第1463話:推薦文をプリンスルキウスに
「美少女精霊使い参上! って、あんた達ここにいたんだ?」
アレクケスハヤテがショップにおるやん。
スキルスクロールの用事なら、緑の民の村に行ってるのかと思ったけど。
アレクが言う。
「いや、打ち合わせが終わって戻ってきたところだよ」
「姐さんは何しに?」
「カラーズの諸兄もあたしの美しい姿を見たいと思うから、たまには披露しに来るんだよ」
「来るんだぬよ?」
「ユーラシアさんはムダ足を運ばないだ。何か目的があると思うだ」
あれ、ハヤテが案外鋭いな。
「で、何しに来たの?」
「緑の民が本用のいい紙を開発したって聞いたから、様子を見にだよ。どうなの?」
ショップの店員が言う。
「自信作って話だぜ。これだ。五枚で一ゴールド」
ふむ、しなやかで強い紙。
主力商品の三枚一ゴールドの紙に比べれば薄いな。
材料が少ない分安くできるのかな?
本になるなら、薄いことも安いことも利点だ。
「あたしじゃ質問に答えられないから、こっちへ呼んだ方がいいな。ヴィル、新しい転移の玉とビーコン交換ね。レイノスの紙屋ヘリオスさんと連絡取ってくれる?」
「わかったぬ!」
ヴィルの姿が掻き消える。
店員が聞いてくる。
「どうなんだい?」
「いいと思う。でも専門家の意見も聞かないとね」
製本するにはどういう紙がいいかとかわからんもん。
アレクが言う。
「廉価本を普及させたいユー姉が、本用の紙を欲しがるのはわかる。でもこの紙、本にする以外の需要がなさそうなんだ」
「そーなの?」
紙飛行機や敷き紙にしようと思うと頼りないか。
メモ用紙にできそーじゃん。
いや、メモ用紙自体の需要がほぼないわ。
「でも問題ないぞ。世界的に大ヒットする本の原稿があるからね」
「「「えっ?」」」
赤プレートに反応がある。
『御主人! ヘリオスだぬ!』
「ヴィル、ありがとう。代わってくれる?」
『はいだぬ!』
『精霊使い殿ですな』
「そうそう、世界に変革をもたらす美少女ことあたしだよ。カラーズ緑の民の村で
本にいいんじゃないかって紙が開発されたんだ」
『ほう、興味ありますな』
「ヘリオスさん、こっち来てくれないかな?」
『そりゃ構いませんが……』
「ヴィル、ヘリオスさん連れてきてね」
『わかったぬ!』
あ、もう来た。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
ヘリオスさんビックリしてるぞ?
「これはこれは。ヴィルちゃんと転移でしたか」
「最近ヴィルのお使いは応用が利くんだよね」
「利くんだぬよ?」
新しい転移の玉を使わせたのは初めてだけどな。
「で、本にいいんじゃないかという紙はどれでしょう?」
「これです。五枚で一ゴールドの小売価格なんですが」
店員ドキドキ。
あたしもドキドキ。
軽くチェックしたヘリオスさんが言う。
「ふむ、安いですな。手触りもいい。一〇〇枚ほどいただけますか。使い勝手を調べたい」
「お願いしまーす」
合格が出るといいな。
「今日午前中にジンに会ったんだ。この紙が開発されたってこと伝えたら、ぜひ父にも見せてあげてくださいって」
「ハハハ、ジンは元気でやってますかな?」
「元気も元気。今日午前中にクルクルっていう西域の自由開拓民集落で、村域の境界の柵を広げるっていう工事しててさ。ジンやあたし達は魔物退治のお手伝いだよ」
うんうん、ヘリオスさんも嬉しそうだね。
ちょっと意地っ張りで独立心の強いところが似たもの親子だよ。
ん? ケス何?
「姐さん、世界的に大ヒットする本の原稿ってのは?」
「忘れてたわ。ヘリオスさん、これ、お願いしまーす」
「これは?」
「『フィフィのドーラ西域紀行珍道中』だよ。帝国の落ちぶれ貴族の娘がドーラに渡って来てさ。レイノスから塔の村まで歩かせたんだ。道中結構いろんなことあったから、面白く仕上がってると思うよ」
「……かなりリアルで細かい記述がありますな」
「毎日記録をつけさせてたから」
ヘリオスさんが軽く目を見張る。
「最初から出版するのを狙ってですか?」
「もちろん。著者のフィフィが帝国でかなり知名度のある子なんだ。帝国でドーラって国自体も注目されてるし、売れるの決まってるじゃん?」
「ほう、やはり輸出をメインと見ていますか。ユーラシアさんの名前がちょこちょこ出てきますが」
「途中でリタイアされたらえらい迷惑だから、手を貸してたの」
大きく頷くヘリオスさん。
「いいでしょう。出版は任せてもらえますかな?」
「お願いしまーす。なるべく安くしてたくさん売りたいの。『輝かしき勇者の冒険』っていう本知ってる? 帝国での販売価格をあれの半分くらいにして、帝国の子供向けスタンダード本の座をかっさらいたい」
「半額ですか。となるとドーラでの販売価格は一五〇ゴールド以下、先ほどの紙が使用できれば可能でしょうな」
「ユー姉。『精霊使いユーラシアのサーガ』はどうなったの? 大ヒット作になるんじゃなかったの?」
「残念ながらその不朽の名著は軽々に世に出せないのだ」
アハハと笑い合う。
フィフィの本が売れると、版元であるヘリオスさんの店も注目されそう。
新聞にも関わってるヘリオスさんは、識字率を向上させるぞ計画のキーマンでもある。
うんと儲けてください。
「では、原稿を預からせていただきますね」
「うん。表紙はイシュトバーンさんが描いてくれるって言ってたから、早めに提出するね」
「ほう、本気で売りにかかるんですね?」
「もちろんだよ。あたしはいつでも本気だってば」
「では、後書きないし推薦文をどなたか有力者に書いていただけると、大衆への訴求効果が全く違うのですが」
「なるほど?」
付加価値で魅力アップってことか。
ならば……。
「……プリンスルキウスに書いてもらうと最高だな」
「大使殿ですか? 帝国の皇子の?」
「プリンスは著者フィフィの元婚約者なんだ」
「「「「えっ?」」」」
フィフィと面識のあるアレク達も知らなかったか。
経緯を説明。
「……ってことなんだ。売れそうでしょ?」
「売れるでしょうが」
「姐さん、えぐいぜ」
「狙い過ぎたかー」
プリンスも婚約したばかりだし、波風立てるのもよろしくないか。
じゃあリリーに書いてもらうのがいいかな?
「じゃねー。ヘリオスさん、送ってくよ。ヴィル、ビーコンをヘリオスさんの店に置いて来てね」
「わかったぬ!」




