第1462話:イーチィがお喜びです
「サイナスさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、いらっしゃい」
「お土産のお肉ね」
「すまないね」
ヴィルとともに灰の民の村にやって来た。
ヴィルもすっかりカラーズに慣れてきたなあ。
「今日はどうしたんだい?」
「緑の民が開発したっていう、本に向いた紙。どんなもんか見に来たんだよ」
「ちょうどアレク達も緑の民の村へ行っているはずだよ。明日スキルスクロールの出荷だから」
「あっ、しまった!」
「どうした?」
サイナスさんが怪訝な顔するけど。
「アレクケスは次回の輸送隊出勤だったよね? 実は明日、帝国からの移民で元宮廷魔道士の人が来るんだ。アレク達に世話してもらおうかと思ってたんだけど」
「聞いてる。エメリッヒという貴族出身者で、スキルスクロールのチェック要員なんだろう? オレと緑の民オイゲン族長、移民頭のサブロー氏が注意しとくから大丈夫だぞ」
「助かるなあ。よかった」
行き違いになっちゃうかと思った。
アレク達の根回しがすんでいたなら問題ないだろ。
「エメリッヒ氏はどういう人物だかわかるか?」
「あたしも会ってはいないんだ。宮廷魔道士長さんに聞いたら、生活はデタラメ、魔道に関しては一途な男って言ってた」
「魔道のスペシャリストで、他の能はないってことだな?」
「多分。元貴族なら細々した日常生活のことなんかわからんと思う」
宮廷魔道士は結構高給みたいだしな。
研究棟住みなら生活は困んなかっただろうし。
「魔道の実力が本物でありさえすればいいんだ」
「変に難しい人でなければいいが」
「少々変でも、ドーラ向きに矯正するから構わないぞ?」
「えぐい未来が見えるようでえぐい」
何でえぐいを重ねるのだ。
全然重要じゃないだろーが。
そんなことはともかく。
「行ってくる!」
「行ってくるぬ!」
まずはJYパークへ。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「よく来た、精霊使いユーラシアよ」
黄の民のショップに寄ってみた。
フェイさんがにこやかに迎えてくれる。
「商売に関することか?」
「今日は違うんだ。午前中にクルクルっていう西域の自由開拓人集落に行ってきたの。インウェンとハオランの姉弟が住んでたところ。インウェンがクルクルの現況について気にしてたからさ」
「そうか、インウェン! 精霊使いがお出ましだ!」
『はい!』
天幕の奥から出てくる。
「ユーラシアさん、こんにちは」
「あれ、イーチィも?」
「姉様、お久しぶりです!」
輸送隊隊長眼帯の大男ズシェンの妹だ。
いつ見ても似てない兄妹だなあ。
身体はイーチィも大きい方ではあるが。
「今、クルクルに行ってきたんだ」
「クルクル? どこですか?」
うむ、イーチィは知るまい。
軽く説明する。
「インウェン副隊長の住んでいたことのある、西域の自由開拓民集落ですか」
「自由開拓民集落は経営がうまくいってるところとそうでないところと、かなり差があるんだよね。クルクルは魔物が多いから、街道沿いではあっても割と厳しい集落」
「今のクルクルはどうでしょうか?」
「黒の民の新しい魔物除けの札の成績がいいんだよ。これならイケるってことで、ハオラン達にも協力してもらって村域を四倍に広げてきた。移民から何人か引き受けようって話もあるし、もう大丈夫だと思う」
「そうですか……よかった。ずっと心残りだったんです」
ホッとするインウェン。
イーチィが首をかしげる。
「お話を聞く限りでは、うまくやっていけない西域の自由開拓民集落は多いのでは?」
「魔物多いエリアは、それだけで脅威だよなー。せっかく作物を作っても、草食魔獣が食べようとするじゃん?」
「あっ、なるほど! 魔物の脅威は直接襲われることだけじゃなくて、食料のこともあるんですね」
「あたしが冒険者やってみようと考えたのも、魔物のせいで思い通りにならない生活が嫌だったからだよ」
頷くインウェンとイーチィ。
少ないとは言ってもアルハーン平原にだって魔物はいる。
カラーズに住んでるとあまり意識しないで暮らせるけど、輸送隊のメンバーである二人は魔物が身近であることをよく知ってるだろうから。
「西域を仕切ってるバルバロスさんっていう実力者が、黒の民の新しい魔物除けのことを知ってるんだ。今後は西域での魔物被害は激減するはず」
「楽しみですねえ」
「実に希望が持てるね。ところで輸送隊の業務の方はどうなの? 問題ない?」
「交易品が多くなってるんですよ。まだまだ画集も札取りゲームも出ていますし」
「うんうん。どんどん輸出してるからね」
「移民開拓地の方からもいずれ交易に参加したい旨、伝えられているんです」
「もう交易参加の話が出てるんだ? 今年は食べていくだけで精一杯かと思ったわ」
「魚の加工品は売れそうですから」
魚の加工品は帝国からの移民の方がよく知ってそう。
レイノスにもないものだろうしな。
保存の利くものが望ましいけど。
「いずれ輸送隊員の増員が必要かと思います。その際はまたユーラシアさんのお手を煩わせることになると思いますが……」
「任せて」
輸送隊の規模も大きくなるか。
交易に参加するなら、移民の中から輸送隊員を選ぶのがバランスいいなあ。
農繁期以外ならイケそう。
というか『アトラスの冒険者』代替組織が完成したら、各地の輸送隊の育成プログラムを作ってもいい。
カラーズ~レイノス間だけじゃなくて、西域にも大規模で優秀な輸送隊があっていいしな。
個々の商人がちまちまやってたんじゃ輸送コストが大きくなり過ぎる。
イーチィが言う。
「明日はかなり大量の交易品が出ると聞きました」
「行政府からスキルスクロール一〇〇〇本の注文があってさ。全部完成したから納めるんだよ。明後日の納品にはあたしも付き合うことになってる」
「いいなあ。私も行政府行きたいです」
「イーチィも次の輸送隊出勤なんだ? じゃあ行こうか。インウェン、いいかな?」
「構いませんよ。行政府にはアレク君とケス君の他にも人員を割くつもりでしたし」
「やったあ!」
喜びを全身で表現するイーチィ。
面白イベントを期待されてるのかな?
そーいやイーチィはあとで輸送隊に加入したから、イシュトバーンさんに会ったことないんだっけか。
「じゃねー、明後日会おう」
「わかりました!」
「バイバイぬ!」
緑の民のショップへ。




