第1456話:レイカパーティーを連れて
――――――――――二三六日目。
フイィィーンシュパパパッ。
朝から塔の村へやって来た、御苦労なあたし。
すかさず光輝なる頭部を発見。
「おーい、じっちゃーん!」
「何じゃ、朝から騒々しい」
「じっちゃんは朝からきらきらしいね」
「ハハッ、褒めても何も出ぬぞ」
褒めたわけではなかった。
でもデス爺機嫌がいいからまーいーや。
「ん? 今日はユーラシア一人か?」
「一人ぬよ?」
「ヴィルの口調はやめよ。混乱するじゃろ」
アハハと笑い合う。
あたしの大好きな掛け合いだ。
「リリーとその手下達はどお?」
「ゼムリヤの若手兵士のことじゃな? 順調のようじゃぞ。二〇日後までには立派な冒険者としてゼムリヤに返せると言っておった」
「リリーが直々に鍛えてるの?」
「どうじゃろうの。従者と二人で教育しておるのではないか?」
そーか、リリーが寝てる時は黒服も警戒を怠らないだろうから。
じゃ、必然的にゼムリヤの新人魔物狩り要員の訓練は午後か。
メインの教育係は黒服なんだろうけど、リリーもえらそーなこと言いたいのかもしれない。
まあ順調に育っているなら結構なことだ。
辺境侯爵メルヒオールさんも喜ぶだろう。
「今日はどうしたのじゃ?」
「最近黒の民が売り出してる、効き目の強い魔物除けの札あるじゃん? あれを西域の自由開拓民集落クルクルで使ってもらってるから、どの程度の効果があるか見に行こうかと思って」
「む? 塔の村に何の関係がある?」
「ハオランがクルクルの出身なんだよ。レイカパーティーが暇だったら連れていきたいんだ」
ハオランは火魔法使いレイカのパーティーの一員の寡黙な拳士だ。
生まれはカラーズ黄の民の村だが、冒険者になるまでクルクルにいて縁が深い。
クルクルに行くなら、現地をよく知るハオランがいた方があたしは都合がいい。
レイカパーティーだってイベントは歓迎なんじゃないの?
「レイカか」
輝く頭部を傾けるデス爺。
「起きてくる時間が全く読めないのじゃ」
「だよね。レイカは気まぐれだからな。フィフィにも用があるんだけど、始動はもう少しあとかな?」
「うむ」
元悪役令嬢フィフィは午前中に冒険者活動を行うパターンではあるが、この時間は早過ぎたか。
デミアンの妹アグネスでもバルバロスさんでも、会えたら話したいことがあったんだけど……。
「今日は空振ったなー。仕方ないか」
「だから誰も連れてこなかったのであろう?」
「変に深読みするなあ」
帰ってクルクル行くか。
ん? デス爺何?
声を落として聞いてくる。
「……異世界の状況に変化はないか?」
知りたいのは異世界関連情報か。
エルのことも心配なんだろう。
「とゆーか、新しい情報が入ってこないな。ごめんね」
「『アトラスの冒険者』で新しいクエストは配布されているのであろう?」
「前と変わらず配布されているね。特に異常なく、他の冒険者に疑われるようなこともない」
『アトラスの冒険者』事業が終了するのに、まるで気配も感じられない。
情報なしの気配だけで『アトラスの冒険者』の廃止を察するのはムリだわ。
「お主は最近何のクエストに取り掛かっているのじゃ?」
「外国のクエスト振られるんだよ」
「ふむ、ラグランド情勢に関わっていたと聞いた」
パラキアスさんからの情報か。
「今はガリアのクエストをまとめて寄越されてるんだ。三つ片付けたとこ」
「ほう?」
霜の巨人、スレイプニル、ラブリーぽにょだ。
こう並べるとぽにょが結構な大怪獣みたいで笑える。
デス爺が言う。
「『アトラスの冒険者』が赤眼族監視のための組織だとすると、何故お主に外国のクエストが回されるのじゃ?」
「クエスト自体は異世界関係なく自動で集められてるっていう、じっちゃんの仮説は正しいと思うんだ。ただクエストを各冒険者に配ってるのは、こっちの世界のギルドの係員なんだよね」
「ならばギルドの係員の考えで、お主は外国の担当なのか?」
「多分。あたしはドーラをいい国にしたいし、商売を一生懸命やれる国にしたいって公言してるじゃん? 行ける国が多くなってくると、ドーラと帝国のことだけ考えてちゃダメだなーって気になってくるよ。ギルドもあたしの考えを察して、いろんな国のクエストを振ってくれるんだと思う」
あんまりおっぱいさんとその手のことを直接話したことないな。
でもおっぱいさんは賢いから察してくれるんだろ。
「ガリアか。ドーラと直接は関係ない地だな」
「ゼムリヤの北隣の国なんだよね。人口はカル帝国の何分の一かなんだけど、国土は広い。北の方にはちっちゃい国がいくつかあって、その盟主的な存在なんだってよ。バアルは大国だって認識してる」
「ふむ? ガリアも関係して欲しいのか?」
「そりゃそーだよ。ドーラと帝国、及び帝国の植民地っていう経済圏だと、どーしても帝国の言うなりになりそうじゃん?」
ガリアその他の国が混ざってくれれば、よりフェアな貿易が可能なんじゃないかな。
フェアな貿易は平和の証。
ドーラが帝国と対等な国になれればいいが、うまく発展したとしても一〇〇年先の話だ。
「お主の構想は心躍るの。お、レイカが来たようじゃ」
「やたっ、ラッキー! おーい!」
駆け寄ってくるレイカジンハオランの三人。
「ユーラシアじゃないか。どうしたんだ?」
「カラーズ黒の民が最近売ってる効き目の強い魔物除けの札が、ハオランの出身地のクルクルで使われてるはずなんだ。どの程度の効果が見込めてるのか、今から見物しに行くんだ。あんた達も行きたいんじゃないかと、誘いに来たの」
「クルクルか。行ったことのない自由開拓民集落だ。私は行ってみたいな」
「僕も行きたいですね」
「行きたい」
「よーし、決まり!」
デス爺が顎をさすりながら言う。
「かの魔物除けの札は、バルバロス殿がかなり気に入っておったのじゃ。自由開拓民集落の安全度が格段に高まると」
「どれくらいの効果を発揮してるのかなー」
あの魔物除けの札の効果が十分なら、碧長石の魔物除けの量産化が実現しなくても、南部までの道を引けるかもしれない。
南部は実際に行ってみて可能性の大きい地だと感じた。
南部との交易が自由にできれば、ドーラはもっと豊かになるのだ。
「じっちゃん、バーイ! ヴィル、自由開拓民集落クルクルへ行ってくれる?」
「了解だぬ!」




