第1480話:お姫様抱っこは最高に素敵です
「さすがに一〇〇〇本もあると重いなあ」
本日行政府に納品するスキルスクロールのことだ。
レイノス外町と中町を隔てる大階段には、台車を進ませる用の傾斜ももちろんあるのだが、アレクケスイーチィの三人では不安定だったのであたしも手伝った。
「失敗した。新聞記者ズは坂での運搬を手伝わせてから帰すべきだった」
「ユー姉は他人を使い倒すなあ」
「もっともレベルの低い新聞記者ズがいたところで、大して役に立たないわ」
「ひでえ」
「ひでえぬ!」
アハハ、単なる事実だとゆーのに。
イーチィが言う。
「本っていいですねえ。私も書きたいです」
「おっ、やる気だね。変わった経験したり面白いお話を思いついたりしたら、ぜひ文章に起こしてよ。まだまだ世界には本が足りないんだ」
イシュトバーンさんがえっちな目をしながら話す。
「この精霊使いはひでえんだ。貴族のお嬢さんが苦労するのを知っていながら西域街道を歩かせ、リタイアしないように最小限手を貸し、本にするために記録取らせてたんだぜ」
「今日は皆して何なんだ。あたしはひどくないわ。ドーラは輸出品が欲しいし、没落令嬢のフィフィだって紀行本の大ヒットで帝国人を見返せるからね」
「フィフィさんを転移で塔の村に送らなかったのは、紀行本の目論見があったから?」
「正解」
フィフィの尖った性格をちょーっとドーラ向きに丸めてやろうという親切心もあった。
イシュトバーンさんがイタズラ心だろって顔してるけど。
「姐さんにはどんな本出したいっていうアイデアあるのか?」
「たくさんあるけど、まずやってみたいのは昔の本の掘り起こしかな」
「「「「昔の本の掘り起こし?」」」」
「いい本だったり面白い本だったりしても、埋もれちゃってるのってない? あるいはぜひ皆に読んでもらいたいけど難解だって本。そーゆーのを安く再販したり、かみ砕いてわかりやすくしたりして出版するの」
「ははあ、元の作者が死んでたりしたら、執筆料も払わなくていいから安くしやすいってことか」
「何ですぐ悪いことを思いつくんだよ。合ってるけれども」
アハハと笑い合う。
過去の知恵が失われちゃ人間進歩しないのだ。
この辺アレクはわかってて、昔の本の掘り起こしには自分が一番向いてるってわかってるだろうけど。
アレクも色々やってて手一杯だからな。
さてと、行政府に着いたぞ。
「こんにちはー。輸出用のスキルスクロールとパワーカードを届けに来ましたよ」
「少々お待ちください」
少々待つ。
アドルフが来た。
「待ってたよ。倉庫に運んでくれ」
「はいはーい」
倉庫に運んで受取証と代金をもらう。
「来月も同じだけ注文でいいのかな?」
「ああ。よろしくお願いする」
「姐さん、これスキルの製作者ペペさんの取り分」
「確かに。渡しとくね」
通常ならばこれで取り引き終了だが。
アドルフが言う。
「大使室に来てくれるか」
「偉い人達に紹介しとこうね」
この前経験してるケスはともかく、アレクとイーチィの表情が硬いな。
あんまり気にするとイシュトバーンさんを喜ばせるだけだぞ?
大使室へ。
「こんにちはー」
大使室はいつものメンバーとパラキアスさんがいる。
オルムスさんは知事の仕事が忙しいのかいないけど。
互いに紹介する。
「ドーラの将来を担う子達だからよろしくね」
「君だってドーラの将来を担う子だろう?」
「あたしは世界の将来を担う子だから」
笑い。
プリンスルキウスに言っておかねば。
「フィフィの本について。完成して帝国で売り出す時に、プリンスの煽り文でセンセーショナルに宣伝することになりそう」
「ふむ、では先になるな?」
「うん。一ヶ月後くらいかな」
「パウリーネの分と二冊頼む」
「了解でーす」
パウリーネさんも感想を寄せてくれるかな?
売り上げに貢献してくれそうで楽しみだ。
パラキアスさんが言う。
「ザバンのお茶だが」
「そろそろ一番茶だよね?」
「今一番茶の最も忙しい時だ。作業に追われているから、邪魔しない方がいい。来月に入ると手が空くと思う。ただし、これは普通のお茶のスケジュールだ」
「え? 例の超すごいお茶は?」
『リリーのお気に入り』は目玉商品なんだが。
「普通のお茶よりピークが後ろになるそうだ。半月後くらいから茶摘みになるはず」
「そーなんだ? 知らなかったわ」
「ユーラシアの取り分はどうしておけばいい?」
「超すごいお茶は特約の枠目一杯の、収穫量の二〇分の一もらう。普通のお茶は発酵度の高いやつ低いやつ、それぞれ製品の茶筒で一〇本ずつあればいいや」
「了解だ」
超すごいお茶はドーラの宣伝をするのに使い勝手がいいからな。
多目に確保しとかないと。
さて、用は終わりだ。
ん? プリンスがモジモジしているぞ?
「イーチィ、協力して」
「えっ? 私が協力ですか? 何をです」
「プリンスからラブい相談があるよ。女の子の心情で答えてってやつ」
「どうしてそう敏感なんだ!」
「あたしのラブセンサーの感度は自分でビックリするくらいだよ。で、何だろ?」
「実は……」
パウリーネさんとの結婚で、帝都市民に披露するセレモニーの件だそうな。
式は教会の様式に則って行われるが、市民への披露は比較的自由なんだって。
「通常は帝都中央広場で挨拶して、馬車で皇宮まで手を振りながらゆっくりパレードするというものが多いんだ。バリエーションはあっても、あまり面白くない気がして」
「おっ、エンターテインメントを追求する姿勢はドーラで培われたものだね?」
「ハハッ。いいアイデアはないかな?」
プリンスを目立たせておくことは重要だな。
となれば……。
「花嫁姿のパウリーネさんが一人で中央広場にいるところへ、空からプリンスが現れる。パウリーネさんをお姫様抱っこして、楽団を引き連れて皇宮まで歩くってのはどう?」
「最高に素敵です!」
男性陣はええ? みたいな顔してるけど、イーチィには好評だ。
飛行カード『遊歩』とプリンスのレベルがあって初めて可能な演出だしな。
目新しくていいと思うよ。
クリークさんが言う。
「楽団を率いる様が一軍の将のようで引き立つかもしれませんな」
「ふむ? 一つの案としてパウリーネと相談してみるよ」
もう決まったようなもんだ。
女の子がお姫様抱っこの魅力に勝てるわけないじゃん。
「じゃーねー」
「バイバイぬ!」
行政府を去る。




