第1438話:ユーラシアは鬼じゃ!
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、精霊使い君。皇宮へようこそ!」
「あれ、いつもとパターンが違うね。頭でも打った?」
「打ってないよ! 全く失礼だね」
「あんたを心配したんだぞ?」
皇宮へやってきたら、サボリ土魔法使い近衛兵のノリが変なのだ。
まるでカトマスのビレッジネームテラーイケてるおっちゃんのようなテンションじゃないか。
「たまにはサービスしようかと思ったんだ」
「サービスだったのか。殊勝な心がけと言えないこともないけれども、あんたはサボって最小限の仕事をするキャラなんじゃないの?」
「どんなキャラだと思われてるんだ。勤労精神に目覚めることだってあるだろう!」
「勤労精神に目覚めてこれかよ。給料を返上した方がいいぞ?」
「勘弁してくれ」
「勘弁するぬ!」
アハハ、ヴィルが裁定者だった。
「今日は施政館に呼ばれてるんだ」
「聞いたよ。ラグランド蜂起事件の決着に多大な功があって金一封をもらえるとかいう話なんだろう?」
「金一封なのかな? それはそれで嬉しいな」
主席執政官閣下は意外なものをくれる気がしているが、おゼゼでも十分満足なのだ。
何たって使いでがあるから。
「新聞屋も来ているよ」
「昨日も会ったところなのに、新聞記者トリオはすげえ仕事熱心だな。見習えば?」
「ええ? 給料分以上働くなんてのは俺の人生にないんだよ」
「もうちょっとあんたの勤労精神の尻を叩いてやりたい」
アハハと笑いながら近衛兵詰め所へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「「「ユーラシアさん!」」」
「記者さん達は勤労精神旺盛だね。感心感心。今から施政館行くけどどうする?」
「「「連れてってください!」」」
施政館へゴー。
◇
「帝都ではラグランドに関する関心が高いんですよ」
「そーなの?」
新聞記者トリオと施政館へ行く途中、図らずもラグランドの話題になった。
あたしの中では円満に終了したクエストなんだが、世論としては終わったことになってないらしい。
「ラグランド人に対して同情的な意見がほとんどですね」
「ラグランドに対する圧政は果たして人道的であったかと、施政館に対する不満も噴出しております」
「あんまり煽ると新聞潰されるから注意だぞ?」
「わかっております」
思ったより施政館に大きな打撃だな。
「ちなみにラグランドとの交渉を実質的に仕切ったプリンスルキウスはどう思われてる?」
「温情を示した内容で、しかも素早く交渉を終えたということで高評価ですよ」
「待望論も出始めてますね」
「うんうん、よしよし」
プリンスが次席執政官に復職するまでまだ時間がある。
もうちょっとラグランドの話題が長引いて、現政権がダメージ食ってる方が都合よさそうだな。
「大衆の知りたいことを記事にするのはジャーナリストの使命だね。通り道だから、うっかり公爵邸を覗いていこうか。オードリー王女を捕まえれば記事にできるかもよ」
「そうですねっ!」
「グレゴール様は公爵から退かれることが決定したんですよ」
「ふーん、やること早いな」
自身がラグランドに行くって決めたから、公爵位を息子さんに譲るってことか。
まあ公爵に伴う義務や責任なんて、すっとこどっこいさんが負わない方が皆のためだわ。
さて、公爵邸に着いたぞ。
あれ、今日は門番がいないな?
どーした?
「ヴィル、オードリーにあたしが来たぞって伝えてくれる?」
「わかったぬ!」
「オードリー様っ! お待ちくださいませ!」
「嫌なのじゃ! 待たないのじゃー!」
「え? 何事?」
ヴィルを行かせるまでもなかった。
オードリー飛び出してきたじゃねーか。
「あっ、ユーラシア! よく来た! いつ来るかと楽しみにしていたのじゃぞ!」
「よしよし、あんたは可愛いな。ところでどーしたの? 大騒ぎになってるじゃん」
オードリーを捕まえるのに門番も動員されてたのか。
オードリーの逃げ足速いな。
追いかけてきた侍女達が困った顔してるぞ?
「皆がわらわを虐めるのじゃ!」
「新聞記者さん達が大喜びしそうな話だね。で、本当のところは?」
侍女の一人が言う。
「オードリー様にはリキニウス様のお相手として相応な教養を身につけていただきたく……」
「うっかり公爵に言われたの?」
「はい」
「うんうん、必要なことだね」
「ユーラシアまでわらわを虐めるのか!」
「こらこら、あたしは児童虐待者じゃないぞ? で?」
「読み書きを早急に覚えさせよとの、旦那様の仰せなのです」
「早急にって、具体的にいつまでとか言われてる?」
「一〇日でと」
ははあ、ラグランドに帰すまでに何とかってことか。
わからんではないけど急ぎ過ぎだわ。
うっかり公爵は相当せっかちだな。
「苦しいのじゃ、堪えられないのじゃー!」
「オードリーは賢い子だけど、常識で考えて一〇日で読み書きマスターさせるのはムリだろ。可能だと思ってた人いる?」
「「「……」」」
俯く侍女達。
教育の専門家でもあるまいし、ただ詰め込もうとしたってダメだわ。
「でも読むところまでなら一〇日もかかんないと思うぞ?」
「「「えっ?」」」
「ユーラシアは鬼じゃ!」
「違うとゆーのに。あたしは鬼ではなくて聖女だとゆーのに」
「ユーラシアさん、あれですね?」
新聞記者は気付いたようだ。
ドーラからの輸出品のあれ。
ナップザックから取り出す。
「オードリー、これあげる」
「……何じゃ、これは?」
「『文字を覚えるための札取りゲーム』だよ。これ何の絵だ?」
「……タマネギじゃろ?」
「そうそう。裏にも同じ絵が描かれていて、『た』『ま』『ね』『ぎ』っていう字も書かれている」
「何の絵かわかれば、字もわかるのじゃな?」
「そゆこと。こっちには字札もあるからね。『た』『ま』『ね』『ぎ』の三文字目、とかで札を取る遊びだよ。字を覚えないと勝てないぞ?」
「負けるのは嫌いなのじゃ! 頑張って覚えるのじゃ!」
ハハッ、やる気になったようだ。
侍女達にも言っとく。
「オードリーに付き合ってこれで遊んであげてね。じっちゃんには読みまでは覚えさせましたって言っとけばいいよ。オードリーがじっちゃんに読めるようになったこと自慢すれば、目尻下げて喜ぶに決まってる」
「はい、ありがとうございます!」
「じゃーねー」
「バイバイぬ!」
「また来るのじゃぞ!」




