第1443話:わからいでか
「敵ではないのだな?」
肯定するように、大きく首を縦に動かすプニル君。
「敵じゃないよ。理性的なウマだよ。むしろ敵扱いしちゃダメだわ。レベル九九だぞ?」
万が一暴れたら取り返しがつかないわ。
仲良くしてりゃいいわ。
「では何故に王宮へ来たのだ?」
「おいしい草が生えてるから時々来たいって言ってたよ」
「何だ、そうであったか。別に構わんぞ?」
「やたっ! よかったねえ」
『うむ、重畳である』
プニル君の耳の力が抜けた。
いい結果になって緊張がほぐれたようだ。
「何ならずっと庭にいてくれてもよいのだぞ? 我が王宮の賓客としてな」
「ひひーん客だね」
笑う王様。
プニル君も嬉しそう。
『では遠慮なく、庭に滞在することにする。さらばだ』
「じゃーねー」
軽やかに駆け去っていくプニル君。
よかったよかった。
「またユーラシアに借りができてしまったな」
「大したことじゃないからいいんだぞ? でもガリアは霜の巨人とかスレイプニルとか、面白いところだねえ」
今日はプニル君と知り合えてよかった。
ああいう子はあたしの知らんことを知ってると思うんだよね。
親しくなりたいもんだ。
霜の巨人は霜の巨人で儲かるしな。
「スレイプニルはともかく、巨人の出現は面白くないがな。で、そちらのお嬢さんは?」
「カル帝国のドミティウス主席執政官の娘、ルーネロッテだよ」
「何と、帝国の皇女であったか!」
「どうぞよろしくお願いいたします」
軽く膝を折り、楚々と挨拶するルーネ。
ふーむ、お嬢様っぽい。
「ルーネはまだ社交界デビュー前なんだって。会うこと自体が割とレアかもしれないな」
「ハハハ、そうか。で、何の用があってここへ来たのだ?」
「何ってほどのことじゃないんだけど、ルーネは冒険者志望なんだよ」
「ほう?」
王様の目がいたずらっぽく光る。
何かを察したらしい。
「あたしは模範的冒険者じゃん? だからルーネを今日明日のあたしの行動に付き合わせてくれって、お父ちゃん閣下に頼まれたの」
「デビュー前の皇女を、ユーラシアほどの冒険者の行動に付き合わせる? つまりルーネロッテ嬢はかなり冒険者に浮かされており、ドミティウス殿は娘に甘々ということだな?」
「わかっちゃう?」
「わからいでか」
これだけの情報で娘に甘々のところまで看破されたでござる。
王様やるなあ。
「せっかくだ。茶でも飲んでゆけ」
「お邪魔しまーす」
王宮の中へ。
◇
「父は先ほど、ピエルマルコ陛下をすごく高く評価していたんですのよ」
温かい飲み物をいただきながらの一時だ。
ガリアの気候だと、この季節はまだ身体の温まるものがいいなあ。
「そうか? ……ドミティウス殿には予が即位した時に大層世話になった。以来は無沙汰しているがな」
懐かしそう。
王様は主席執政官閣下に会ったことがあるんだな。
帝都メルエルとガリアの首都ヴァロマはすごく遠い。
それこそあたしでもなければ簡単に行ったり来たりできないから。
「メッチャ傑作な話なんだ。あたしさっき帝国施政館で特級聖女勲章っていうのもらったんだけど」
「うむ」
「ガリアで王様がすぐにピュアセイント勲章を新しく制定してあたしにくれたんだって話をしたら、ガリアに先を越されるとは、ピエルマルコ王侮れないって頭抱えてた」
「ハハハ、愉快だな」
「何という決断力だーってさ」
「切れ者のドミティウス殿に褒めてもらえるのは光栄だ」
ハハッ、王様上機嫌。
「しかし帝国人でかつ皇女であるルーネロッテ嬢が冒険者志望というのは意外なのだが? 差し支えなければ理由を教えてもらっていいか?」
「あたしも詳しく聞きたい。どゆことなん?」
もっとも帝国人でかつ皇女であるリリーが現役の冒険者だから、驚きゃしないけれども。
「どうってことはないんですよ。『輝かしき勇者の冒険』という、子供向けのお話がありまして……」
「『輝かしき勇者の冒険』かー」
「おお! 予も読んだことがあるぞ! ワクワクする本だ!」
「ガリアにまで悪影響を及ぼしているのか。とんでもない本だな」
王様とルーネが怪訝な顔をする。
「予想外だな? ユーラシアこそ『輝かしき勇者の冒険』に感化されているものかと思っていたぞ」
「あんな本に感化されないわ。リアリティがない。どこが面白いのかよくわからない」
大体ドーラでは出回ってない本だわ。
ますます納得いかない様子の王様とルーネ。
本物冒険者のあたしがおかしい点を指摘したる。
「冒険者は苦戦するような魔物と戦わないの。苦戦するんだったら他でレベル上げするわ。あの本でドラゴンが凶悪な魔物として描かれているせいで、ドーラが怖いところだと思われちゃう。えらい迷惑だ。いつか『精霊使いユーラシアのサーガ』を出版してあの有害図書を駆逐してやる」
「とてもユーラシアさんらしい理由で安心しました」
「『精霊使いユーラシアのサーガ』が出版されたら、予にも読ませるのだ」
「あっ、私にもお願いします!」
読者二人ゲット。
やったぜ!
「ユーラシアの用件は何だったのだ?」
「『アトラスの冒険者』のクエストでさ。いくつかガリアで面倒ごと片付けろってことらしいんだ。今日のスレイプニルもその一つだと思うけど」
「ふむ?」
「どういうクエストになるかはわかんないんだ。だから王様に用ができた時、単独でどこへでも転移できるヴィルを飛ばすよ。ヴィルがいれば遠く離れていてもあたしと話ができるの」
「ほう! 面白いな!」
「よろしくお願いしますぬ!」
「よしよし、よろしくな」
大人しく頭を撫でられているヴィル。
王様も相当楽しいんだろう。
「王様には困りごとの心当たりない?」
「ないこともない。明日……いや、冒険者に相談すべきことではないと思う」
「冒険者は何でも屋だからいいんだぞ?」
「そうか?」
「女性問題でも」
「何故わかるのだ!」
あたしのラブセンサーは優秀だから。
ほれほれ、ルーネも興味ありそう。
「明日、今日と同じくらいの時間に来ればいいかな?」
「いや、昼頃来れんか?」
「りょーかーい。昼御飯食べに来る。今日は帰るね」
「もうか? ゆっくりしていけばいいではないか」
「遅くなるとお父ちゃん閣下に叱られそうなんだよ。察してってば」
「ハハハ、大変だな」
「じゃねー」
「バイバイぬ!」
「失礼いたします」
新しい転移の玉を起動し、一旦帰宅する。




