第1473話:得意と特異
元宮廷魔道士エメリッヒさんを連れ、灰の民の村に来た。
サイナスさん家の前にフワリと降り立つ。
「ほお、転移に飛行魔法か。滅多にできない体験だ」
「でしょ? うちのクララはレベル九九だからね。これほどの飛行魔法にはほぼ出会えないよ」
「レベル九九の精霊か。デタラメだな」
と感じるかもしれんけど、ドーラでは普通。
普通ではないか。
うちのパーティーは効率を極めているから。
「普通、『キュア』って基本の八状態異常にしか効かないって言われてるじゃん? クララの『キュア』はもっといろんなものに効くんだよね。呪いとか。精霊だからかな? エメリッヒさん何か知らない?」
「知らん。というか初めて聞いたぞ、そんなの。いや、しかし精霊の白魔法使いは専用のスキルを習得するんだったか?」
無遠慮に眺め回すエメリッヒさんの視線にアタフタするクララ。
クララ可愛いよクララ。
「『精霊のヴェール』だね。すげえ綺麗で、一見の価値ありだよ。見る?」
「見たいな」
「精霊のヴェール!」
虹のカーテンにも似た光の襞が青空に出現する。
支援魔法は効果が効いてるのをわかりやすくするためか、目で見えるやつが多い。
中でも『精霊のヴェール』は大きくて見栄えがするし、効果時間も長いのだ。
精霊の白魔法使いしか習得できないというレアさもあるしな。
「……美しい」
「照れる」
「あんたのことじゃねえよ! いや、あんたも可愛いが」
取ってつけたようにゆーな。
あ、サイナスさん戻ってきた。
「ユーラシア、そちらが?」
「期待の元宮廷魔道士エメリッヒさんだよ。こちらがこの村の族長サイナスさん」
「よろしく」
握手。
軽くカラーズと移民開拓地の地理的な説明をしておく。
「ふうん、じゃあここはさっきの港町から強歩一日弱ほど東北に位置するの集落群ってことか」
「そゆこと。さらに東に大きな平原があるから、移民をどんどん受け入れてるの。あっ、サイナスさん。ボチボチ農業経験のない移民も多くなってるらしいから注意しててね」
「わかった」
「オレはその移民開拓地に行けばいいんだな? 金もものも何も持っちゃいねえが……」
「おまけに生活力もないよ。サイナスさん、この人死なないように注意しててね」
苦笑するエメリッヒさんとサイナスさん。
「オレは何を期待されているんだ? 詳しい話を聞いてねえんだ」
「ドーラから帝国へスキルスクロールを輸出してるって知ってた?」
「知らねえ。何だそれ?」
さすがにホームレスしてたんじゃ知ってるわけないか。
「今輸出してるのが『アクアクリエイト』っていう、飲み水を作る魔法だよ。ドーラでの販売価格は一本一〇〇〇ゴールド」
「ほお、安いな。生活に役立つ魔法という視点か。聞いたことない魔法だが、オリジナルなのか?」
「そうそう。スキル作るの得意な人がドーラにはいるんだ」
「得意じゃなくて特異だろ」
「うまいこと言うなあ」
確かにペペさんは特異中の特異。
スキル作りは得意中の得意。
「一〇〇〇ゴールドならかなりの需要があんだろ。しかし……」
「今は月二〇〇〇本輸出してるの」
「二〇〇〇本? ドーラの規模で? どうやって?」
驚くエメリッヒさん。
異世界に外注してることは言いにくいな。
「紙職人にスクロール用の紙作ってもらって、ケイオスワードの文様印刷して封じて」
「ちょっと待て! 魔道士じゃない人間が関わってるのか?」
「うん。世界樹を折っちゃった人がいてさ。世界樹って魔力緩衝量が多いから、スクロール用紙に利用してる。で、そのスクロール用紙に魔力を与える特殊な台を使ってるんで、作業自体は魔道士必要ないの」
「何と非常識な」
呆れるエメリッヒさん。
「でもチェックする人が必要じゃん? 印刷がかすれて意味をなさないとか封印が甘いとかの。そーゆーのはケイオスワードの素養のある人じゃないとできないから」
「わかった。オレはチェック要員ってことだな?」
「お願いしまーす。エメリッヒさんにやってもらいたいのは、今度から輸出する盾の魔法『ファストシールド』の生産ライン。月一〇〇〇本だけど、『アクアクリエイト』の生産もやるようになるから合計月三〇〇〇本になる。これをもう一人のチェック要員と行うってこと」
「チェックだけか。一番大変な部分が職人の作業なら、月三〇〇〇本くらい楽勝だろ。もっと生産できるんじゃねえか?」
「うーん、それ以上輸出すると、帝国に睨まれそうじゃない?」
驚くエメリッヒさんとサイナスさん。
「……なるほど。攻撃魔法生産力に換算するとってことか」
「君それ最初から考えてたのかい?」
「当たり前じゃん。帝国とは仲良く商売したいんだよ。警戒されたいわけじゃない」
パラキアスさんの考えからすると、月三〇〇〇本の輸出でも多過ぎるんだろうが、儲けたいしな。
「いずれドーラ国内で消費する汎用スキルスクロールも全部生産したいと思ってはいるけどね」
「たまげたな。余った時間は自分の研究してていいかい?」
「もちろん。どんどん研究してよ。エメリッヒさんって何の研究してたの? 予算が下りねーって、誰より文句言ってたって聞いたけど?」
「石けんと魔力かまどだな。全く軍事に関係しないことに関しては予算配分が渋いんだ。まあドーラには魔力炉がねえから、魔力かまどの研究は諦めざるを得ない」
「魔力かまどって何なの?」
「厨房で使う魔道具だぜ。燃料の代わりに魔力を使って火を焚くっていう」
「やたっ! それ作って!」
あたし達で言う魔道コンロだ!
厨房用魔道具で一番実現してもらいたいやつ。
眉尻を下げるエメリッヒさん。
「おいおい、話聞いてなかったのかよ? 魔力炉から魔力を引っ張ってこねえと研究が進まねえんだよ」
「ドーラに魔力炉はないですけど、地中の魔力を集めて溜めたり使ったりする技術はあるんですよ」
「え? 魔力を集めて溜める?」
ハハッ、混乱してやがる。
アレクが帰ってきたらゆっくり説明受けてよ。
「今日はエメリッヒさんと知り合えた。いい日だなあ」
「もう住んでもらおうと思ってる小屋もできていますよ。各族長や移民頭のサブロー氏にも紹介したいから、ついて来てください」
「お、おう」
「あたしは帰るよ。また今度ね」
生活力のないエメリッヒさんはちょっと目を離すと死にそーだ。
よく面倒見てあげてね。




