第1446話:魔道研究所で事件です
魔道研究所に着いた。
シンプルな外観の建物だ。
どーも貴族の邸宅街から遠くない場所に、こういう飾りっ気のない建物があるのは違和感があるのだが。
「何で魔道研究所ってこんなところにあるのかな? 貴族の宮廷魔道士が通いやすいように?」
「貴族の宮廷魔道士は研究所には縁がないぞ、超絶美少女精霊使いよ」
「皇族や貴族の住む地区は頻繁に騎士が巡回していますので、帝都で最も治安がいいんですよ。だからだと思います」
「おおう、もっともな理由だった」
ドロボーさんに入られちゃ困るからか。
しかしドロボーさんが欲しがるようなものが、魔道研究所にあるかな?
「こんにちはーって、誰もいないね」
「朝早いからではないか? 超絶美少女精霊使いよ」
「そーかも」
早いって時間帯でもないが、研究職の人って宵っ張りで朝寝坊のイメージあるもんな。
「中に食堂を兼ねたラウンジがある。そこまでは入っても構わぬはずだ」
「じゃ、お邪魔しようか」
この前はこの玄関までしか来なかったからな。
中がどうなってるかもちょっと興味ある。
個々の研究室は先に位置してるのか。
奥まで行っちゃってもルーネがいれば怒られることもないと思うけど。
「おお、広い!」
ゴテゴテ装飾されてないから余計に広く見えるのかもな。
過ごしやすい空間だ。
人が少ないのはやはり朝だからかな?
でも知った顔発見。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「あ、ユーラシアさんと杖職人の方、と?」
「ルーネロッテ様ではないですか!」
「えっ?」
「ドルゴス様、お久しゅうございます。お元気そうで」
ドルゴス宮廷魔道士長と魔道士マーク青年だ。
マーク青年はルーネの顔を知らんらしい。
ルーネは箱入りだからだな?
魔道士長さんはしょっちゅう皇宮に出入りしてるから見知っているんだろう。
魔道士長さんと杖職人ナバルさんを互いに紹介と。
「今日はどうされたのです?」
「ここに出入りしている杖職人のモプシュさんっているでしょ? ナバルさんとは親交があって、呼ばれたの」
「さようでしたか。ルーネロッテ様は?」
「あたしのお供として連れて歩いてくれって、昨日お父ちゃん閣下に頼まれたんだ」
「ドミティウス様に? ……わかりました」
ワクワクのルーネの顔を見て全てを察してくれたらしい魔道士長さん。
要するに閣下は娘に甘いのだ。
「ところで魔道士長さんとマーク君は何の話だったの? 深刻そうだったけど」
途端に顔を曇らせる魔道士長さんとマーク青年。
どうした?
雰囲気悪いぞ。
ヴィルがあたしにくっついてくるがな。
「……ユーラシア殿はマークの認識阻害布は御存じでしたな?」
「透明マントだよね? うん、よく覚えてる」
マーク青年が皇宮で使って居眠りしてたやつ。
あんなもの作るってすげえ。
「あれが盗まれたようなのです」
「えっ?」
ルーネと片眼鏡のおっちゃんに透明マントの説明を交えながら話を聞く。
「……というわけなのです。よからぬことに利用できるものなので……」
「透明マントの存在を知ってるのは誰?」
「全容を把握しているのは、ボク以外では宮廷魔道士長だけです。でも少々のことなら研究棟詰めの魔道士は全員知っているかと」
「ふむー、難しいね」
「大事にならぬ内に取り戻したいのですが……」
「ユーラシアさん、手伝ってくださいよ」
「透明マント使ってて部屋の中に隠れてるってんなら見分ける自信あるけど、普通にしまって隠してあるんじゃわかんないぞ?」
あたしに頼りたい気持ちはわかるけれども、聖女の力は万能じゃないのだ。
魔道士長さんが言う。
「ルーネロッテ様が見学に訪れたという名目で各研究室を巡りましょう。わしとマークも同行します。ユーラシア殿なら、怪しい素振りを見せた者を炙り出せませんかな?」
「そーゆーことなら協力するよ」
なるほど、魔道士長さん考えたな。
ルーネがメッチャワクテカしてるし。
ちげーよ、あたしはトラブルメーカーじゃねーよ!
「早速案内いたしましょう」
「私はラウンジでモプシュを待つので遠慮しよう」
「じゃ、またあとでね」
「バイバイぬ!」
研究棟へ。
しかし雑然としているとゆーか生活感溢れるとゆーか、皇女たるルーネを連れてきていい場所じゃない気がする。
「宮廷魔道士って、皆研究棟で暮らしてるんだ?」
「平民出身の者はほぼそうですな」
貴族はよほどの変人じゃないとここでは暮らせないと思うわ。
「貴族の宮廷魔道士も多いんでしょ?」
「多いですな。人数で言えば、現在は貴族と平民が同じくらいですか。以前はもっと貴族が多かったですが」
「ふーん。成果重視になって、優秀な平民の研究者を増やしたってことかな?」
「さようです」
「貴族の宮廷魔道士って必要なの? 平民の研究結果を貴族が取っちゃうってこともあるみたいだけど?」
「ハハハ。自分の名で研究成果を発表していいのは二級魔道士以上と定められておりますので、貴族有利というのはありますな。ただ皇族や貴族の護衛任務ともなりますと、マナーの覚束ない平民では務まらないということもあるので、貴族の宮廷魔道士は必要です。お偉方や社交界に縁のない平民では、ロビー活動も不可能ですからな」
「そーか。となると貴族の宮廷魔道士には偉そーな肩書きがいるから、研究を譲ってもらって位の高い魔道士にならなきゃいけないのか」
「さようですな。住み分けは必要です」
聞けばなるほどの事情だった。
物事には何でも理屈があるもんだ。
研究と護衛その他で組織を分けた方が効率的な気もするけど、対抗意識でガタガタしちゃうかもしれないな。
研究を平民、護衛その他を貴族というのが一番揉めないのか。
ルーネが聞く。
「宮廷魔道士になるにはどうしたらよろしいのですか?」
「全て推薦ですな。宮廷魔道士には定員があるのです。年に一度欠員を募り、その中から選びます」
「ルーネは『風魔法』の固有能力が発現したんだ。宮廷魔道士に興味あるのかも」
「何と! ルーネロッテ様が宮廷魔道士になりたいとのことでしたら、ぜひこのドルゴスに御相談くだされ。間違いなく採用いたします」
「ありがとうございます!」
ハハッ、ルーネが宮廷魔道士になったら施政館への影響力を強められると考えてるみたい。
父ちゃん閣下はルーネが宮廷魔道士になるなんて許さないだろうけどな。




