第1467話:ぎっくり腰の治療
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
皇宮殿にやって来た。いつものサボリ土魔法近衛兵がニコニコしている。
「爽やかな朝で実に気持ちがいいね」
「ああ、ドーラは天気が悪いのかい?」
「いや、ドーラも天気がいいの。二重に満喫できる充足感だね」
サボリ君が何だそれって顔してるけど、こんなもんは気持ちの持ちようなのだ。
あたしが満足ならば全てオーケー。
あたしのいい気分を吸ってるヴィルも喜ばしげ。
ウィンウィンってやつだ。
「昨日、ルーネロッテ様が一日中近衛兵詰め所におられたんだ」
「えっ?」
何でルーネが?
約束してたわけじゃないぞ?
嫌な予感がする。
「君が来るかもって」
「カンが悪いな。ルーネはもうちょっとカンを鍛えるべき」
違うわ。
カンの問題じゃないわ。
「昨日はドーラでお仕事があったんだ。でもちょっと待ってよ。ルーネがずっと詰め所にいたのに、誰も注意しなかったの?」
「しなかった。特に皇女に相応しからぬ行動というわけでもないし」
「あたしが主席執政官閣下に怒られるだろーが」
「鋭いな。施政館から厳重注意の通達が来ている」
「何だよもー。やっとれんわ!」
施政館からってゆーか、お父ちゃん閣下からの厳重注意でしょ?
笑いごとじゃないわ。
ところでルーネは何の用だったろうな?
遊んでってことかな?
「今日もルーネ来てるんだ?」
「いや、いなかったな」
「さすがにストップがかかったか」
「代わりに新聞記者が来ているよ」
「おかしいな。今日こっち来ることなんて朝決めたばっかりだから、記者トリオは知らないはずなのに。カンがいいなあ」
「行動が読まれてるんじゃないか?」
「実に面白くないね」
アハハと笑いながら近衛兵詰め所へ。
◇
「おっはよーございまーす!」
「おはようぬ!」
「やや、これはユーラシア殿。と?」
「新聞記者さん達だよ」
ユーラシア教会へ行く前に、うっかり公爵邸に立ち寄った。
門番さんが聞いてくる。
「今日はどうされたのだ?」
「いや、単なる御機嫌伺いだよ。皆元気してるかな?」
「無論旦那様は元気だ。オードリー様も楽しそうに学ばれている、が……」
「が?」
「セグ殿の腰の具合が思わしくなくてな。ラグランド行きの計画に支障があるやも知れぬとのことだ」
「ぎっくり腰って言ってたっけ? 長引いてるんだ?」
「さよう。魔法医も呼び寄せたのだが、快癒せず……」
「ちょっとした一大事だね。あたしに見せてもらえる?」
記者が言う。
「治せるんですか?」
「あたし『ヒール』使えないから治せはしないけど、どこが悪いかは大概わかるよ。うちの精霊クララは世界一のヒーラーだから、ぎっくり腰程度なら大丈夫だな」
「すぐにこちらへ!」
公爵邸内部へ案内される。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシア殿! あつつ……」
「ムリしないで安静にしてて」
セグさんはうつ伏せになって診療を受けていた。
魔法医じゃなくて普通のお医者さんのようだ。
温石で腰を温めている。
お医者さんが言う。
「ユーラシア? というと、あのヤマタノオロチ退治で有名な?」
「そうそう。よろしくね」
お医者さんいい人っぽいから、にこっはやめとく。
怖がられるといけない。
「ユーラシア殿が診てくださるそうです」
「助かります。魔法医でも匙を投げた症例です。医者には患部を温めて血流を活発にし、自然治癒を促すしか方法がなく……」
なるほど、お医者さんにはお医者さんの理屈があるんだなあ。
「見せてくれる? んー腰っていうより、悪いのはもっと上の方だな。ヴィル、クララに事情話して呼んできて」
「わかったぬ!」
ヴィルに新しい転移の玉を渡し、代わりにビーコンを受け取る。
「上の方、とは?」
「この辺で魔力の流れが阻害されてるの。魔法医さんはもっと下の方に『ヒール』当ててたから治んなかったんじゃないかな」
お医者さんが頷く。
「まさにその通りで。わかりますか?」
「レベルが上がったらわかるようになったねえ」
あ、来たようだ。
「ヴィル再び参上ぬ!」
「よーし、ヴィルクララよく来た! クララ、ここに『ハイヒール』当ててくれる? 拳一個分くらい中に撃ち込む感じで」
「はい、ハイヒール!」
「……よし、オーケー。セグさん、もう動けるでしょ?」
「は、はい。あっ、痛くない!」
「今後はムリをしない程度に運動することを心がけるといいでしょう。筋力がつくと再発しにくくなりますぞ」
「お医者さんの言うことはよく聞いてね」
「はい! よかった! ユーラシア殿、感謝いたしますぞ!」
大喜びのセグさん。
クララを褒めてやってよ。
とりあえずミッションコンプリートだ、が?
お医者さんが感心している。
「なるほど、これが本物の魔法治療ですか」
「あたし実は魔法医を名乗ってる人には会ったことがないんだよね」
本物と言われても。
「正直ケガと毒以外への白魔法使用は否定的でしたが」
「物理的損傷でどっかが悪いって時に回復魔法は有効だよ。でも直で当てないとダメだし、古傷や神経痛だと低レベル者の『ヒール』じゃほとんど効果ないんじゃないかな。『ハイヒール』使える魔法医なんて、あんまりいないんでしょ?」
「ほとんどおりませんな」
「それからうちのクララの場合、精霊だからかもしれないけど、病気以外の状態異常は大体治せるの。例えば呪いとかでも」
「カレンシー皇妃様にかけられた強烈な呪いを解いたという噂は聞きました。本当だったんですね?」
「うん、本当。ついでだから、お医者さんの肩も治してあげるよ」
「えっ?」
ギクッとするお医者さん。
「腕を上げようとすると痛いでしょ? 両肩とも」
「い、いやあ。恐れ入ります」
「上半身脱いでくれる?」
白魔法による治療に懐疑的みたいだけど、自分で受けてみりゃ効果は理解できるだろ。
ふむ、魔力の流れからして症状は軽い。
クララなら『ヒール』で十分だな。
とゆーかこれはわかりやすい。
肩の関節に狙いをつけて『ヒール』してもらえばよくなったはずだぞ?
クララのヒール×二。
腕をぐるぐる回すお医者さん。
「……素晴らしい。全然何ともない! ありがとうございます!」
「サービスだってばよ。あたし達はこれで帰るね。オードリーとうっかり公爵によろしく」
「バイバイぬ!」
公爵邸を後にする。




