第1440話:下手こいたプリンスルキウスが悪い
「ラグランド問題解決に対する、ユーラシア君への謝礼の件だが」
「待ってました!」
「待ってたぬ!」
「あれ、待ち構えているのかい? 意外だな」
首をかしげる閣下。
「ユーラシア君は無欲なのかと思ってたよ」
「姿形からいかにも無欲に見えるって? そんなことはないってば。閣下は突飛なことしてくるから、何をくれるか楽しみにしてたんだ」
「ハハッ、嬉しいね」
「つまんないものだったら遠慮なく評価落とすぞ?」
アルフォンス新公爵がビックリした顔してら。
あれ、いつから新公爵なんだろうな?
「デニス封爵大臣の方から発表してもらおうかな」
「緊張するなあ」
「気に入ってもらえるか、予の方が緊張するのだが」
「そお?」
あれ、封爵大臣も心なしか緊張してるやん。
心の中でドラムロール!
「騎士ユーラシア・ライム殿に、特級聖女勲章を授与いたします!」
「やたっ! ありがとう!」
「ユーラシア君の意見を参考にして、特級聖女勲章を新設することにしたんだ。気に入ってもらえて嬉しいよ。今後は功績を挙げた女性に授与することになる」
「一昨日ガリアでもピュアセイント勲章っていうのもらったんだ。これであたしは帝国とガリア公認の聖女だよ」
愕然とした顔になる閣下。
何なの?
「ピエルマルコ王か。ガリアに先を越されるとは……」
「ガリアでは何があったんですか?」
「帝国と似たような事情だよ。ガリアに霜の巨人っていう神話級魔物が現れて、『アトラスの冒険者』の緊急クエストが出たんだ」
「倒したんですよね?」
「お仕事だからね。当然謝礼が発生するじゃん? 王様がブレイブハート勲章っていうのくれようとしたんだけどさ。帝国と同じ事情で、あたしとしては勇士って評価はあんまり嬉しくなかったりするんだよ」
何でこんなのを真剣に聞いてるんだ。
わけがわからん。
「そしたら王様がすぐに、ピュアセイント勲章っていうのを新しく制定してくれたんだ。現物はまだだけど」
「何という決断力だ! ピエルマルコ王、侮れない……」
どーして閣下が頭を抱えているのだ。
記者トリオとルーネは目をキラキラさせてるし、ヴィルはぎゅーしてくるし。
「ところでルーネが施政館にいるのは何で?」
「ユーラシアさんが来ると伺いまして、話を聞きたかったのです!」
「私用じゃないか。お父ちゃん閣下の仕事の邪魔しちゃダメだぞ?」
「ダメだぬよ?」
「は、はい……」
「あたし時々皇宮正門脇の近衛兵詰め所にいるからさ。そっちに来るといいよ」
「はい!」
閣下が複雑そうな顔してる。
ルーネが施政館に来ることは公私混同扱いされそうだが、来ないと寂しいらしい。
閣下が複雑そうな顔を崩さぬまま言う。
「……ユーラシア君に折り入って頼みがある」
「何だろ?」
ちょっと内容の見当がつかない。
頼みがあるという割に、望ましいことじゃないっぽい。
しかし人払いもされない。
何だ?
「今日明日の予定はどうなっている?」
「今日はこれから冒険者ギルドで食事、午後三時以降にガリアへ行く予定だよ。明日午前中は帝国魔道研究所に用があるんだ。午後の予定はまだ決まってない」
「ガリアでは魔物退治なのかい?」
「いや、遊びに行くだけ」
「ふむ、特に危ないことはないな……」
「あたしは慎重派だから、危ないことなんか元々やる気ないってば」
メリットが未定でリスクを負うことは、期待値上で損になる。
あたしは損が嫌い。
で、一体何なの?
悩める閣下とワクワクしてるルーネ。
絵面は愉快だけど気味が悪いな?
閣下が言う。
「今日明日とルーネロッテを君のお供にしてもらえないだろうか?」
「つまりルーネにせがまれて? 冒険者の現実の生活というものを見せてやってくれってことかな?」
「ああ。どうだろう?」
閣下が断ってくれーって念じてるけど、ルーネの顔見たら断れないじゃん。
「いいよ」
「やったわ!」
小躍りするルーネ。
対照的に恨みがましい表情を向ける閣下。
でもこんなん断る理由がないからしょうがないんだって。
ルーネがしゅんとしたら、それはそれで嫌がるクセに。
どっちにしても裏目があるなら、より面白い方を選択するのがあたしの行動原理なのだ。
危険なマネをさせるな?
もちろんだってばよ。
あんまり面白そうな場面に立ち合わせるな?
そりゃ約束できないよ。
面白い話は向こうから飛び込んできちゃうんだもん。
ちげーよ! あたしはトラブルメーカーじゃねーよ!
ルーネに言っとく。
「でも冒険者って面白いことばかりじゃないよ(面白いことばかりだけど)」
「そうなんですか?」
「基本しがない何でも屋だし(何にでも関われるし)、冒険者自体の地位も高いもんじゃないし(『アトラスの冒険者』は治安維持に関わる権限を持つけど)、もちろん危険なことだってある(むしろドーラではレベル低い方が危険)」
「言外に本音が混ざってますよ」
「ルーネは鋭いな。実に冒険者向き」
「本当ですか!」
だから小躍りすんな。
閣下は恨みがましい顔すんな。
「……親としてルーネロッテに危ないことはして欲しくないんだ。ラグランドではルキウスだってケガしたんだろう?」
「あれはプリンスが下手こいたからだぞ? もっと言うと、プリンスが戦闘慣れしてなかったから。冒険者のマネ事でもできてたらケガなんかしなかったわ」
レベルは大体何でも解決するが、全てではないなあと痛感した。
「その時君はどうしてたんだ!」
「護衛対象が二手に分かれたんだもん。あたしはホルガーさんの方見てたんだ。リキニウスちゃんとルーネはプリンスとヴィルに任せてた」
「結果ルーネが危うかっただろうが!」
「危うくなんかないわ! ルーネは毛ほどもケガしてないわ!」
どーも見解の相違があるようだ。
メッチャ強度の親バカだから。
大体レベルが月とスッポンでかつ『威厳』の固有能力があったのにも拘らず、しょぼい攻撃なんか食らったプリンスルキウスが悪い。
全ての誤解の元だわ。
「とにかくルーネは預かるね」
「気をつけて行ってくるんだよ」
「はい、お父様」
ルーネの浮かれた気分を吸ってヴィルも機嫌良さそう。
代わりに閣下の視野がすげー狭くなってるわ。
アルフォンスさんも封爵大臣も記者トリオも生温かい目で見てるからな?
「暗くなる前には皇宮に返すよ。じゃねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し一旦帰宅する。




