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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1475話:大儲けの上質な香り

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。


「エメリッヒさん、その後どうだった?」


 元貴族にして元宮廷魔道士のエメリッヒ・ギレスベルガーさん。

 ドーラのスキルスクロール生産と魔道技術発展に欠かせない人材だ。

 ぜひ玩具……大事にしないと。


『ホームレスからすると天国みたいだと言っていたぞ』

「ホームレスを基準にされてもな。ま、いーや。とりあえず餓死しないように面倒みてやってよ」

『わかった』

「エメリッヒさんは、目先はドーラに慣れてくれればいいや。農作業はやらんでもいいし、どうせできやしないわ。アレクが帰ってくれば仕事を振るだろ」

『そうだな。緑の民オイゲン族長、黄の民フェイ族長、青の民ディオゲネス族長代理には会えたんだ。紹介しておいた』

「うん、ありがとう。移民頭のサブローさんには早めに会わせておいてね」

「ああ、わかってる」


 オイゲンさんと面識があれば、スムーズにスキルスクロールのチェックにも行けるだろ。

 サブローさんに話が通っていれば、エメリッヒさんに特殊な仕事を振られていることを移民の皆さんも理解するはず。

 今のところ問題なし。


『エメリッヒ氏は石けんが研究分野だと言っていただろう?』

「言ってたね。魔力かまどの方に気を取られてたけど」

『灰の民の石けんを見せたら驚いていたぞ。質がいいって』

「ふーん? 評判がいいとは聞くけど、あんま実感がないんだよな」


 原料にしている植物油の質がいいからと聞いたことがある。

 でも他所の石けんを使ったことないんで、いい悪いはわからん。


『エメリッヒ氏は石けんに混ぜる香料の研究をしていたそうだ』

「ははあ? 予算下りるわけないわ」


 戦争とか安全とか丸っきり関係ない分野だもんな。

 商売に熱心になって民生分野の研究に予算出せばいいとは、外部の人間だから言えることなのかもしれない。

 宮廷魔道士は商売に無縁なのでピンと来ないだろう。

 また商売に目の色変えられても、軍事関係の研究が疎かになっちゃうだろうしな。


『元貴族だけに品質には敏感らしい。灰の民の石けんとエメリッヒ氏の香料があれば、貴族が愛用するような上質のものが作れるだろうと』

「あれ? 途端に大儲けの上質な香りが」

『だろう? しかし問題点が二つ』

「研究できる環境がないってことと、帝国での評判をいかに上げるかってことだね?」

『ああ。香料の研究環境はどうにでもなる。ドーラは香料に使える植物が豊富だ』


 ふーん、香料も商売になるのか。

 魔境産のタイムは普通のタイムに比べて香りが強いってクララが言ってたな。

 魔境にはいろいろ材料になる植物がありそう。


「研究環境はなー。素材関連ならあたしが協力するから教えてよ」

『帝国での評判をどうにかして上げられないか?』

「試供品を配りまくればいいと思うぞ? 幸い偉い人に結構知り合いできたから、宣伝は美少女商売人ユーラシアに任せてよ」

『実際に動き始めるのはちょっと先になると思うが』

「だよね」


 エメリッヒさんもドーラに来たばかりで身体が慣れないだろう。

 既に動いているスキルスクロールの生産の方が重要だしな。


「聖女のとこ行ってきたんだ」

『本物の聖女だな? 汎神教ユーラシア教会の』

「そこへ本物の聖女ユーラシアが訪れた」

『とてもわかりづらい』


 アハハと笑い合う。

 撹乱話法だ。


「聖女キャロラインは『灯火』っていう固有能力の持ち主なんだ」

『どんな能力なんだい?』

「古代の偉大な覇王や宗教指導者が持っていたメッチャレアなやつだって。人を惹きつける支配系の能力。あたし知らずにレベリングしちゃったからさ。えらいことになってないか、様子を見に行ったの」

『おいおい。トラブルを作りにいくスタイルは感心しないね』

「トラブルメーカーじゃないわ! 知らなかっただけだわ!」


 サイナスさんのいけず。


「キャロが『灯火』の恩恵を理解して使っていくならいいんだ。自己責任だから」

『他人に利用されることだってあるだろう?』

「まさにそれ」


 やっぱサイナスさんも危ないと見るか。


「どー見ても世間ずれしてない聖女だから、要観察だと思ったんだ。『灯火』の効果も考えてたより大人しかったんで、放っといてもよさそうではあったけど」

『世間ずれしてる方の聖女はあえてトラブルを作りに行ったと』

「違うとゆーのに」


 純真で可憐な乙女を捕まえて、世間ずれしてる方の聖女とは何事。


「聖女グッズの販売を勧めたんだ」

『聖女グッズ? つまり聖女ファンに向けてのコレクターズアイテムを売る?』

「そゆこと」

『……意図はわからなくもないな』


 揉め事なんてのは大概経済力があれば解決できるのだ。

 聖女グッズ販売によってユーラシア教会が金銭的に潤えば、やむを得ず疑わしげな話に乗らなきゃいけないケースは減る。

 商売してれば世間のことも見えてくる。


『聖女としての評判が下がるとは考えなかったのか? 聖女を広告塔にしてるんだろうに、宗教団体としてはよろしくないんじゃないか?』

「俗なところを見せておくのも狙いの一つなんだ。『灯火』で上がるカリスマ性をちょっと下げとかないといけないじゃん?」

『聖女ライバルを蹴落とす作戦だな?』

「そこまでは考えてないとゆーのに。却ってあたしの評判が下がるだろーが」


 まったく最近のサイナスさんは、あたしのやることなすこと何でも裏があると思ってるんだから。

 いや、逆にあたしの賢さをよく理解してるってことかな?


『明日はアレク達が行政府に行くと聞いた』

「うん。スキルスクロールは直接行政府に納品するから」

『ヨハン氏に任せてしまってもよかったんじゃないのかい?』

「ヨハンさんはスクロール生産にノータッチじゃん? 専門的なやり取りになって、ヨハンさんが緑の民の村に問い合わせるって状況は避けたいし」


 ヨハンさんと緑の民族長家は、過去拗れてたということがある。

 蒸し返すのは避けたいのだ。

 今のとこラルフ君とヒルデちゃんがうまくやってるので、問題ないと思いたいが。


『ユーラシアはちゃんと考えてるんだなあ』

「あたしのごまんとある長所の一つだよ。サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 明日はレイノス。

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