第1461話:『フィフィのドーラ西域紀行珍道中』
「西域は生活が厳しいところも多い」
塔の村に戻った時、ハオランがポツリと呟いた。
重い雰囲気は好きじゃないんだが。
レイカが疑問を口にする。
「クルクルは街道沿いなのに、何故貧しいのだ? 魔物のせいか?」
「魔物のせいもあるんだけどさ。それだけじゃないな」
「距離ですか?」
「うん」
商人の息子ジンは理解してるが、レイカとハオランはわかってなさそう。
「カトマスの商人の立場を考えて。距離強歩一日弱の場所は、頑張れば一泊で往復できるでしょ? クルクルみたいに強歩一日強になると二泊必要になる。実質的な距離が大して長くなるわけじゃなくても、宿泊料金倍になっちゃうんだったらわざわざ足延ばさないよねって話。よっぽどの特産品があれば別だけど」
「そういうことか……」
「おまけに魔物被害が多いんじゃ厳しいわな。街道沿いだから何とかやれてたってとこじゃない?」
「僕も同感です」
ジンが言い、ハオランも悔しそうに頷く。
「これからは違うぞ? 余るほど作物が取れる。塔の村やカトマスとの距離を考えると、あの辺に大きめの集落が欲しいことは欲しいんだ。クルクルに西域中部経済の中心になるポテンシャルはあるよ」
南部への街道を通せればだが。
「南部についてですが」
「南部は産物も面白いけど、この前南部の人に聞いたら思ったより人口も多いみたいなんだよね。多分カラーズ以上」
「えっ、カラーズ以上ですか?」
「街道を敷ければ最高だけどなー。そう思うでしょ?」
「「「思う」」」
「ドーラにおゼゼがあればムリヤリにでも道を通せるんだよ。ないから魔物除けだ何だって苦労するんだよね。でも南部街道という考え方があるってのは覚えといてよ。いつか実現したいの」
レイカパーティーを焚きつけておく。
ドーラの未来を明るく灯せ。
「じゃねー」
「ああ、楽しかったぞ」
「バイバイぬ!」
さて、『ホワイトベーシック』と『遊歩』でも仕入れておくかな。
路地を通ってコルム兄のパワーカード屋へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「あら、御機嫌よう」
元悪役令嬢フィフィもいた。
仕事熱心だなあ。
「最近『ビートドール』っていうバトルスキルが発売されたんだ。まだ村長デス爺が扱ってないやつだから、必要なら買ってきてあげるよ」
「どんな効果ですの?」
「敵単体に少量の衝波属性ダメージを与えるってやつ。威力は攻撃力に比例で、レベル三〇くらいの前衛なら一撃で二〇前後のダメージが見込めるって。使用コストは『ファイアーボール』くらい。射程長めなので、中衛後衛でもポジション変えずに使える」
「対人形系魔物用として打って付けではないですか。おいくらですの?」
「六〇〇〇ゴールドだよ。今はまだパワーカードの装備枠埋める方が先決だと思うけど、ヒットポイント四以上の人形系に遭うようになったら考えなよ」
「……そうね、教えてくださって感謝いたしますわ」
手に入れるべきか、フィフィに一瞬の躊躇があった。
しかしパワーカード四枚分の価格は、今買うには早いと思い定めたのだろう。
うんうん、貴族脳だったら買っちゃってたね。
しっかり冒険者脳になってて嬉しい限り。
「貴方は何しにいらしたの?」
「『ホワイトベーシック』と『遊歩』を買いに来たんだよ。お土産にちょうどいいんだ」
「『遊歩』はレベルが高くないと使えないのでしょう?」
「ガリアの王様と知り合ったんだ。あの人レベルあるから、欲しがるかと思って」
執事が驚いたように言う。
「ピエルマルコ王ですか?」
「そうそう。結構なカリスマ性のある王様だよ」
「ピエルマルコ王とはどんな人物なの? マテウス、知識を披露してもよくってよ」
「ジャコメッティ朝ガリア王国第六代の王です。四年前に王位を継承し、年若のため行く末が懸念されましたが、瞬く間に権力を掌握しました。ジャコメッティ朝中興の祖たるべき王と目されています」
「雰囲気はウルピウス殿下にちょっと似てるかな。なかなかやるやつだから、仲良くしとこうかと思って」
コルム兄が呆れたように言う。
「ユーラシアの友達扱いは際限がないなあ」
「向こうもあたしと友達になっとくと得だからいいんだぞ?」
「それぞれ何枚ずつ買っていくんだい?」
「えーと、『ホワイトベーシック』四枚『遊歩』二枚」
「ちょうど一万ゴールドだね。輸出用の『ウォームプレート』と『クールプレート』も完成しているがどうする?」
「あ、早いね。もらってく。来月も同じように製作お願い」
「わかった」
弟子のタッカー君の腕が上がってるから早く仕上がるんだろうな。
とするとアルアさんとこももうできてるかも。
支払いをすませてと。
ん? どーしたフィフィ。
モジモジして。
似合わないぞ?
「『フィフィのドーラ西域紀行珍道中』が書き上がったのだけれど……」
「らしいタイトルになったね。待ってたぞ! 見せて」
おずおずと原稿を差し出すフィフィ。
買い物のはずだったろうに、何で今持ってたんだ?
パラパラ……と。
「よし、オーケー!」
「そ、そんな見方でわかるんですの?」
「わかるぞ? あたしはつまんない本だと一〇文字くらい見ただけで眠くなっちゃうという特技があるからね。この本は面白いと断言できる」
特技? って顔しながらも嬉しそうなフィフィ。
長所って言い換えてもいい。
ごまんとあるあたしの長所の一つだわ。
「印刷の方の判断で直しがあるようなら相談しに来るよ。フィフィの取り分は、ドーラでの小売価格の一割×部数になるけどいいかな?」
「よろしいですわ。どのくらい売れそうですの?」
「可能なら一部一〇〇ゴールドで売ることを目標にする。部数は『輝かしき勇者の冒険』越えを目指す!」
「「えっ?」」
何驚いてるのよ?
「『輝かしき勇者の冒険』って、大ベストセラーの?」
「字を覚えた子供がほぼ全員読む本だとは聞いた。でもそれしかないから売れるだけでしょ。ドーラで一部一〇〇ゴールドなら、帝国へ輸出したって三〇〇ゴールドくらいで販売できる。子供でも読める内容だし、『輝かしき勇者の冒険』よりずっと安いから、宣伝次第で絶対に売れる!」
さー面白くなってきた。
緑の民の紙確認して紙屋のヘリオスさんとコンタクトを取らねば。
「さらばなのだ!」
「さらばだぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




