとヒバリさんはすごいなー。レイノスより東、今のカラーズにはあんまり関わってないみたいだけど」
「あんただってすげえぜ。ガリアクエストの次はどうなってるんだ?」
「まだ続いてるんだ。『ガリア・セット』って名前のクエストに変わって、霜の巨人のあと、二つクエスト終えたとこ」
「ドミティウスが言ってたわよ? ルーネロッテをスレイプニルに会わせるな、チャンバラさせるなって」
「スレイプニル? 伝説上の神の馬かよ?」
イシュトバーンさん、興味ありそうですね。
あのえっちな丸い目になってますよ。




