第1439話:オードリーの幸せ
「今日はリキニウスちゃんが来てなかったな」
「オードリー様の勉強の妨げになると考えたからではありませんか?」
「かもねえ」
うっかり公爵邸から、記者トリオと話しながら施政館へ行く。
「オードリーの記録を今から取っとくといいよ」
「将来リキニウス様と結婚した時のためにですか?」
「うん。オードリーはあんまり社交界で話題にならないと思うからさ」
「何故です? 令嬢に相応しい教養を身につけるためには、帝都住みになるのではないですか?」
「オードリー王女が帝国貴族ではないからですか?」
とゆーことではないんだが。
「帝国の社交シーズンって、冬がメインらしいじゃん?」
「はい」
「寒い時期はラグランドで過ごすんじゃないかな。主にうっかり公爵の都合で」
「「「あっ?」」
「オードリーもうっかり公爵に可愛がってもらえるとは思うけどさ。親の愛を知らない亡国の王女じゃん? 結婚した時くらいドーンと特集号を出してガーンと祝ってやりたいんだよ」
頷く記者トリオ。
帝国とラグランドの絆にもなるんだから。
「ラグランドはさ、最終的に双方の儲けが一番大きくなるように決着すべきだよね」
「ユーラシアさんの考え方は、双方の利益なんですねえ」
「うん。例えばドーラなんかは、独立した今の方が帝国にとって得になってると思うよ。プリンスルキウスの手腕もあるけど、貿易額が格段に大きくなってるし」
さらっとプリンスを推しといたろ。
「植民地は独立させた方が得が大きいということですか?」
「いや、必ずしも独立させろってことではないよ。人口とか産物とか個々の事情によるじゃん? ドーラは港一つしかないわ広いわ自給自足できるわで、武力支配するのはまあムリ。魚人味方につけるだけで、艦隊なんか近寄れなくなっちゃう。魔物多いから手入れようと思ってもおゼゼかかり過ぎる。住民に任せて産物だけ交換してた方が、帝国としてはお得」
「逆に住民が苦労するでしょう?」
「もっともなことだね。だから冒険者などとゆー野蛮な職業に需要があるという」
ドーラの事情は特殊なのだ。
「ラグランドはどうなるのが理想ですか? ユーラシアさん的に」
「完全な植民地、帝国保護下での自治領、独立。帝国としては仲良くしとけばどうやったって儲け出るよね。でも反乱起きちゃうような統治だとお金かかってしょうがない。お金かかるって税金上がるってことだぞ? 帝国市民にとってよろしくないでしょ」
「わかります」
「ユーラシアさんはおゼゼって言う時とお金って言う時がありますね?」
「変なこと気にするなあ。気分だよ気分」
「どっちがいい気分ですか?」
「おゼゼの方かな」
アハハと笑いながら施政館にとうちゃーく。
「美少女精霊使いユーラシアと新聞記者トリオがやってまいりましたよ」
「やって来たぬよ?」
「はい、伺っております。こちらへどうぞ」
あれ、すぐ通されるのか。
「新聞記者さん達が一緒でいいか、確認するのかなと思ったけど」
「フリーパスなんじゃないですか? 気分いいでしょう?」
「いや、行動が読まれてるようで面白くないね」
「面白くないぬ!」
笑いながら執政官室へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、ユーラシア君。いらっしゃい」
中には主席執政官閣下と封爵大臣、知らない貴族の壮年男性とルーネがいた。
あたしに感謝している人物というのがこの貴族の男だろう。
ルーネは何の用だろ?
閣下が言う。
「彼はアルフォンス殿。グレゴール公爵の息子だよ」
「うっかり公爵の?」
「リキニウスから見れば伯父に当たる」
リキニウスちゃんの母ちゃんの兄ちゃんってことか。
醸し出す雰囲気は違うけど、うっかり公爵やリキニウスちゃんと顔の系統は似てるっちゃ似てる。
「ユーラシア殿の働きで、何を言っても公爵位から退こうとしなかった父が、ついに私に譲ってくれることになったのですぞ!」
すげー熱烈に握手してくるアルフォンスさん。
ぎゅっと握ったらうっかり公爵と同じように鳴くかなという興味が湧いたけど、ぐっと我慢した。
だってこの人善人だから。
閣下が続ける。
「通常は跡取りが一人前になったと見做されると、爵位は譲るものなんだ。崩御するまでその位にあるのは皇帝家だけで」
「私も今後は肩身の狭い思いをせずともよくなります! ありがとうございました!」
「よかったねえ」
帝国のお貴族様は、跡継ぎが決まってりゃ後見として目を光らせる余地のある内に身を引くものなのか。
跡継ぎが決まってなかったリリエンクローン辺境侯爵家は、例外みたいなものだったんだろうな。
「皇帝家は譲位の慣習がないんだ? どーして?」
「過去に皇位を譲りながら権力を手放せない父と、父の支配に不満を持つ新皇帝の息子の間で国を二つに割る内戦が起きたことがあったんだ。以来譲位は行われていない」
新聞記者が言う。
「愛する夫と息子の板挟みに遭った皇妃の悲劇として有名なのです」
「ひょっとして『慟哭のマルガレーテ』?」
「そうです。ドーラでも知られていますか?」
「いや、たまたま知ってただけ」
バアルのお宝で手に入れて、フクちゃんにあげた真珠の持ち主の皇妃か。
ドラマだけど悲劇は好きじゃないなあ。
アルフォンスさんが提案してくる。
「して、ユーラシア殿には謝礼を差し上げたいのだが」
「いらないよ。狙ってやったわけでもないし」
閣下が悪い顔してる。
まあ全然狙ってなかったというわけでもないのだ。
うっかり公爵みたいな浮ついた人が公爵なんて重要なポジションにいるのは、どう考えても帝国内部を引っ掻き回す原因になる。
リキニウスちゃんを推した次期皇帝争いを抜きにしてもだ。
ドーラにとってもあたしにとっても迷惑だしな。
閣下にとっても頭痛の種だったろうから、うっかり公爵の隠居は都合がよかったろう。
皆が喜ぶことだ、めでたしめでたし。
「感謝すべきことです。あまりにも申し訳ないが」
「いいんだよ。うっかり公爵を辞めさせたことを感謝されるなんて、何だか変な気分になるし。お礼というなら、オードリーを可愛がってやってよ」
「王女殿下ですな? もちろんですぞ」
新聞記者に目で合図しておく。
こんなん面白おかしく記事にするんじゃないぞ?
間違ってうっかり公爵が隠居取りやめとか言い出したら、各方面から集中砲火だぞ?




