第1433話:ラグランド総督府と行政府に連絡
『ユーラシア君ですか?』
「そうそう、優雅にして高貴なあたしだよ。こんにちはー」
帝都のユーラシア教会から帰ったあと、ヴィルを介してラグランド総督ホルガーさんと連絡を取る。
「今のラグランドの状態はどうなってるかな?」
『蜂起は完全に鎮静化しておりますぞ』
「うんうん、計算通り。全く問題なさそーだね」
『リキニウス様とオードリー王女の婚姻に対する期待値が異常に高いのですが……』
やはり二人の仲と現在の状況は、ホルガーさんの不安要因か。
ラグランドから見えない部分だもんな。
「オードリーはすごく元気にしてるよ。うっかり公爵邸でお世話になってるんだ。うっかり公爵もオードリーにデレデレで、全然問題ないな」
『さようですか。良きことですな』
「あ、でも侍従のセグさんがぎっくり腰やって寝込んでたわ」
『ハハッ、環境が変わって気を使ったのかもしれませぬな』
「オードリーをラグランドに帰す時に、リキニウスちゃんとうっかり公爵も行くって言ってた」
『えっ?』
「ホルガーさんもやっぱ危ないと思う?」
『蜂起が沈静化していると言っても、反帝国感情は強く、根深いですからな』
わかる。
リキニウスちゃんとオードリーの結婚への期待値が高いのは事実だろう。
一方で憎っくき帝国支配者の一族を上に戴く現実に対しては、複雑な思いがあるに違いない。
「まー時間が解決するとは思うけど、刺激的なインパクトがないと状況がなかなか変化しないってこともあるんだよね」
『リキニウス様とグレゴール公爵のラグランド滞在が起爆剤になり得ると?』
「どーだろ? わかんないけれども」
うっかり公爵が目立つのは事実なのだ。
いい方の目が出れば、ラグランドのシンパシーを得られるんじゃないかな。
うっかり公爵がラグランド人の感性に嵌らなくても、リキニウスちゃんが見るからにメッチャ可愛いのは否定しようがないし。
『リキニウス様とグレゴール公爵は、いつ頃お越しになりますか?』
「まだ決まってないんだ。一〇日後くらいに出航したいって話だった」
『船ですか?』
「うん。オードリーが船に乗りたいみたい。この辺の話は、ラグランド人の首脳部にも話しといてよ。セグさんがぎっくり腰やっちゃって今動けないって話も含めて」
『ハハハ、了解です』
オードリーが帝都で歓迎されてるのはいいことだ。
和やかな話をラグランド首脳とできるのもまたいいこと。
親睦を深めておいてくださいな。
「ところでホルガーさんのラグランド総督の任期っていつまでなの?」
『海霧の月末ですよ』
「来月末かー。わかった、ドーラもそのつもりでいるね」
ホルガーさんはラグランド総督任期満了後は、在ドーラ大使の予定なのだ。
『ユーラシア君の方は変化ないですか?』
「明日施政館に呼ばれてるの。ラグランドの件で褒美もらえるみたいだから楽しみ」
『十分以上の働きはしていますからな』
「じゃ、ホルガーさん、またね」
『ではまた』
「ヴィル、ありがとう。行政府行ってくれる? パラキアスさんか、いなければプリンスルキウスで」
『わかったぬ!』
ヴィルはいい子だ。
しばし待つ。
『御主人! パラキアスだぬ! 代わるぬ!』
「パラキアスさん、こんにちはー」
『ちょうどよかった。話を聞きたかったんだ』
「えっ? 何の話だろ?」
『ラグランドの顛末だ。どうなった?』
プリンスから話は聞いてるだろうけど、その後が気になるってことか。
「今総督のホルガーさんと連絡取ってたところなんだ。ラグランドは完全に落ち着いてる。リキニウスちゃんとオードリーの婚約に対する期待値がすごく高いって」
『帝都はどうだ?』
「ラグランドの決着についての世論ってことならわかんないな。明日施政館行くから、新聞記者に聞いとくね。うっかり公爵がオードリーのことすごく可愛がってて、オードリーを送りがてらラグランド遊びに行くそーな。一〇日後くらいに出発予定」
『ふむ、混乱する要素はなさそうか』
「今のところあたしに見えてる範囲では、平気だな」
『どう思う?』
どうって何がだ?
ラグランドの今後か?
「今回ラグランド側の要求としては何も出なかったけど、自治が強まるのは間違いないんじゃないの? ドーラからはいずれ穀物を輸出したいね」
『自治要求か。紛争の火種が残っていると考えるのか?』
「ラグランドの現地人首脳はプリンスルキウスを見てるじゃん? 『威厳』の効果に当てられてるんだよね。プリンスが次期皇帝なら、帝国領ラグランド自治王国で治まっちゃいそう。主席執政官閣下が次期皇帝だとわからんけど」
『参考になった。『威厳』は偉大だな』
マジでそう。
国のトップが高レベル『威厳』持ちならイージーモードだぞ?
ただ素質のある人物が必ずしもトップになれるとは限らないところが難しい。
『ユーラシアの方から聞きたいことはあったかな?』
「今月の移民っていつ来るんだっけ?」
『今日タムポートを出航ではないかな。四日後到着予定だ』
「四日後ね。パラキアスさんが前に言ってた、ケイオスワードを理解してスクロールをチェックできる人材って移民なの?」
『言ってなかったか。移民で来ることになっているから、面倒をみてやってくれ』
やった!
飼い馴らせばスキルスクロール生産の不安要素が小さくなるぞ。
「どんな人?」
『名はエメリッヒ・ギレスベルガー。元宮廷魔道士だ』
「貴族っぽい名前だね?」
『ああ。貴族出身者としては珍しく研究の方に熱心で、魔道研究所に住み込んでいたそうだ。しかし帝国は、兵器や防衛、安全に関わるもの以外では予算が下りづらいらしい。嫌気がさして宮廷魔道士を辞職した』
「貴族なのに何でドーラに来るの? 家庭の事情?」
『正解だ。それゆえ研究に打ち込んだということもあるんだろう。ホームレスだったところを拾った』
「ええ? 極端だな」
知識さえ確かならまあいいや。
喜んで戦争の研究したがる人よりよっぽどマシ。
エメリッヒさんが研究したかったことって何なのかな?
おゼゼになりそーなことだったら、あたしがバックアップしたるわ。
「盾の魔法のスクロール納品が近日中になりそう」
『了解だ。金は用意しておこう』
「報告終わり。パラキアスさん、じゃーねー」
『うむ、またな』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』




