第1469話:ユーラシア教会に様子を見に行く
「あれ? ライナー君じゃん。来てたんだ? 今日も騎士団休みなの?」
「ああ、ユーラシア君か。騎士団は三勤一休の勤務体制なんだ」
「休みの多い素敵なお仕事だなあ。この前会ってからちょうど四日だから、今日もお休みなのか」
「有給休暇もあるし、逆に大きな行事や事件がある時は休みでも駆り出されるが」
ユーラシア教会前まで来たら、貴公子こてんぱんイベントのトリを飾った色男、ツムシュテーク伯爵家の天才剣士ライナー君がいた。
こんなとこ来るくらいなら、勉強なり修行なりすりゃいいのに。
と思ったが、今日は師匠のボクデンさんも一緒か。
何かあるのかな?
「ん? 私の顔に何かついてるかい?」
「格好いい目と鼻と口が。ライナー君はいつもハンサムだなあと思って」
「ありがとう。でも冷静で醒めた目で見られても、本心のはずがない」
「おお? 女性のラブラブ光線を受け止め慣れてるモテ男は言うことが違うなあ」
「そういうのいいから。今日はどうしたんだい?」
ライナー君は女性で身を持ち崩すことは絶対になさそう。
とゆー面に関しては、明確なできる男のポイントなんだが。
「この前聖女キャロラインが『灯火』の固有能力持ちだと知らずにレベル上げしちゃったからさ。問題起きてないか見に来たの」
新聞記者が問う。
「『灯火』持ちのレベルアップはまずいんですか?」
「まずくはないんだけど。詳しい人に聞いたら、古代の帝王とかが持ってた超レアの支配系能力らしくてさ。レベル高いと影響が大きいかもって話だったの」
「超レアですか」
「資料が少ないみたいで、詳しいことがわかんないんだな」
ライナー君とボクデンさんが頷く。
「師匠の懸念もまさに『灯火』の固有能力についてだったんだ」
「やっぱボクデンさんはさすがだなー」
「キャロラインを帝都に置くことで本人や周りに不都合があるなら、故郷に連れ戻すことも考えていたんだが……」
「必要なさそうだね」
再びボクデンさんが頷く。
チラッと様子を見たところ、確かにキャロの聖女パワーがアップしていることは間違いないのだが、大したことはなさそう。
昔の王様はもっとレベルが高くて、元々の本人のカリスマ性を嵩上げしていたってことなんじゃないかな。
「御主人、来たぬよ?」
「え? おわっ!」
「「「「素晴らしい!」」」」
「「「「尊い!」」」」
後ろから聖女キャロに飛びつかれた。
殺気がなかったから油断してたよ。
ついでにヴィルも頭にしがみついとるわ。
よしよし、いい子だね。
しかしどこの男どもも素晴らしいとか尊いとか何なんだ?
二人のユーラシアがぎゅーしてるから?
ユーラシア教会は信者の教育をした方がいいんじゃないの?
緑の瞳の修道女が声を弾ませる。
「あなたがユーラシアさんですね?」
「いかにもあたしがウルトラチャーミングビューティー聖女ユーラシアだよ。語呂が著しく悪いな。何とかならんものか」
「聖女キャロラインと申します。よろしくお願いします」
「おお? 自分を聖女呼びか。なかなかやるね。さすがは我がライバル」
記者トリオがワクテカしてるのがわかる。
期待するほど面白いことは起きないと思うけど。
「先日、私のレベルを上げてくださったそうで」
「うん、ライナー君も協力してくれたんだ。身体が軽いでしょ?」
「ええ。奉仕をしても、マジックポイント切れを起こすことがなくなったんです。地母神ユーラシア様に感謝!」
「ハッハッハッ、聖女から女神に格上げだ!」
ギャラリーが皆そうじゃないって顔してる。
どういうことだったろ?
「まだお勤め終わってないんでしょ?」
「はい。もう重傷の方はおられないですけれども」
「あんたに話があるんだ。まず並んでる人を片付けよう。あたしも手伝うから」
◇
「私にお話とは何でしょうか?」
ケガ人達に『リフレッシュ』の施しを終えたあとのひと時だ。
まだギャラリーというか信者というか、聖女ファンがたくさんいるので、落ち着いて喋りにくいんだが。
「キャロは皆さんの期待に応えてみる気はない?」
「期待に応える……と申しますと?」
「聖女キャロライングッズを売り出してみる気はないかってこと」
「は?」
何か言い出そうとするライナー君の袖を引いて止めるボクデンさん。
ナイス師匠。
「どういうことでしょうか?」
「あんたは皆さんに奉仕することができるだけで充実しているかもしれないけど、お手伝いの修道士さん達はそうでもないじゃん?」
「えっ。め、迷惑だったのかしら?」
「決してさようなことは……」
慌てる修道士達。
わかりやすいなあ。
「いいかな? あんたは他人に施す、代わりに感謝されるっていうギブアンドテイクの関係が成立している。けど修道士さん達は違うでしょ? 働いてるのに感謝されるのはあんただけだ。教会に収入があるわけでもない。これは公平な取り引きとは言えない」
「考えてもみないことでした」
「ところが聖女グッズを売れば、そのおゼゼで教会にも他の修道士さん修道女さん達にも報いてやれるじゃん。もっと困ってる人をマネーパワーで助けてやれるかもしれないよ。聖女パワーだけでは限界があるのだ」
首をかしげる聖女キャロ。
まあ聖女と呼ばれてるくらいの修道女には馴染みのない考え方かもしれないが、世の中おゼゼで動いてるのは事実だから。
「しかしそれは避けるべき不浄な行いなのではないでしょうか? 女神ユーラシア様がお許しになるとは……」
「あたしの名前の神様なら、小事を捨てて大義を取るんじゃないかなあ。皆さんはどう思う?」
「教義には反しません!」
「名案だと思います!」
すぐ賛成する修道士。
あったりまえだ。
おゼゼになるなら働き甲斐があるもん。
モチベーションが違うわ。
「聖女キャロライングッズが発売されたら買う人っ!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
ギャラリーに振ったらほとんど手挙げるじゃねーか。
訓練されてる信者だなあ。
「ね? 皆に期待されてることでもある。つまり皆を笑顔にすることができる」
「皆を……笑顔に……」
「あんたの望みなんでしょ?」
「はい!」
「よーし、決まりだ! 修道士さん達も協力して、偉い人達を説得するんだよ?」
「「「わかりました!」」」
「あたし達は帰るよ。またね」
「バイバイぬ!」
大きく手を振ってキャロ達と別れる。




