第1445話:念入りに釘を刺される
――――――――――二三五日目。
フイィィーンシュパパパッ。
魔道杖職人ナバルさんを連れて皇宮にやって来た。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。そちらは杖職人のナバルさんだね?」
「うむ、おはよう、近衛兵君」
詰め所へ向かいながらサボリ土魔法使い近衛兵が言う。
「今日は魔道研究所へ行くんだろう?」
「うん、研究所に出入りしてる杖職人に呼ばれてるんだ。誰かに聞いた?」
「ルーネロッテ様がウキウキで話してくださった」
「ルーネはもう来てるのか」
「今日一日、ルーネロッテ様は君のお供なんだろう?」
「お供だね。でもお父ちゃん閣下の目が光ってるから、あんまり面白いとこへ連れていってあげられないんだよ」
ルーネは冒険者志望なのだ。
自由にしていいなら、魔物との戦闘を見せてみるべきだと思う。
箱入り娘で色々経験足りてないんだから、やりたいことやらせりゃいい。
何だって身になるよ。
特にレベルは裏切らないんだから。
でもなー、お父ちゃん閣下には逆らえないしなー。
あたしも忖度して無難な場所に連れていかざるを得ない。
とゆーか、魔道研究所に行くのは最初からの予定だったけれども。
どう考えても一四歳の女の子にとって愉快な場所ではないんじゃないかなー?
「普通は魔道研究所なんか行く機会がないもんな。貴重な経験だとは思うけど」
「ルーネロッテ嬢は風魔法使いなのだろう? 全く興味ないことはないだろう」
「そーかな?」
まあ研究所の杖職人モプシュさんの用が何か知らんけど、長居する気はない。
「昨日だってスレイプニルに会わせてもらったと、興奮気味に語られていたぞ」
「ええ? あたしが会わせたわけじゃないのに」
お父ちゃん閣下に睨まれたらどうするつもりだ。
近衛兵詰め所にとうちゃーく。
「ユーラシアさん!」
「御主人!」
「おお? 何なんだ、あんた達は」
「素晴らしい!」
ルーネとヴィルが飛びついてきた。
ルーネは初めて見た時クールな子かと思ったんだけど、全然印象と違ったわ。
ヴィルはヴィルで今までふよふよしてたのに急にくっついてくるし。
わけがわからん。
片眼鏡のおっちゃんはまた素晴らしいって何がだ。
「昨日の体験をお父様に話したところ、大変喜んで聞いてくださって」
「多分、ルーネが喜んでるからにやけてただけだぞ?」
「ユーラシアさんにくれぐれもよろしくと」
くれぐれも危ないことするなと、念入りに釘を刺されている。
危ないことなんかしてないわ。
トラブルは向こうから舞い込んでくるとゆーのに。
「ま、いいや。行こうか」
魔道研究所で危ないことあるなら、あたしの責任じゃないし。
魔道研究所の責任だわ。
◇
「私、魔道研究所は初めてなんです」
「ごめんよ、あんまり面白くはないと思う。真っ当に生きてる人には用のないところだろうからねえ」
道々話しながら行く。
ヴィルがルーネをピッタリマークしている。
ルーネは見るからにゴキゲンだしな?
何が嬉しいのやら。
ナバルのおっちゃんが片眼鏡をクイッとしながら言う。
「興味ある内容もあるのではないか? 薬草の研究なども行われているし」
「魔法や魔道具の研究だけしてるんじゃないんだ?」
ケイオスワードや魔力、汎用スキルの基礎研究はもちろん、魔力炉や各種マジックアイテムの開発、天使・魔族・幻獣・魔物・植物・鉱物・素材・呪術についてなど、研究項目は多岐にわたるそうな。
「へー。でも民の生活に反映されてないような?」
むしろドーラの方が魔道的に思える。
いや、ドーラは魔物の脅威があるから、必然的に魔法が身近なのか。
「社会秩序を保つためだと思います」
「魔道の力は強大だからな。内容が漏れては困る研究も多いのだろう」
「魔道研究所の予算って、税金から下りるんでしょ? おゼゼ払ってるのに還元されないんじゃ文句言いたくなるじゃん」
「一理あるのかもしれんが……」
「もっと生活寄りの研究すればいいのにねえ」
軍事寄りの研究で資金回収するって大変だと思うぞ?
儲けどうこうの視点で研究させてるわけじゃないんだろうけど。
「ちなみにユーラシアさんならどういった研究をさせたいですか?」
「やっぱりマジックアイテムの類かな。手に入れれば効果が見える。誰にでも恩恵がわかりやすいでしょ」
「すぐ役に立つのはいいですね」
「今一番欲しいのは魔道コンロかな」
「「魔道コンロ?」」
あたしはバエちゃんとこで使ってるからイメージしやすいけど、言葉だけじゃわかんないか。
「調理で火を使うこと考えてよ。薪を燃やすでしょ?」
「はい」
「すると煙が出るから空気が汚れるし、灰がたくさんゴミとして出ちゃう。これを魔力と火魔法に置き換えることができないかってことだよ」
「……なるほど、燃料を用意しなくてよくなるのか」
「家庭用魔力炉が実現できて、魔力供給に不安がなくなればそーなるね」
「超絶美少女精霊使いの言う、生活寄りの恩恵のわかりやすい魔道具というのがわかった気がする」
魔力炉開発を行っていないドーラでは、地中から魔力を集めて溜めておくマルーさんの技術を基にすりゃいいと考えている。
色々応用できるわ。
「魔力量を調節できれば、火の大きさもコントロール自在だよ。ほら、簡単クッキング。お母ちゃんの友」
「すごいアイデアです!」
「あと便利なのは冷蔵庫だな。あたしん家では不完全ながら実用化してるけど」
「氷室の一種ですか?」
「そうそう。『氷晶石』っていう、魔力に浸すと冷たくなる素材があるんだ。これがあれば、わざわざ溶ける氷なんか使わなくても食料の低温保管が可能だよ。スイーツや果物を冷やしておいしくいただくこともできる」
「ふむう」
「でも『氷晶石』はレア素材なんだよね。手に入れようと思うと難しいし、メッチャ高価なものになっちゃう。合成で作ったり簡単に手に入るもので代用したりってのを、誰かに研究してもらいたい。あと『氷晶石』使ってると家が寒くなっちゃうんだ。断熱性の高い材料も開発して欲しいな」
感心する二人。
あたしを崇めるがよい。
「冒険者も魔物倒すばっかりじゃ殺伐とするからさ。生活豊かに便利にしようと思うと楽しいよ。ルーネは冒険者になることを許されるか知らんけど、こうしたいから適したものを探すみたいな視点を持つといいと思う」
「はい!」




